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田上明自伝「飄々と堂々と」
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2023年11月12日。
午後から散歩がてら駅前にある精文館書店に行ったら、お目当ての本を探してる時に見つけたのが田上明さんの自伝だった。
プロレスの週刊誌を読まなくなってたり、ネットもSNSも前ほど見なくなったりで発売されることも知らなかったのだけれど、これはいいタイミングと思って購入。
夕方いっぱいかけてじっくり拝見しました。
買う前に奥付を見たら小佐野さんが協力しているということで、聞き起こしにしても資料や解説にしても安心だろうというのもあった。私は冬木弘道さんの大ファンになって天龍源一郎さんを遡っていったから、小佐野さんの手が入っているならいいんじゃないかなと思って。
で自伝。
田上明さんといえばお相撲で活躍したあと全日本プロレス入りして、伸び悩むこともあったものの大活躍した選手だ。ただ、その現役バリバリ、いわゆる四天王時代は…私にとっては最も関心の薄い選手だった。
だってデカいしスポーツの実績もあるし、当時小学校高学年とか中学生で既に自分の身長がもうこれ以上は伸びないと薄々わかっちゃってる自分には感情移入しづらかったんだもん。
天才・三沢光晴
鬼才・川田利明
熱血・小橋健太
の三人と並べるとアタマひとつでっかくて元力士の
怪物・田上明は、私にとっていつも敵側の人間だった。全日本プロレス中継を見るにつれて、私は小橋健太さんの大ファンになっていたからだ。
96年の武道館で行われた小橋健太さんと田上明さんの三冠ヘビー級選手権は、あとからビデオで何度も見た。
でも、なんとなく田上さんが好きになって行ったのは試合じゃなくて、暮れの全日本プロレス中継が合宿所に乗り込んで行うスペシャル番組とかだった。座ってても一人めちゃデカいのに、お椀とお箸をちょこんと持ってちゃんこ鍋を食べてたり、時々ボソッと喋ったりする姿に愛嬌があって、
「あなんだ、この人けっこう可愛いとこあるんだな」
と思って。
それからは素直に応援をするようになった。
その後、プロレスリング・ノアが旗揚げし、一時は東京ドーム大会を開催するなど躍進したけど……悲劇を乗り越え、さらには会社を移して畳み、大病を患い…現在は茨城県つくば市茎崎でステーキ屋さんを営んでいる田上さんの半生がつづられている。
覚えてねえんだよ、よくわからねえんだよ、と言いつつも当時の思いや状況、子供の頃の思い出から相撲入り、プロレス入りに至るまでの経緯も明かされている。
写真を見ると子供の頃からでっかいし、凄い身体をしている。それに男前である。
そんな人が野生児のように育ち、スポーツと喧嘩をし、お相撲さんになり、プロレスラーに…今そんなキャラクターを創作して何処かに出したって出来過ぎだと言われるくらい出来過ぎた人だ。
あの四天王プロレスと呼ばれた極限の戦いにおける危険な技、特に田上さんの場合はバリエーション豊富な喉輪落としの断崖絶壁バージョンとか、フェンスに叩きつけてくとか、そういうのに関しても良く言う信頼関係、こいつなら大丈夫だろう、というのではなく
「あいつらに負けてられない、向こうがあれだけやったんだからこっちもやらなきゃ」
と真っすぐな答えがあった。本当に、あの時あの人達は「それでよかった」「やるべくしてやった」のだ、と…。
あの人達を壊し、あの人達を傷つけ、そして悲劇を招いたのは自分たちなのではないかと思う人が居るなら、きっと救われるのではないだろうか。
誰も後悔していないよ、あの日あの時の記憶や痛みも、俺の宝物だから。
田上明さんの言葉はおおらかで、怪物らしく堂々としたものだった。
三沢光晴さんの事故のあと、正確にはその少し前から綻び始めていた兆候や漂い始めていた暗雲についてもさらっと語り、また明るい生活に戻ってゆく。
ああ、人間としても器の出来が違い過ぎるんだ。流石、四天王の一角を担った怪物だ…。
読み終わった感想は、その一言でした。さすがは怪物。ダイナミックTだ。
温かくておおらかな、いい本でした。
あっでも気になることを強いてあげるなら、細かい表記ミスが幾つかあって。
特に田上さんと蝶野さんの対決があったのが1993年になってるのは笑ってしまった。
そんなに早く実現してたら、あのあとあんな苦労はしなかっただろうに。と…。
ざっくばらんに痛かったよ、辛かったよと言いつつも泣き言にならない底知れぬ強さがずっとあって。だから安心して読み進めることが出来た。
良いことも、辛いことも全てが過ぎ去り、日の当たる椅子に座って語られたような昔話、四角いリングのお伽噺が終わったら、またあの頃に戻ってみたくなる。
そんな本でした。
午後から散歩がてら駅前にある精文館書店に行ったら、お目当ての本を探してる時に見つけたのが田上明さんの自伝だった。
プロレスの週刊誌を読まなくなってたり、ネットもSNSも前ほど見なくなったりで発売されることも知らなかったのだけれど、これはいいタイミングと思って購入。
夕方いっぱいかけてじっくり拝見しました。
買う前に奥付を見たら小佐野さんが協力しているということで、聞き起こしにしても資料や解説にしても安心だろうというのもあった。私は冬木弘道さんの大ファンになって天龍源一郎さんを遡っていったから、小佐野さんの手が入っているならいいんじゃないかなと思って。
で自伝。
田上明さんといえばお相撲で活躍したあと全日本プロレス入りして、伸び悩むこともあったものの大活躍した選手だ。ただ、その現役バリバリ、いわゆる四天王時代は…私にとっては最も関心の薄い選手だった。
だってデカいしスポーツの実績もあるし、当時小学校高学年とか中学生で既に自分の身長がもうこれ以上は伸びないと薄々わかっちゃってる自分には感情移入しづらかったんだもん。
天才・三沢光晴
鬼才・川田利明
熱血・小橋健太
の三人と並べるとアタマひとつでっかくて元力士の
怪物・田上明は、私にとっていつも敵側の人間だった。全日本プロレス中継を見るにつれて、私は小橋健太さんの大ファンになっていたからだ。
96年の武道館で行われた小橋健太さんと田上明さんの三冠ヘビー級選手権は、あとからビデオで何度も見た。
でも、なんとなく田上さんが好きになって行ったのは試合じゃなくて、暮れの全日本プロレス中継が合宿所に乗り込んで行うスペシャル番組とかだった。座ってても一人めちゃデカいのに、お椀とお箸をちょこんと持ってちゃんこ鍋を食べてたり、時々ボソッと喋ったりする姿に愛嬌があって、
「あなんだ、この人けっこう可愛いとこあるんだな」
と思って。
それからは素直に応援をするようになった。
その後、プロレスリング・ノアが旗揚げし、一時は東京ドーム大会を開催するなど躍進したけど……悲劇を乗り越え、さらには会社を移して畳み、大病を患い…現在は茨城県つくば市茎崎でステーキ屋さんを営んでいる田上さんの半生がつづられている。
覚えてねえんだよ、よくわからねえんだよ、と言いつつも当時の思いや状況、子供の頃の思い出から相撲入り、プロレス入りに至るまでの経緯も明かされている。
写真を見ると子供の頃からでっかいし、凄い身体をしている。それに男前である。
そんな人が野生児のように育ち、スポーツと喧嘩をし、お相撲さんになり、プロレスラーに…今そんなキャラクターを創作して何処かに出したって出来過ぎだと言われるくらい出来過ぎた人だ。
あの四天王プロレスと呼ばれた極限の戦いにおける危険な技、特に田上さんの場合はバリエーション豊富な喉輪落としの断崖絶壁バージョンとか、フェンスに叩きつけてくとか、そういうのに関しても良く言う信頼関係、こいつなら大丈夫だろう、というのではなく
「あいつらに負けてられない、向こうがあれだけやったんだからこっちもやらなきゃ」
と真っすぐな答えがあった。本当に、あの時あの人達は「それでよかった」「やるべくしてやった」のだ、と…。
あの人達を壊し、あの人達を傷つけ、そして悲劇を招いたのは自分たちなのではないかと思う人が居るなら、きっと救われるのではないだろうか。
誰も後悔していないよ、あの日あの時の記憶や痛みも、俺の宝物だから。
田上明さんの言葉はおおらかで、怪物らしく堂々としたものだった。
三沢光晴さんの事故のあと、正確にはその少し前から綻び始めていた兆候や漂い始めていた暗雲についてもさらっと語り、また明るい生活に戻ってゆく。
ああ、人間としても器の出来が違い過ぎるんだ。流石、四天王の一角を担った怪物だ…。
読み終わった感想は、その一言でした。さすがは怪物。ダイナミックTだ。
温かくておおらかな、いい本でした。
あっでも気になることを強いてあげるなら、細かい表記ミスが幾つかあって。
特に田上さんと蝶野さんの対決があったのが1993年になってるのは笑ってしまった。
そんなに早く実現してたら、あのあとあんな苦労はしなかっただろうに。と…。
ざっくばらんに痛かったよ、辛かったよと言いつつも泣き言にならない底知れぬ強さがずっとあって。だから安心して読み進めることが出来た。
良いことも、辛いことも全てが過ぎ去り、日の当たる椅子に座って語られたような昔話、四角いリングのお伽噺が終わったら、またあの頃に戻ってみたくなる。
そんな本でした。
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