#不思議系小説 ニューシネマ・パラダイスシティ

ダイナマイト・キッド

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flechita.

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 ごく薄い、ピンク色の衣装で全身を包んだよぼよぼの老婆が二人。膝よりも上のミニスカート、ノースリーブ、フリフリのついた古臭いアイドル風の衣装とは裏腹の分厚い化粧で全身をコーティングした老婆が二人ちょこんと並んで座っている。どぎつい色使いが如何にも安っぽいスタジオセットの中央にテーブルセット。そこに二人まとめて、置きっぱなしの忘れ物みたいに座っている
 かつて国民的アイドルと呼ばれ、人気絶頂だった頃の二人はまさに未確認飛行物体のように国中を飛び回り席巻した。半世紀以上も前に
 そして未確認飛行物体よろしく或る日を境に忽然と姿を消し、数十年の時を経て復活した二人は立派な大人の女性になっていた。が、変わらぬ美貌と色褪せぬ若々しさを着ぐるみのように被せられたまま彼女らはパフォーマンスを続けた。そして二度と、姿を消すことは無かった。休むこともなく何処かへ隠れることもせず、伝説のアイドルとして君臨し続けた。すっかり廃れたメディアのチャンネルからは半世紀前のヒット曲が繰り返し流され、半世紀前の最先端よりも安っぽい、半世紀を経た最低限のセットで老婆が風に舞う柳のように踊る。歌は音源、動きも制限。そのうちに皺が増え、肉がそげ、真っ白な素肌はカラカラに乾いてひび割れた。四半世紀以上も新曲は出ていない、だがそれは彼女たちに限った話ではない。もっと人数の多いアイドルから、セックスシンボル、そして大御所と呼ばれる歌手まで。みんな何かに縋るようにチャンネルの中に居座って、メディアに縋られるまま年だけを取っていった。ある者は鼻から酸素のチューブを伸ばし、ある者は足をボルトで直立不動の形で固定し、ある者は失った声帯に極小のシンセサイザーを埋め込み、ある者は黒子を何人も従えて支えさせ浄瑠璃のようになってまで画面の中に居座った
 
 勃興した新たなメディア、多様化し過ぎたチャンネル群は互いに生きる道を模索し喰らい合った結果急速に一本化し事態を収束しようと試みた
 だが、膨れ上がった広告利権がそれを許さなかった。そして旧来の大メディアの前に居座った古き良き視聴者共もまた、メディアの変化を許さなかった
 世の中で自分の好きなジャンルはスポーツであれ音楽であれ映画であれドラマであれ、自分の望む通りの答えが継承されなければ正当と認めることが出来ず、自分の愛するジャンルの変化を自己否定に重ねる厄介極まりない毒虫のような連中ばかりが古き良きものに群がって喰らい尽くし骨の髄まで貪ってゆく。少しでも自分の意に反した答えが返ってくれば沸騰した電気ケトルのように喚き散らし熱湯をブチまけて自らの知識と正当性をこじつけてエバり腐る。端から他人を低く見て、やり返されたら引っ込んで味方の前で喚き散らし事情を知らない連中に被害者ヅラして泣きながら愚痴を垂れる
 そういった何処にでも居る自分中毒の連中はメディアもジャンルも、ホントは如何でもいいのだ。本当に満たしたいのは自分の正当性だけであって、それが何であっても別に全然構わない
 ただ、己の我儘を満たす道具がそこにあり、自分の望み通りの返事を寄越し、自らの知識や意見に都合よく跪く奴が欲しいだけ。孤独なバカを集めたバカの蟲毒
 国も歴史も文化も食い物にされている!
 と叫ぶ連中が踏みにじり、食い潰し、芽を摘んだ文化がどれほどあるのか。考えたこともあるまい、考えてしまえばそれで終わりだ。思考は常に自己否定に、つまり後ろめたさに気付いてしまうとわかっているから、考えるのではなく大前提として全肯定がある
 そんな連中と話が通じるわけがない

 話の通じない連中と、話など聞かなくても構わない連中の利害と嗜好が一致して、今日も古き良きメディアは古き良き時代の遺物を垂れ流す
 これこそが我が国の文化!
 これぞ世界に誇る伝統!!
 そうやって食いつぶされ、逃げることも逸脱することも許されず、年老いた偶像たちが百年の空想も千年の幻想も背負ったまま
 今日も老いたメディアで踊り続ける
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