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6.混沌と失意
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そのあとは、カズさんの仕事の都合により、いつもの時間よりも少し早くにカズさんと別れた。
そして、いつもの流れでそのまま紫音のバーに来た。
バーの扉に手をかける。時間が早いせいか、誰もいないようで話し声などは全く聞こえない。
「……!?」
「おおお!ごめん」
目に飛び込んできたのは紫音のパンツ一丁姿。
「……!」
「…そんな驚かせた?ごめんごめん、着替え中だったわ。ってか今日早いね、まーちゃん!」
「…!…いや、たまたま終わるの早くて」
ふつうにそう答えるも、私が驚いたのは紫音がパンツ姿だったことではない。
いや少しはビックリしたけど。
「そっか~じゃあ後でクロさんも来るよね」
紫音はそう言って、Tシャツとズボンを身につける。
そしてそのままビールを注いでいる紫音の背中を少し見つめてしまう。
…驚いたのは、紫音の背中に大きな刺青があったこと。
だけではなく、その背中の刺青のよくわからない大きな花のような植物の模様を私は何度も見たことがあったから。
…蓮二さんの左肩にもついているソレ。
その模様がどんな意味を示すのかは知らない。
でもこの二人が同じ模様を彫ってるのは偶然?
しかも夜のバーテンなんて似合わない普通の青年の雰囲気を醸し出している、この紫音が。
「はいビール」
「ありがと」
いつも通りに紫音がサーバーからついでくれたビールを受け取り、一口いただく。
いつも通り仕事終わりのビールは格別だった。
「…ねえ今更だけど紫音っていつ休んでんの?」
「んー?」
勘繰ってないフリで、適当な話題を振ってみる。
紫音は急いで着たせいでヨレタ服を直していた。
「うちらの店が営業してない日でも、ここのバーってやってるじゃん」
「まあね~、基本的にはないよね」
「……社畜め」
「まーちゃんもね」
紫音は、ははっと笑って自分もビールを飲み出した。
「しかもアンタって気づいたらココにいたけど…いつからいたの?」
「うーん、バーがオープンと同時にいるから…かれこれ五年くらい?」
「…5年も休みないの?アンタの体力ヤバくない?ほんとに人間なの?」
「…実は…内緒にしてたけど俺ってばAIロボットなんだよねー。北国産の」
「北国?アンタそっち出身なんだ」
「……AIロボットには突っ込んでくれないね」
「…うーん、なんか言われてみればAIっぽいし」
「え!?」
「…ペッパー君に似てるって言われない?」
言われないけど!?と紫音が叫ぶと、ちょうどバーの扉が開いた。
「おつかれさま!俺のまーちゃん!」
「お疲れーしょん!」
クロと蓮二さんだった。
セリフがおかしいけれど、もはや気にもならない。
「ねえ、紫音って人間じゃないらしいよ」
二人が席に着く間も無く、私はそんなことを言い出す。
「え?みんな知ってるけど?」
「まーちゃん人間だと思ってたの?」
「え!?ちょ、それどゆことなの」
「紫音いいから早くビール~!」
「仕事遅いっしょ」
当然のようにそんなことを言うクロと蓮二さんは、カウンター席に座る私の両サイドにそれぞれ座る。
「…クロさんと蓮二さん、ビール焼酎割りでいいですか?」
紫音が意味不明なことを言いながら、ビールを注いでいる。
「何言ってんの?減給されたい?」
「え」
「99パーセントカット」
「ほぼないじゃん!」
当然のことながら、二人の様子に変わりはない。いつもの感じだ。
「…ねーえ、まーちゃああん」
その時、聞こえてきたのはクロの情けない声。
「なによ」
「……明日休みだよね?定休日だしぃ?だからー、今日朝まで飲もうよ~潰れるまで!!いえいいえーい!!」
「なんなの、そのテンション」
私はクロの方など見向きもせずに、ビールを飲む。
「…リナちゃんにフラれたー。だから飲も!!付き合ってよー!」
「フラれるのは日常茶飯事でしょ。アンタが女にフラれる度に潰れるまで飲んでたら、身がもたんわ」
「おーねーがーい!!もう遅刻しない!!17時30分0秒ジャストに迎えに行くからああー!」
「…破ったらアンタの給料99%を私に還元ね」
「よしきた!!まーちゃんなら100%あげる!」
「今言ったよね?来月から私の給料倍じゃん」
「たぶん1.3倍くらいにしかならないけどね~。月2~3回の定休日以外働いてるのに蓮二さんケチだからさ~」
…それを言うなら、五年休みのないらしい紫音はどうなるのだ。
「……ま、いいわ。なに飲むの?」
「ウィスキー!ストレートでショットグラスで交互にいこ!」
「…またかよ」
クロはきょとん、とした。
「…また?…まーちゃんとウィスキーそんなふうに飲んだことあったけ?」
「…!ああ、」
バカみたいにウィスキーを飲んで勝負したのは、藤宮だった。
しかも結構前の話。
動画を撮られた日に行われた"勝負"に負けて以来、ラブホに連れ込まれたのもあの日が初めてだった。
喉が焼けるように痛かったあの日のことを少し思い出す。
そしてそのあとに目が覚めたらラブホのベットの上で拘束されていたことも。
「…いや、なんでもない。とりあえず先に潰れたら許さないから」
「おっけおっけー!潰れても介抱してあげるからね!まーちゃんが潰れて寝たら、そのままホテルに連れ込んで…」
「…私が潰れる?その時はアンタのキンタマ潰して、二度と機能しないようにしてやるわ」
「…酔ってる設定なのに凶暴だな…」
クロが小さな声で怯えるように呟きながら、ウィスキーをショットグラスに注いだ。
そして、いつもの流れでそのまま紫音のバーに来た。
バーの扉に手をかける。時間が早いせいか、誰もいないようで話し声などは全く聞こえない。
「……!?」
「おおお!ごめん」
目に飛び込んできたのは紫音のパンツ一丁姿。
「……!」
「…そんな驚かせた?ごめんごめん、着替え中だったわ。ってか今日早いね、まーちゃん!」
「…!…いや、たまたま終わるの早くて」
ふつうにそう答えるも、私が驚いたのは紫音がパンツ姿だったことではない。
いや少しはビックリしたけど。
「そっか~じゃあ後でクロさんも来るよね」
紫音はそう言って、Tシャツとズボンを身につける。
そしてそのままビールを注いでいる紫音の背中を少し見つめてしまう。
…驚いたのは、紫音の背中に大きな刺青があったこと。
だけではなく、その背中の刺青のよくわからない大きな花のような植物の模様を私は何度も見たことがあったから。
…蓮二さんの左肩にもついているソレ。
その模様がどんな意味を示すのかは知らない。
でもこの二人が同じ模様を彫ってるのは偶然?
しかも夜のバーテンなんて似合わない普通の青年の雰囲気を醸し出している、この紫音が。
「はいビール」
「ありがと」
いつも通りに紫音がサーバーからついでくれたビールを受け取り、一口いただく。
いつも通り仕事終わりのビールは格別だった。
「…ねえ今更だけど紫音っていつ休んでんの?」
「んー?」
勘繰ってないフリで、適当な話題を振ってみる。
紫音は急いで着たせいでヨレタ服を直していた。
「うちらの店が営業してない日でも、ここのバーってやってるじゃん」
「まあね~、基本的にはないよね」
「……社畜め」
「まーちゃんもね」
紫音は、ははっと笑って自分もビールを飲み出した。
「しかもアンタって気づいたらココにいたけど…いつからいたの?」
「うーん、バーがオープンと同時にいるから…かれこれ五年くらい?」
「…5年も休みないの?アンタの体力ヤバくない?ほんとに人間なの?」
「…実は…内緒にしてたけど俺ってばAIロボットなんだよねー。北国産の」
「北国?アンタそっち出身なんだ」
「……AIロボットには突っ込んでくれないね」
「…うーん、なんか言われてみればAIっぽいし」
「え!?」
「…ペッパー君に似てるって言われない?」
言われないけど!?と紫音が叫ぶと、ちょうどバーの扉が開いた。
「おつかれさま!俺のまーちゃん!」
「お疲れーしょん!」
クロと蓮二さんだった。
セリフがおかしいけれど、もはや気にもならない。
「ねえ、紫音って人間じゃないらしいよ」
二人が席に着く間も無く、私はそんなことを言い出す。
「え?みんな知ってるけど?」
「まーちゃん人間だと思ってたの?」
「え!?ちょ、それどゆことなの」
「紫音いいから早くビール~!」
「仕事遅いっしょ」
当然のようにそんなことを言うクロと蓮二さんは、カウンター席に座る私の両サイドにそれぞれ座る。
「…クロさんと蓮二さん、ビール焼酎割りでいいですか?」
紫音が意味不明なことを言いながら、ビールを注いでいる。
「何言ってんの?減給されたい?」
「え」
「99パーセントカット」
「ほぼないじゃん!」
当然のことながら、二人の様子に変わりはない。いつもの感じだ。
「…ねーえ、まーちゃああん」
その時、聞こえてきたのはクロの情けない声。
「なによ」
「……明日休みだよね?定休日だしぃ?だからー、今日朝まで飲もうよ~潰れるまで!!いえいいえーい!!」
「なんなの、そのテンション」
私はクロの方など見向きもせずに、ビールを飲む。
「…リナちゃんにフラれたー。だから飲も!!付き合ってよー!」
「フラれるのは日常茶飯事でしょ。アンタが女にフラれる度に潰れるまで飲んでたら、身がもたんわ」
「おーねーがーい!!もう遅刻しない!!17時30分0秒ジャストに迎えに行くからああー!」
「…破ったらアンタの給料99%を私に還元ね」
「よしきた!!まーちゃんなら100%あげる!」
「今言ったよね?来月から私の給料倍じゃん」
「たぶん1.3倍くらいにしかならないけどね~。月2~3回の定休日以外働いてるのに蓮二さんケチだからさ~」
…それを言うなら、五年休みのないらしい紫音はどうなるのだ。
「……ま、いいわ。なに飲むの?」
「ウィスキー!ストレートでショットグラスで交互にいこ!」
「…またかよ」
クロはきょとん、とした。
「…また?…まーちゃんとウィスキーそんなふうに飲んだことあったけ?」
「…!ああ、」
バカみたいにウィスキーを飲んで勝負したのは、藤宮だった。
しかも結構前の話。
動画を撮られた日に行われた"勝負"に負けて以来、ラブホに連れ込まれたのもあの日が初めてだった。
喉が焼けるように痛かったあの日のことを少し思い出す。
そしてそのあとに目が覚めたらラブホのベットの上で拘束されていたことも。
「…いや、なんでもない。とりあえず先に潰れたら許さないから」
「おっけおっけー!潰れても介抱してあげるからね!まーちゃんが潰れて寝たら、そのままホテルに連れ込んで…」
「…私が潰れる?その時はアンタのキンタマ潰して、二度と機能しないようにしてやるわ」
「…酔ってる設定なのに凶暴だな…」
クロが小さな声で怯えるように呟きながら、ウィスキーをショットグラスに注いだ。
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