ドMなんかじゃない

みきてぃー。

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6.混沌と失意

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『まひる、逃げるよ…』

目の前に白いワンピースを血で真っ赤に染めた女が現れた。

…!?びっくりした…

その血まみれ女は、私のお母さん。
お母さんは愛おしげに私の頭を撫でてきた。

『…まひる、アンタに私の全てをあげる』

お母さんはまた優しく、笑う。
声を出そうとしても声は出せなかった。

『…染井吉野の海岸。大きな桜の樹の下。そこに私の全てが眠ってる。
困ったらそれを掘り起こして。それは必ずアンタの役に立つ』

…そこになにがあるのかもう知ってるよ。

ねえ、そんなものはいらないよ。


ウーウーーウー

パトカーのサイレンの音が聞こえた。


暴れまわる私。
私を抑える警察官たち。

優しく笑いながら、警察官に付き添われてパトカーに乗るお母さん。


ねえ一人にしないでよ、って言ってるじゃん…

ねえ、どうして…。



なんでまたこの夢なのよ!!!



「……………!!」


私は目を覚ました。



「……また、この夢、か」

瞼が重い。頭も痛い。
なにも考えたくないけれど、嫌でも夢の残像が瞼に写る。

深いため息が出る。


………あれ。

クロと飲んでて、朝まで飲んで…そのあとどうしたんだっけ?


寝返りをうちながら、瞼を無理やり開ける。

視界に広がったのは。


「……!」

……クロの寝顔だった。


「………はあ」

私はゆっくり起き上がる。

黒いシーツ、黒い毛布、タバコの灰皿から灰が溢れまくっている黒いテーブル、黒いソファ。

何度か来たことがある、クロだけに黒で埋め尽くされた、ワンルームのクロの家だった。


「……」

クロの家に来たことは何度もある。
いつもは蓮二さんや紫音と一緒だ。

しかし今日は二人の姿はなかった。

どうゆう状況でここへ来たかはわからない。
服がまったく乱れてない辺り、私たちは一線は超えてないらしい。

…それもそうだ。クロとは7年も仕事を一緒にしている。

いわばビジネスパートナーみたいなもんで、今更男女の関係などあり得ない。

クロは散々ふざけるけれど、実際のところはクロもそう思っているように思う。


とりあえずベッドの下に置かれたカバンから携帯を取り出す。

「…!」

時刻はもう15時半過ぎ。

そしておよそ10時間前、
藤宮からの着信履歴が残っていた。

「………」

藤宮があのあと紫音にバーに来たことは覚えている。
…お互いのメンバーと飲みながら何回か目が合ったことも。

クロと浴びるように飲みながらも、それには気づいていたが、気づかないふりをしていた。

まあ、そこからどうなって、ここへ来たかは覚えてないけれど。

深酒しても私は二日酔いにはならない体質のようで、夢の残像が頭に残るものの意外とスッキリしていた。


私はとりあえず、のそのそとベッドから降りて、冷蔵庫へと向かう。

相変わらずお茶とビールと余り米と卵しかない冷蔵庫。
女っ気はないし、こいつはどうやって生活してるんだろうか。

私はお茶をグビグビと喉に流し込んだ。


「…あ………まーちゃあん」

「……ん、起きた?」

「何時ぃ?」

「15時はーん」

「えーまじ?」

クロの寝起きの情けない声。
大欠伸をして、うーん、と伸びをする。

「…ねえ、まーちゃん、昨日のことあんまり覚えてない?」

「覚えて…ないね、あんまり。なんならどうやってここに来たのかもわかんないけど。…なんで?変なことしてた?」

「いや、連れてきた時はもう爆睡してたからわかんないだろうけど。それよりもなんか……ずっとなぜか俺にめっちゃ甘えてたよ」

「え!?甘えてた…って、え!?」

いつも通り、クロをボコボコに罵倒してたのではなく?

甘えてた、って何事。

「……俺のこと、まーちゃんの好きな人とでも間違ってた?」

クロは、にひひっと笑った。

「べ、別に好きな人なんて、いないんだけど!」

ふうん?と言って、ニヤニヤしながらクロはキッチンの私に近づいてきて、お茶を私から取って飲み始めた。

「ねえ、甘えるってどんなふうに?」

「初めて見たよー、あんなまーちゃんは。ぐふふ」

「だから!どんなふうにって聞いてるでしょ!」

「そんな怒らないでよー、昨日のまーちゃん可愛かったんだから。あんな風に甘えたちゃんにもなるんだねー」

「じゃなくて!」

そんなことはどうでもいい。

酔っ払って変な言動していたとしたら、それはこの夜野まひるとしてあるまじき
行動である。

確かに今までも酔っ払って記憶が曖昧なことや、気づいたら蓮二さんとかと一緒にクロの家にいることはあった。

しかしその際も私は酔ったらすぐに眠るタイプなので、失敗や失態と言えるようなことはなかった。

…なかった、はず。


「…トイレ行こうとしたら、行かないで~とか、ベタベタくっついてきて頭撫でたら、もっとしてえ~とか。言い方エロかったわあ~おかげさまで俺がビンビンなっちゃって大変大変~」

「は、はあ!?」

誰それ?何キャラ?

「いやいや、そんなわけ」

「いやいやいやいや!ほんとだよー、可愛くてどうしよーかと思って、」

「ちょっと、それ!その時誰が見てた?誰がバーにいたの?」

「誰って…蓮二さんと紫音と…あとはいつも来るメンバーだよ、旺ちゃんの店の黒服たちとか」

「は!?じゃあ見られたの!?その私の醜態をみんなに見られたの!?」

「みんなって言っても、そんなにたくさんいなかったけど、」

「でも、いたんでしょ!?」

「え?」

いたってことですよね?
私が醜態を晒してる時に、その例のアイツが。

「誰が?」

「だから、…」

藤宮旺太郎が。
見てたんだよね?それを。

「………はあ」

「そんなに落ち込まなくても~。すっごい可愛かった、あれはみんなメロメロになる~」

「ならんわ。っつかなるな」
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