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「奇妙な果実」
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退屈の積もった、積み木の摩天楼。楼閣を支えてる人柱の群れ。群れからはぐれて人柱にもなれずに、いずことも知れず消えてゆく人。消えた人を探して伸びてゆく蔦。蔦の先で膨れ上がりねじれゆがみ破裂した、奇妙な果実
いつだって心の奥底には霧に包まれた泥沼と深い森、そして背の高い針葉樹林に囲まれた紫の果樹園には奇妙な果実。鈴なりの秋も、耐え続ける冬も、目覚めの春も、実りの夏も、そこに吹く風が運んでくる季節のにおい
京浜東北線で大宮から蕨、西川口、鎌田、桜木町、関内、石川町。中華街へ行こうよ。普段の賑わいと、何かあったら消える人混み。餃子もインフルも、新しいビョーキも
いつだって人はフワフワとやって来て、どこかへ帰る。そして閉じ込められたまま時代の流れを傍観し、人生こんなもんさと諦観する
いつの間にかどこもかしこも同じ味の味気ない食べ放題1980円。まだもっと景気の良かった1980年。もっと生きていたい2980年。人生100年時代より、人生100円時代がすぐそこに
メニューもパネルも店員さえも似たり寄ったり食べ放題。残しても余っても1980円
時計の針を戻せずに、ただカチコチ進むのを見ていることしか出来ない。意外と、そんな怠惰で陰気で死ぬほどじゃないけど疲れて気だるい毎日が成す術もなく流れてゆくことこそが地獄の真っただ中なんじゃないか
まことの地獄はぬるま湯だ、と常々思ってはいたけれど。自分の浸かった洗面器の水が最近心なしかぬるい
心の中に渦巻くものは、憎しみよりも悲しみであれ。憎悪嫌悪より悲哀悲観であれ。道徳より美徳、貧困より赤貧。貧しきものは美しく、されど望むるものは果てしなく。貧しくあれ、美しくあれ清くあれ。貧しく荒れ、醜く荒れ汚く荒れ。猛威を振るう美しさのために文化も文明も生活すらも荒んで行く無辜なる民の暮らしぶり
あの日殴られて泣いてた自分が傷だらけでコッチを見ている。用水路沿いの狭い路地、夕暮れの金色に溶け込みそうな眼差しで
心を冷ますために、心を壊すために、心を殺すために、飲み込んだその痛みは理不尽で仕方がなかった日々と引き換えなんかじゃないはずだ
心を探す旅に、心を壊すたびに、心を殺すたびに、流れ出たその涙は楽しかった出来事と引き換えなんかじゃなかったはずだと、いま目の前の君に伝えてあげることが今の僕に出来るだろうか
一枚だけ残った写真に微笑む僕と眼鏡をかけたキミ。赤いフチをした横長のレンズが色白面長黒髪ショートカットによく似合ってた。実際のキミより少しだけ老けて見える写真の後ろに観覧車。初めて二人でみなとみらいに行った時、係員が撮ってくれたものだった。観覧車を降りる頃には現像が出来上がってて、一枚幾らかで買った
キミは要らないと言ったから僕が貰ってしまっておいたまま、半年後にキミとは別れてしまった。それっきりだ。思いがけぬ再会は写真の中。変わらぬ若さと愛おしさ。まさかこの写真を撮る二時間前まで北新横浜のプラザインに居て、一晩中濃密なセックスを楽しんで居たとは誰も思うまい。思ったところでクチには出すまい
だけど写真の中で照れている二人は、二時間前まで照れるどころかアナルセックスまで複数回及び、避妊具も尽きてからは精液を注がれたままここまでブルーラインに乗って桜木町からの道のりを歩いて来た
時折、違和感を訴えたり何かの気配を察知してトイレに駆け込んだりするキミを僕は猶更愛おしく見つめていたことを思い出して、キミが最終的には人生初の肛門科を受診するハメになったことも思い出した。僕にしては珍しく、きちんと電話で別れ話をして、双方納得したうえで泣き笑いして電話を切った。その瞬間に綺麗さっぱり終わった恋だった
別れたらお互いに連絡先や手紙などを処分すると話していたし、実際に僕もそうした。だけど何故か、これだけが引き出しの奥から今更ひょっこりと顔を出した。てっきり捨てたと思っていたし、写真を見るまでキミとのこともあえて思い出したりはしなかったくらいだ
グッズグズの泥のような別れの方が意外と記憶に残るし、いつまでも尾を引くものなのかもしれない。キミは元気にしているだろうか
過去と今とがブルーラインで結ばれても、僕は今日も横浜からは遠く離れた田舎町でクソな会社のクソな仕事をこなしている。そんな空虚で憂鬱な日常に直通運転されていると知ってたら、早いところ飛び降りてしまったものを
座り心地は良くないけれど、死ぬほどキツイわけじゃない。そんな怠惰なぬるま湯地獄に居座り過ぎて乗り越してしまった。清算したいが、なかなか駅に着いてくれない
キミの隣で微笑んでるのは確かに僕だが、それ見て泣いてる僕は誰だろ
いつだって心の奥底には霧に包まれた泥沼と深い森、そして背の高い針葉樹林に囲まれた紫の果樹園には奇妙な果実。鈴なりの秋も、耐え続ける冬も、目覚めの春も、実りの夏も、そこに吹く風が運んでくる季節のにおい
京浜東北線で大宮から蕨、西川口、鎌田、桜木町、関内、石川町。中華街へ行こうよ。普段の賑わいと、何かあったら消える人混み。餃子もインフルも、新しいビョーキも
いつだって人はフワフワとやって来て、どこかへ帰る。そして閉じ込められたまま時代の流れを傍観し、人生こんなもんさと諦観する
いつの間にかどこもかしこも同じ味の味気ない食べ放題1980円。まだもっと景気の良かった1980年。もっと生きていたい2980年。人生100年時代より、人生100円時代がすぐそこに
メニューもパネルも店員さえも似たり寄ったり食べ放題。残しても余っても1980円
時計の針を戻せずに、ただカチコチ進むのを見ていることしか出来ない。意外と、そんな怠惰で陰気で死ぬほどじゃないけど疲れて気だるい毎日が成す術もなく流れてゆくことこそが地獄の真っただ中なんじゃないか
まことの地獄はぬるま湯だ、と常々思ってはいたけれど。自分の浸かった洗面器の水が最近心なしかぬるい
心の中に渦巻くものは、憎しみよりも悲しみであれ。憎悪嫌悪より悲哀悲観であれ。道徳より美徳、貧困より赤貧。貧しきものは美しく、されど望むるものは果てしなく。貧しくあれ、美しくあれ清くあれ。貧しく荒れ、醜く荒れ汚く荒れ。猛威を振るう美しさのために文化も文明も生活すらも荒んで行く無辜なる民の暮らしぶり
あの日殴られて泣いてた自分が傷だらけでコッチを見ている。用水路沿いの狭い路地、夕暮れの金色に溶け込みそうな眼差しで
心を冷ますために、心を壊すために、心を殺すために、飲み込んだその痛みは理不尽で仕方がなかった日々と引き換えなんかじゃないはずだ
心を探す旅に、心を壊すたびに、心を殺すたびに、流れ出たその涙は楽しかった出来事と引き換えなんかじゃなかったはずだと、いま目の前の君に伝えてあげることが今の僕に出来るだろうか
一枚だけ残った写真に微笑む僕と眼鏡をかけたキミ。赤いフチをした横長のレンズが色白面長黒髪ショートカットによく似合ってた。実際のキミより少しだけ老けて見える写真の後ろに観覧車。初めて二人でみなとみらいに行った時、係員が撮ってくれたものだった。観覧車を降りる頃には現像が出来上がってて、一枚幾らかで買った
キミは要らないと言ったから僕が貰ってしまっておいたまま、半年後にキミとは別れてしまった。それっきりだ。思いがけぬ再会は写真の中。変わらぬ若さと愛おしさ。まさかこの写真を撮る二時間前まで北新横浜のプラザインに居て、一晩中濃密なセックスを楽しんで居たとは誰も思うまい。思ったところでクチには出すまい
だけど写真の中で照れている二人は、二時間前まで照れるどころかアナルセックスまで複数回及び、避妊具も尽きてからは精液を注がれたままここまでブルーラインに乗って桜木町からの道のりを歩いて来た
時折、違和感を訴えたり何かの気配を察知してトイレに駆け込んだりするキミを僕は猶更愛おしく見つめていたことを思い出して、キミが最終的には人生初の肛門科を受診するハメになったことも思い出した。僕にしては珍しく、きちんと電話で別れ話をして、双方納得したうえで泣き笑いして電話を切った。その瞬間に綺麗さっぱり終わった恋だった
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