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「PURE DYNAMITE(2)」

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ケッキョク ナンニモ カワラナイ
それなりに背丈が伸びた
僕に敵わないとわかったら、祖父母に手をあげた
老いた両親を僕の目の前で、僕のせいにして
引きずり回してまた
お前がお前がお前がお前がキライでお前が憎くてやってるんじゃない
と僕を呪った

ボクハ ジブンヲ ノロッタ
僕のせいで、僕がいるから、僕のために
そんな自分勝手な現実逃避、一番安易な方法に逃げた
学校にも行かなくなったし、勉強もスポーツも嫌いになった
ナニヲシテテモ ボクハ ダメ
傷口に刷り込まれた罵詈雑言が僕を蝕んだ
力で敵わなくなる前に洗脳が終わっていた
だけど半端に効いてしまったから僕はアイツを殴り飛ばすことは出来た
けど、自己肯定感の限りない低さと際限のない自己否定だけが残った
今でも恨んでいる
取れる金があるならこっちが取れるだけ取ってから死んでほしい
それでも僕は戦った
だけどそれは全然良いことでも凄いことでも大変だったのでもない
しなくていい苦労から逃れることも出来ないで
ずっとされるがままになっていただけに過ぎない

 世の中で今そうやって相手のことを縛り付けて、何かを強制して自分のためだけに動かそうとする奴は大抵コレだ 
 デモンストレーションと正当化。罵詈雑言と身勝手な正論。何か隙間を見つけてそこを一生懸命に突いてくる。お前が悪いのに俺は付き合ってる、俺はお前のためにやっている
 お前なんかダメだ、俺以外じゃダメだ
 そう言い続けてあなたを縛り付ける
 身勝手で独善的な自意識過剰の有刺鉄線で

 僕に絡まっていた有刺鉄線を引きちぎってくれたのは、僕の新しいお父さんだった。まだ自分を僕の実のお父さんだと思いこんでいたアイツは遂にアルコール依存も相まってトチ狂い、ある日包丁を握って真っ赤な顔をして僕を睨みながら
 殺すぞ
 と酒と歯槽膿漏の混じった臭い息を吐きながら言った

 僕の母親には彼氏が出来ていた。それが僕の新しいお父さんで、僕は彼をお父さんに選んだ。とうとう自分が完全に見捨てられたことが全く認められずに、そんなものを振り回して怒って見せた
 だけどもう何を言っても通じなかった
 あの男は泥棒だ、あの男はロクでもない、アイツはずっとそんな風に言っていた。だけど僕からしたら
 お前が今まで散々やってきたことは人殺しに近いじゃないか
 ダダをこねて暴れて誰も彼も傷つけて愛想尽かされたら実の息子にヤッパ向けて脅かして
 しかもその原因は実に些細なことで、例によって何もかも僕に家事を押し付けて自分は安い酒くらってタバコをふかしてたときに、
 まな板を自分が言う前に僕が自発的に洗ってなかった
 というだけのことだった。たったコレだけがきっかけで、僕は5分以上ボコボコにされて5分後には刃物を向けられていたのだ
 僕は逆らえなくなっていた。僕が歯向かうと、次の日か、早ければその日の夜には祖父母が襲撃されるからだ

 そして目の前には包丁
 離婚するときに安いのを買って、ずっと使ってる粗末な包丁
 僕は少林寺拳法の初段を持って、柔道でも県大会に出るくらいまでにはなっていた。だけど、向こうは人質を取った。そしてさらに卑劣な手段に出た
「今からオオクボさんを呼ぶ」
 オオクボさんはアイツの中学か何かの先輩で、暴力団に入ってしまった人だった。以前にもアイツは地元の先輩に咎められて僕に暴力をふるうのをやめたことがあった。祖父母の住んでる団地の一階の廊下で好き放題殴る蹴るされていたら、白いスーツの上下に身を包んだパンチパーマの男がやってきて
「それぐらいにしとけ」
と言った。映画のようなシーンだった。それがヤマモトさんと言う人だった
 実の息子が顔じゅう血だらけにしてボコボコになっても手を休めるどころか幾らでも殴ってきたのに、ヤクザの先輩に言われたらピタっとやめた
 この男はどこまでバカなんだ!?
 そしてまた同じことをしようとしていた。オオクボさんを部屋に寄越して、僕が親権も持たない奴らに取り戻されないようにする、と息巻いていた
 僕や僕の祖父母への暴力に見かねた新しいお父さんこと輝さんは、そのことで「話をつけてやる」とアイツの買ったマンションに乗り込むと言ってくれた

 そのことで心底ビビり上がったあのクソは、自分で勝負せずに助っ人を頼んだのだ
 やがてオオクボさんがやってきて、僕を別室に呼んでこう言った
「ごめんな、ちょっと待ってろよ。お前の父ちゃんなんとかしてやるから」
 そして輝さんもやってきてリビングルームに3人が集まった
 数分後、輝さんとオオクボさんは意気投合してリビングから出てきた。そのままマンションを出て、オオクボさんは白い高級車に乗って帰って行った
 僕は輝さんの車に乗せてもらって家に帰った

 輝さんの家は代々テキ屋さんをやっていたから、オオクボさんとこにも繋がりがあった。そしてそのテキ屋さんの元締めを昭和の半ばくらいまでやっていたのが、僕の曽祖父だった。オオクボさんと輝さんはそのことで話が合い、なあんだそういうことなら、と全てを理解した。一人のバカと気の毒な太ったガキのうち、太ったガキの方は救われた
 この件で僕はアイツと絶縁することが出来た

 人生は何がきっかけで変化を起こすかわからない
 だから、どんな奴に捕まって無駄な月日を過ごすかもわからない
 だけど、どんな人と出会って無駄な日々を取り戻せるか、も
 またわからないのだ
 だから今、早合点してはいけない。きっと変われる。きっと生きれる。君は一人じゃないし、君のために生きてくれる人も一人じゃない。沢山の友達や、素敵な出会いが
 明日の君を待っている
 内なる爆弾に火を点けろ
 そして目にもの見せてやれ
 君が変わって、楽しそうで、何より幸せに生きることが
 いちばん大切なことなんだ
 心の爆弾が吹っ飛ばすのは憎むべきアイツじゃなく
 目の前に立ちふさがる灰色の巨大な壁だ
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