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第五話『美永姫美の不幸』

【1】

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『私の弟子達が到着したら、線路ぶっ壊して新幹線の動き止めたいと思うから、今すぐ駅に来てちょうだい』と、昼頃に冥から電話が入った。

『あ、昼ご飯は食べて来てねー』

「う、うんー……」

 濁った返事をし、怜は通話を切った。

 美永が「冥さん、何て言ってたの?」と聞くと怜は答える。

「あの新幹線に動き回られると、新しい人が入って来て、守るべき人達が増えるでしょー?」

「うん、まぁ、そうね」

「一々、新幹線が到着する時間帯にー、そっち行って下りた人達守るーなんてしたら捜索が捗らないじゃんー?」

「その通りね、一理あるわ」


「だから線路をぶっ壊すんだってさー」


「えぇっ!?」美永は飛び跳ねた。それはそうだろう。

「そ、そんな事して大丈夫なの!? 犯罪じゃ……」

「大丈夫だと思うよー、だってー、聞く所によるとー、この件の依頼者って国のお偉いさんみたいなんだよねー……人命を守る為ーっとか適当に言っておけば許してくれるでしょー? って姉さんは言ったよー」

「ご、豪快ね……」

「まぁー……利にはかなってるんだけどー……ボクには簡単に実行に移せない行動ではあるねー……ま、すぐに破壊とかはしないらしいからー……ご飯食べてゆっくり行こー」

「う、うん……」

 こうして、二人は昼食に入る事にする。

 立ち寄ったのはコンビニ。因みに今は店員さんや他のお客さんは避難しており、怜と美永の貸し切り状態となっている。

 寂しげに、商品だけが陳列している。

 怜と美永は、その中から少々賞味期限が切れても食べられそうな物をチョイスした。

「これ食べられそうー?」

「うん、大丈夫そうじゃない?」

「これはー?」

「これは……ちょっと……乳製品だし……」

 等など……二人が共同で選ぶ。

 その後、コンビニ内のカフェスペースのような場所で並んで椅子に座り、選んだお握り等を食べる。


「美味しかったねー、賞味期限を少々過ぎても食べれる物は食べられるんだねー」

「そうね、でも、あまり真似はしないで欲しいものね」

「誰に?」

「読者に」

 といった会話をしつつ、二人は、たまたまコンビニに並んでいた自転車を拝借し、自転車を漕ぐ。

 ちゃんと、自転車が置いてあった場所に『自転車お借りします。この件が終わったら返します。』と貼り紙を残している。

 二人もそろそろ、歩くのが限界だったのだ。……主に美永が。

「てゆーか美永さーん」

「なぁに?」

「そもそも何でこんな所に来てたのー? ここに居ること知ってー、最初びっくりしたんだけどー?」

「あぁ……今、夏休み中じゃない? だから気晴らしに旅行でも、と思ってね……ま、旅行先で、不幸にもこんな目にあっちゃってる訳だけれど……」

 ズーンっと落ち込む美永。

「あ、あれー!? ボク今トラウマスイッチ押しちゃったー? げ、元気だしてよー!」

「もういい……もういいわ、この話はやめましょ……グへへへへ」

「はっ! 美永さんの綺麗な顔からは想像出来ない不気味な笑いが溢れ出てるー! うん! やめるからー! この話やめるからー! もうトラウマ抉ったりしないからー!! 正気に戻ってよー! 美永さーん!」

「グヘッ、グへへへへへへへ」


 そんなやり取りをしつつ、二人は駅へと辿り着いた。

 怜が美永を抱き抱え、改札口を飛び越えた先に、新幹線が到着予定の駅のホームへ足を運ぶ。

「どんな人なの? 冥さんの弟子って」

「んー? そうだなー、テンパり屋さんと報われない男って言うと分かりやすいかなー?」

「何それ? 大丈夫なの? その人達……」

「まー、姉さんの弟子だけあってー、腕は確かだよねー、実力だけは、ボクら六強に次ぐと思うよー」

「ふぅん……」

 二人が階段を下り、ホームへ到着すると「よっ、日本が誇る美男美女カップルの登場ね!」「ヒューヒュー」先に着いていた冥と天地が、そんな風に茶化す。

「美永さんとカップルー!? 嬉しいなー!」

「ちょっと……何喜んでんのよ……バカ」

 冷やかな目で怜を見つめる美永。

 すると丁度、新幹線が到着。

 新幹線内から数名の人が下りて来る。

 当然、お守りも何も持っていないその人達の元に、あの禍々しい拳銃が現れる筈……身構える怜達。


 しかし――

「あれれー? 出て来ないぞー?」

 あの拳銃が出現しない。

 出る素振りもない。

 首を捻る面々。

 何も起こらなかったが、念の為に、下りて来た一般人の人達に、身から離さないで下さいとの注意事項と共にお守りがてら、御札を渡したのだったが……

「これはまずいわね……」と、冥は思考する。

「何がまずいんですか?」美永が訪ねようとした、その時だった。


「師匠ー!」と、声が上がったのだった。

 四人が振り向くと、そこには女一名、男一名の計二名が立っていた。

「師匠! 私――貼薙遙《はるな はるか》! 途中、乗る新幹線を間違えるというミスはありましたが、無事到着しました!」

「同じく、札月三月《ふだつき みつき》! 遙のおっちょこちょいのせいで遅れましたが! 無事到着致しました!」

 礼儀正しく挨拶する弟子二名に対して冥は……

「うん、遅れたのは知ってるし、無事到着したのも見れば分かる。罰として腕立て百回しなさい、今すぐに! さぁ!」

「はい!」と返事し、弟子二人は駅のホームで腕立てを始めた。


 冥は意外と鬼上司だったのだ。
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