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8.終息と休暇
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「……で?」
あれから下着を無事に返してもらい、物品庫を出た私たちはあの頃のように、当然にMUTOに来た。
旺ちゃんはソファにドスンと座り、タバコを吸い始める。
…一年前に何度も見たその懐かしい光景。
「…明日からお前は1ヶ月自由。だからお前の行きたいところ全部行こ。連れてってやるよ、どこでも」
胸ポケットからまた取り出す飛行機のチケット二枚。
「…でも私外国とか行きたいけど、言葉わかんない」
「大丈夫。俺がいる。これでも帰国子女」
「は?」
キコクシジョだと??
「怜と知り合う小学校に転校してくる前まで、親の仕事の都合でずっとイギリスにいたからね」
「え?」
「英語はもちろん、イタリア、フランス、スペインあたりはだいたい日常会話くらいは困らない」
…意味がわからない。
なんなの、こいつ。
もはや誰?
本当に旺ちゃんなのかさえ、怪しくなってきた。
「まあ、もう出張ホストとゆう名の男娼はやめたし、これからはのんびり翻訳の仕事でもするかな。」
…は?何言ってんの、この人。
翻訳?
できんの?そんなこと。
実は頭よかったの?
ってかそんな都合よく仕事見つかるの?
「ところで、お前は?」
「は?何が?」
「もう…お母さんの死は乗り越えれてんじゃねーの?よくわかんねーけどさ」
「…さあ……どうしたら乗り越えられたことになるかもよくわかんないけど」
わからないけれど、なんとなく慣れてしまったこの仕事を続けていただけだ。
まあたしかに言われてみれば、あの時の夢はもう見ない。
「…風俗嬢やめれば?まあお前の自由だけど。………ってか、そろそろ俺が限界なんだけど」
「なんでアンタが」
「…言われなきゃわかんないの?」
旺ちゃんは急に立ち上がり、早口で喋り出す。
「…怜に似てるなーと思って見ていた女に本気になっちゃって、しかもその女が風俗嬢で、嫉妬に狂いそう、ってか狂ってたから、あんな横暴なやり方でしか気を引かせられませんでしたー。その女に風俗から手を引いて欲しくて、蓮二さんに話してみたら、そいつに辞められたら大損害だからお前が金用意しろ、みたいなこと言われましてー。まあ近くにいたら嫉妬に狂いそうだったから、あえて違う街に行って死ぬ気で働いてましたー」
そう言って、私に近づいてくる。
急にめっちゃ喋るじゃん。
「…これで満足ですか?」
「えっ、じゃあアンタが染井吉野を去ったのは、地元に帰るわけじゃなかったの?」
「……まー、怜の親には会ってちゃんといろいろ伝えたけど。それだけなら別に染井吉野からいなくならなくてもいいだろ。」
「まあそうだけど…残る理由がないから帰ったんだと思ってたけど…」
「ありまくりだろ、ばーか」
「…え、」
「染井吉野には、お前がいる。あのまま一緒にいたら…たぶん嫉妬しすぎて、ヤバイ奴になってた気がする」
「今でも十分ヤバイ奴だけど…」
「ああ!?」
旺ちゃんは私をベットに強引に押し倒した。
「…大事な話してんのに、…虐められたいの?」
「違うって、やめっ、………ああ!」
旺ちゃんは私の二の腕に噛み付いた。
久々に感じるその痛み。痛さと懐かしさで涙が出てきた。
「…泣いてんの?いいね、そそる」
「………変態鬼畜ドSめ…」
涙目で睨みつけるも、旺ちゃんは楽しそうに笑うだけだ。
その涙を旺ちゃんは指で拭うと、横たわる私の横に座った。
そして私の頭を撫でる。
「…ふふ、まあいいや。金はもう蓮二さんに払ってきたから、あとはお前次第。仕事はやりたければ続ければいいし、やめたければやめていい。…どちらにせよ、まあここまできたら俺はお前を離す気はないけど」
「…………」
…この1年あれだけ会いたいと願っていた人が、今目の前にいる。
なのに、私は変に冷静で落ち着いていた。
「…なんで、旺ちゃんは金貯めるためとないえ、そんな仕事選んだの?」
「なんでって…お前の苦労を少しは知りたいな、と思ったから」
「………そんな苦労わからなくていいよ」
「は?」
旺ちゃんは頭を撫でる手を止めて、私を見た。
「……他の女のこともそうやって…その、虐めたりとか攻めたりとか、頭撫でたりとか…したんでしょ」
「そりゃあね。ドS王子様って売り込んでもらってたからねえ」
「……」
「…ああ、お前も嫉妬とかすんだ」
「………してない」
起き上がりベットから離れようとする私の腕を掴み、自身の太ももの上に乗せて誘導する。
旺ちゃんの上に乗っかる私。
「……可愛いね、まひる」
「……」
可愛い?
…………旺ちゃんから初めて言われるその言葉に、少し戸惑う。
そんなこと言うキャラでしたっけ。
旺ちゃんはそのまま私をギュウと抱きしめた。
「………ただいま、まひる」
「………おかえり、旺ちゃん」
自然とそう言い返してしまった。
あれから下着を無事に返してもらい、物品庫を出た私たちはあの頃のように、当然にMUTOに来た。
旺ちゃんはソファにドスンと座り、タバコを吸い始める。
…一年前に何度も見たその懐かしい光景。
「…明日からお前は1ヶ月自由。だからお前の行きたいところ全部行こ。連れてってやるよ、どこでも」
胸ポケットからまた取り出す飛行機のチケット二枚。
「…でも私外国とか行きたいけど、言葉わかんない」
「大丈夫。俺がいる。これでも帰国子女」
「は?」
キコクシジョだと??
「怜と知り合う小学校に転校してくる前まで、親の仕事の都合でずっとイギリスにいたからね」
「え?」
「英語はもちろん、イタリア、フランス、スペインあたりはだいたい日常会話くらいは困らない」
…意味がわからない。
なんなの、こいつ。
もはや誰?
本当に旺ちゃんなのかさえ、怪しくなってきた。
「まあ、もう出張ホストとゆう名の男娼はやめたし、これからはのんびり翻訳の仕事でもするかな。」
…は?何言ってんの、この人。
翻訳?
できんの?そんなこと。
実は頭よかったの?
ってかそんな都合よく仕事見つかるの?
「ところで、お前は?」
「は?何が?」
「もう…お母さんの死は乗り越えれてんじゃねーの?よくわかんねーけどさ」
「…さあ……どうしたら乗り越えられたことになるかもよくわかんないけど」
わからないけれど、なんとなく慣れてしまったこの仕事を続けていただけだ。
まあたしかに言われてみれば、あの時の夢はもう見ない。
「…風俗嬢やめれば?まあお前の自由だけど。………ってか、そろそろ俺が限界なんだけど」
「なんでアンタが」
「…言われなきゃわかんないの?」
旺ちゃんは急に立ち上がり、早口で喋り出す。
「…怜に似てるなーと思って見ていた女に本気になっちゃって、しかもその女が風俗嬢で、嫉妬に狂いそう、ってか狂ってたから、あんな横暴なやり方でしか気を引かせられませんでしたー。その女に風俗から手を引いて欲しくて、蓮二さんに話してみたら、そいつに辞められたら大損害だからお前が金用意しろ、みたいなこと言われましてー。まあ近くにいたら嫉妬に狂いそうだったから、あえて違う街に行って死ぬ気で働いてましたー」
そう言って、私に近づいてくる。
急にめっちゃ喋るじゃん。
「…これで満足ですか?」
「えっ、じゃあアンタが染井吉野を去ったのは、地元に帰るわけじゃなかったの?」
「……まー、怜の親には会ってちゃんといろいろ伝えたけど。それだけなら別に染井吉野からいなくならなくてもいいだろ。」
「まあそうだけど…残る理由がないから帰ったんだと思ってたけど…」
「ありまくりだろ、ばーか」
「…え、」
「染井吉野には、お前がいる。あのまま一緒にいたら…たぶん嫉妬しすぎて、ヤバイ奴になってた気がする」
「今でも十分ヤバイ奴だけど…」
「ああ!?」
旺ちゃんは私をベットに強引に押し倒した。
「…大事な話してんのに、…虐められたいの?」
「違うって、やめっ、………ああ!」
旺ちゃんは私の二の腕に噛み付いた。
久々に感じるその痛み。痛さと懐かしさで涙が出てきた。
「…泣いてんの?いいね、そそる」
「………変態鬼畜ドSめ…」
涙目で睨みつけるも、旺ちゃんは楽しそうに笑うだけだ。
その涙を旺ちゃんは指で拭うと、横たわる私の横に座った。
そして私の頭を撫でる。
「…ふふ、まあいいや。金はもう蓮二さんに払ってきたから、あとはお前次第。仕事はやりたければ続ければいいし、やめたければやめていい。…どちらにせよ、まあここまできたら俺はお前を離す気はないけど」
「…………」
…この1年あれだけ会いたいと願っていた人が、今目の前にいる。
なのに、私は変に冷静で落ち着いていた。
「…なんで、旺ちゃんは金貯めるためとないえ、そんな仕事選んだの?」
「なんでって…お前の苦労を少しは知りたいな、と思ったから」
「………そんな苦労わからなくていいよ」
「は?」
旺ちゃんは頭を撫でる手を止めて、私を見た。
「……他の女のこともそうやって…その、虐めたりとか攻めたりとか、頭撫でたりとか…したんでしょ」
「そりゃあね。ドS王子様って売り込んでもらってたからねえ」
「……」
「…ああ、お前も嫉妬とかすんだ」
「………してない」
起き上がりベットから離れようとする私の腕を掴み、自身の太ももの上に乗せて誘導する。
旺ちゃんの上に乗っかる私。
「……可愛いね、まひる」
「……」
可愛い?
…………旺ちゃんから初めて言われるその言葉に、少し戸惑う。
そんなこと言うキャラでしたっけ。
旺ちゃんはそのまま私をギュウと抱きしめた。
「………ただいま、まひる」
「………おかえり、旺ちゃん」
自然とそう言い返してしまった。
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