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粘膜EL.DORADO 16.

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「サンガネー! ……ちょっと離しなさいよ、痛い!」
「黙れぃ! 貴様ら全員まとめて粛清だ、我々は環オーサカ文化粛清軍ブリッヂクレインである!!」

 まぁたおかしな連中がやって来た。
 文化粛清軍ブリッヂクレイン……?

「ねえ! こいつら何なのよ!! あたし買い物してたら急に……あーもう!」
 ブリッヂクレインと名乗る如何にもわざとらしい、黒光りするロングコートに白い手袋、白い鉢巻き、白いブーツの集団のうちのひとり、スキンヘッドの巨漢があぶくちゃんを肩に担いでいた。その担ぎ手の胸元に足をバタバタと蹴りつけているが、スキンヘッドの大男はビクともしない。
 傍らにいる小柄な男が拡声器を持って、粛清だ粛清だと叫んでいる。よく見ると拡声器も元からの色よりさらに真っ白に塗っていて、それが小柄な男のこだわりなのかもしれなかった。どうもコイツが首魁らしい。
 その他にスキンヘッドの大男を加えて、いち、にい、さん……ざっと10人ちょっと。

 異変を察知した露天商たちは手慣れた様子で素早く店じまいを始めた。ボクもマノに助けを求めるべく叫んだ。

「あぶくちゃん、今マノを呼んで来る! もう少し待ってて!!」
「冗談じゃないわよ、早く!!」
 首魁の小男はボクにも、お買い物を楽しんでいた善良なる市民にも構わず散開命令を下し、そこらへんのお店から品物から片っ端からゲバ棒のようなもので叩き壊し始めた。
 悲鳴と怒号が広場に渦巻き、突き飛ばされた子供が泣き叫ぶ。母親が我が子を抱きしめたまま逃げ走るのを、カマキリみたいに長い手足をギクシャクさせながら追いかけて背中を掴んで引きずり倒す黒いコートの痩せ男。
 抗議に立ち塞がった若い父親の横っ面をゲバ棒でブン殴って、うずくまった背中を滅多打ちにする。

「マノ! 大変だ!!」
 バタバタとミロクちゃんの屋台まで戻って来ると、騒ぎを聞きつけてミロクちゃんは店仕舞いを始めていた。マノはというと、のんきに椅子に座ったままチャイの入った素焼きのカップ片手に僕の呼びかけに答えた。
「ああ。ずいぶん騒がしいのが来たな」
「あいつらも一心会の手下だよ、文化粛清軍ブリッヂクレインだってさ」
「ブリッヂクレインだかクレーンゲームだか知らんが、無粋な連中め」
「それで、その」
「どうした?」
「あいつらに、あぶくちゃんが捕まった……!」

 聞くが早いかマノが立ち上がって
「貴様ラァ!」
 と折悪くゲバ棒片手に殴りかかって来た粛清軍の将校の顔面めがけて素焼きのカップがすっ飛んで行って、鼻を直撃して粉々に砕けた。
「ああああああああ! 熱い!!」
「あーあ。せっかくのチャイが。ミロクちゃんごめんよ、あとでもう一杯おくれ」
「おっけー。待ってる」
「サンガネ、ミロクちゃんを頼む。で」
「で」
「あぶくちゃんは……どこだ」

 鬼の形相のマノが振り返りもせず、背後を襲った将校の顔面に裏拳を叩き込んだ。
 ガキッ、と乾いて硬い音がして、将校は今度こそ完全に伸びてしまったようだ。

「ほら、あのスキンヘッドの大男……!」
 ボクの指さす方に振り向いたマノが、スキンヘッドの大男の肩にズダ袋のように担がれたあぶくちゃんの姿を見た。遂に見てしまった。そしてその瞬間、マノの周囲数センチの空間が
 ゆわん
 と確かにゆがんだ。

「ね、ねえサンガネ……? もしかしてマノさんって、あぶくちゃんのこと」
「ああ。もうあの粛清軍どもは助からない。前にもオタロードで彼女に手を出した連中が居たんだけど」
「どうなったの……?」
「瓦礫の山に火をつけて、そこへ次々と放り込まれてった。その後さらに」
「まだあるの!?」
「巨大化したマノに踏み潰されたり、全身をバラバラに引きちぎられたりした」
「……!」

 それじゃあよっぽどマノの方が怪獣じゃないの、と、ミロクちゃんの顔に書いてあった。ボクも同感だ。彼の中に眠る怪獣を呼び覚ますには、呪文も動物実験も放射能すら必要ない。
 ただひとり、彼の愛した女性に危害を加えてしまうことだけだ。
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