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第二話『幽野怜と表の世界』

【9】

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 睨み合う、怜と男子小学生の霊――

 怜の身体から白い蒸気が溢れ出る。戦闘モードだ。

 対して男子小学生の霊は、自分の背中に背負うように――ランドセルを召喚した。

 黒いランドセルを。

「さぁーて、僕は今まで二十人程のゴーストバスターを狩って来た訳だけど……お兄さんは楽しませてくれるのかなぁ?」と、男子小学生の霊がニタァと不気味な笑みを浮かべたその瞬間――


 男子小学生の霊は前屈みになり、ランドセルの入り口を怜に見せた。

 するとランドセルの中から、ぎゅーんっ! と長いリコーダーが伸びて来た。

 そのリコーダは、普通のリコーダーのサイズではなく、決して普通の人間には吹いて音を出せそうにない、大きく、太い――まるで人を殺す為にある様な物だった。

 そのリコーダーは一直線に怜へと向かう、直撃すれば容易く怜の身体を貫通する事だろう。

 容易くそれを躱す怜。

 リコーダーの下を潜り、猛ダッシュし接近を試みる。

 しかし、怜の視界の右端に白い物が現れた。


 給食袋のような物だ。

 それは男子小学生の霊が背負う、ランドセルのキーホルダーを装着べき場所から伸びている。

 まるで怜を薙ぎ払うかのように――鞭のように――真横に振られている。

「…………」

 怜は咄嗟に右手でその給食袋のような物をガードする。

「ぐっ!」その給食袋のような物は重く――


 怜は姿勢を崩す。

 ここは階段である。姿勢を崩すと当然、足場を失う。急いで宙に浮いた身体の姿勢を取り直した。

「うーん……やっぱり階段だと戦いにくいなぁー……」

 怜にとってシチュエーションは最悪。

 しかし、男子小学生の霊にとっては、このシチュエーションは最高のシチュエーションだった。

 当然だ、ここは彼の――霊空間なのだから。

 男子小学生の霊――彼が作り出した、彼の為の空間。

 よって、怜が足場を崩すのも想定済みだ。

 姿勢を取り直した所を狙い済ましたように、再び、大きなリコーダーが彼へ向けて襲い掛かる。

「…………」

 怜はジャンプして、その攻撃を躱す。

 そしてそのまま、伸びたリコーダーの上を駆ける。

 その様子を見ていた男子小学生の霊は、「へぇー」と感心している。

「僕の必殺コンボにそんな避け方があったんだねぇー、勉強になったよー」

「そりゃ良かったねー!」

 リコーダーの上を駆けつつ、怜は再度ジャンプする。そしてそのまま男子小学生の霊の顔面目掛けキックを放った。

 男子小学生の霊も、容易くそれを躱す。

 怜のキックは空振りとなり、壁に激突。

 大きな物音と共に、壁が激しく破壊する。


「あー……ホント見事に避けられたねー……流石はAレベルの幽霊だ……一筋縄ではいかないねぇー」

「そっちも中々の強さのゴーストバスターだねぇ、今まで二十人中、十五人ものゴーストバスターを始末して来た、初見殺しコンボをこんな風に破るだなんて、褒めてあげるよ」

「…………そのさぁー、その二十人殺したっていうの自慢げに話すの止めてくれないー? 見ず知らずの人とは言え、一応同僚で、仲間だからさぁー……何かこう――


 腹が立つからさぁー」

 怜は、怒気のこもった表情になった。

「アッハッハッハッハ! ごめんごめん、そう怒らないでよー、でもねー? 強い人間を倒せたんだよ?


  ――自慢するに! 決まってんじゃーん!!」


 男子小学生の霊は満面の笑みで、今度はリコーダーと給食袋のような物を一度に放って来た。

「その笑顔――腹が立つねぇー」

 怜の両手に白い蒸気が集まり――黄金に光り出す。

 そしてその黄金に光る両手で、リコーダーと給食袋のような物をそれぞれ殴り落とす様に破壊した。

「なっ!?」男子小学生の霊の目が大きく開かれる。


「悪いけど――お前は簡単には殺さないよー?」

 怜の右手が更に光る。

 そして、男子小学生の霊には背を向け、階段の下に佇む闇に向けて右拳を一直線に放った。

 まるでレーザービームのように、怜の右手から黄金の光が放たれる。

 闇に直撃すると眩い光を放ち――


 闇を追い払った。


「なぁ!? ぼ、僕の霊空間が! ぼ、僕の世界が!!」

 霊空間の解除――即ち、上がっても上がっても二階へ着かない、下りても下りても下りても一階へ着かない――という状況を打破した、という事だ。

「おのれぇ! ゴーストバスターぁ!!」

「何怒ってんのー? 階段は登れば上の階に着くし、階段は下りれば下の階へ着く――当然の事だよー? 怒る事なんて何もないじゃーん」

「抜かせ!」

 男子小学生の霊は、リコーダーを怜へ向け放った。

 怜はそれを避けずに右手で受け止めた。

「なっ!?」

 そして左手も加えて、怜はまるで振り回すかのように男子小学生の霊を、リコーダー諸共真上へ放り投げた。

「ぐわぁぁあ!!」男子小学生とリコーダーは、激しく天井を破壊する。

 二階の天井、三階の天井を突き破り、男子小学生の霊は外へ――屋上へと投げ出された。

「ぐぅぅう……!」

 屋上の床で蹲る男子小学生の霊。

 怜は、階段から一飛びで屋上へと着地する。

「さぁーて、もう良いんじゃないー? もう勝負ついたっしょー、さっさと、何でここに来れたのかー……その理由を話してくんなーい? ま、察しはついてるけどねー。その後ちゃーんと――

 死んだ仲間と――


 痛め付けられた友達の仕返しをするけどさぁー!」


「ぐぅぅ!」フラフラと、立ち上がる男子小学生の霊。

「あれー? まだ戦うつもりなんだー……懲りないねぇー」

「まだ、だ……まだ僕は負けてない!!」

 ランドセルの中から、大きな筆箱が現れる。するとその中から、大きな鉛筆、三色ボールペン、コンパス、分度器、三角定規、消しゴム、ハサミが出現した――

 それらは、男子小学生の霊のものであろう神通力でふわふわと、男子小学生の霊の上空に浮いている。

「どうだ! これら全てがお前を襲う! 逃げる事は出来ないぞ!! 降参しろ!!」

「降参? する訳ないじゃーん」怜は再度右手に黄金の光を貯める。先程の黄金レーザーを放つ為だ。

「降参すれば見逃してやる! だから降参しろ!!」

「だからー、降参なんてしないってばー」

「降参しろってばー!!」

「しなーい」怜の右手が動く。

 それを察知したのか、男子小学生の霊はやけくそに――上空の文房具達を怜へ向け放った。

 しかし男子小学生の霊はその後冷静になった。


 あの光のレーザーは凄い威力だけど、一直線にしか飛ばない――ならば、全ての文房具をバラバラに襲いかからせれば、捌ききれずにどれかは直撃させる事が出来る筈だ!!

「最後の最後で侮ったなぁ!! ゴーストバスターぁ!!」

 思考通り、男子小学生の霊は大きな文房具をバラバラに怜へ向ける。

 しかしそれを見た怜はニヤリと笑う。
 右手を振るった際、握っていた拳を広げる――グーからパーへと。


 次の瞬間、放たれる黄金のレーザーが五つに分かれた。


「はぁぁあ!?」男子小学生の霊――絶句。


 その五つのレーザーそれぞれが、文房具を破壊していく。

 消しきれなかった文房具は、まるで縄跳びを回すかのように、発射口となっている右手を回す事で破壊した――

 そして怜は再び――パーをグーへと戻す。

 すると再び黄金のレーザーは一直線になった――それを今度は、真下にいる男子小学生の霊向けて振り下ろした。

「あぎゃっ!!」

 男子小学生の霊の体は――頭から股にかけて……まるで刀で一刀両断されたかのように――


 真っ二つになったのだった。
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