#不思議系小説 ニューシネマ・パラダイスシティ

ダイナマイト・キッド

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粘膜EL.DORADO 2.

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 労働は変わった。派遣登録された労働者たちは、派遣登録された勤務先に配属され、派遣登録された給料や資材を与えられる。就業前の健康診断の名目で体内にナノマシンが注入され、それによって本人の感情や健康状態なども全て管理し、監視される。非正規雇用は合理的なビジネスであり、普遍のものとなった。そしてそれは、国家財政のコントロールをも可能にした。
 で、そうやって国ぐるみ、企業体ぐるみでケチってケチって溜め込んだカネを巡っての争いが巻き起こり、その後も延々と続いたことで、国土も街も荒廃し分断され、人々の暮らしと文化は途絶えた──というわけ。

 そして内戦勃発の五秒前まではあんなに有難がられていた平和憲法なんてなものがありながら、あろうことか国内で巻き起こった自国民同士の戦争を以てしてもなお、もはやこの国にはケチを止められる術など残されていなかった。

 医療も教育も司法も警察消防、ライフラインに国防でさえも人員コスト削減を題目にしたガワだけ残して中身は全て民間に委託していたり、強引に民営化されていたりと自由化に歯止めがかからず、流し込まれるように派遣された安上がりな人材を管理するパーソナルセンターだけが焼け肥りをきたしてゆく。

 その有様に我慢ならず、まるで依存症のようにケチな国と、そのケチを利用し便乗して儲けを独占するパーソナルセンターにも、遂に反旗を翻した自治体が現れた。それが日本のド真ん中にあって経済的な影響から戦災を免れたことで独自の発展を遂げ続け、遂には乱れ咲きを起こすかのように狂って行った街、通称マッドナゴヤだった。

 基本的にはケチケチして使えるお金、回すべきお金を出さずに、どんどん安上がりで見てくれも効率も悪くなり、それでも経費削減にだけ尽力する有様に、基本的に品質にはウルサイが値段もそれなりに張ってなきゃイヤなうえ、派手好きで見栄っ張りで
 使うべきカネはドカンと使いたい!
 という持って生まれた性分が耐えられなくなっただけなんだけど……当然そこには儲けを独占し、またさらなるゼニ儲けをするべきところでケチって、結果パーソナルセンター「だけ」が儲かっていることに我慢がならなかったってのもあるみたいだ。ナゴヤの人たちってのは、不思議な人々だね。

 マッドであろうがなかろうが、ナゴヤ人の基本方針は数百年以上経っても変わっていない、ってとこかな。かつて日ノ本が数々の国に分かれ、ナゴヤが尾張と呼ばれた頃から……。

「で、何がカンケーあるんだ?」
「何がって?」
「そのパーソナルセンターだかパールライスの配送センターだか知らないが、要するに政府主導の不況と財政危機を盾にした責任逃れの民営化、委託ブームに便乗してノシてきてる派遣会社と、あぶくちゃんたちを締め付けてセコくてコスッカラいシノギで儲けてる独立オーサカなんちゃれのヤクザまがいのチンピラ共と、何のカンケーがあるんだ。サンガネ」

 ぎぃこ。と、マノの座った古いロッキングチェアが軋んだ。天井でくるーりくるーり、と、ゆっくり軋みながら回り続けるプロペラが、彼の吐き出した小羊印のフラスコであぶくになった水タバコの煙を部屋の空気と攪拌している。今日はバニラとミントとチャイだ。

「まあまあ。肝心なのは、ここからさ」
 ボクはわざと大ぶりで鷹揚な仕草をつけながら、話を聞いてくれとゼスチュアをした。マノは目線を少し下げて、続けろ、と合図した。気がしたので、ボクは続きを離すことにした。

──この狂乱の大・田舎摩天楼都市の独立宣言(日本国をまるで田舎でコンサルにむしられる土着ワンマン企業のように運営する政権与党への三下り半とも言われている)は大いに波紋を呼び、結果として各地で独立を目指す自治体と、その特色を現した通称の出現が相次いだ。

 トライアンフオーサカも、その一つだった。
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