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【SF】江波光則さんの「屈折する星屑」を読みました!【読書】
しおりを挟む「我もまたアルカディアにあり」
を読んですっかり江波光則さんの描く便利で寂しい荒れた世界の虜であります。
今回はアルカディアからさらに数年後に出版された
「屈折する星屑」
の感想です。結論から言うとサイコーで、愛読書であり目標とする世界が、また一つ増えた。ということになります。
SFと聞くと難しいというか、世界に入り込めないと楽しめないようなイメージを持つ人も居るかもしれませんが、この「屈折する星屑」は遠く離れた未来の話でありながら、ビックリするぐらい感覚が平成末期の我々に近い。良くも悪くも。
どうオススメしたって合わない人は居るのだろうけど、この物語に出てくる世界、マシン、キャラクターたちはどれもみな素晴らしく、読んで損は無い一冊です。
私の荒れた世界の原風景は椎名誠さんの描く、いわゆるシーナワールドという油臭くて埃っぽい、その世界の外は砂漠って感じなのですが。
江波光則さんの世界はもっと局所的というか限定的というか、目の前の光景や手に取ったものの質感までじっくり狭く深く描いているように思えます。
屈折する星屑、紆余曲折して散ってゆく星屑のような命と青春。
どうせ何も起こらない、どうせ何にもなれない、そう決めつけて生きて来た。
マシンをいじって、いとも容易く命のやり取りをして、可愛い女の子と孤独な体を寄せ合って生きて来た。だけど、そんな毎日はある日、突然に終わりを告げる。
急に現れた黒い星が全てを変えてしまった。そして、それがこの物語の内包する世界をも激変させるきっかけになった。
淡々としているようで鮮やかに、流れるように世界が変わる。
タイトルや本文中のグラムロック、パンクロックという言葉にあるように、随所に用いられているロックのメタファー。
…慣れない言葉は使うもんじゃないな。メタファーで合ってるのかな。間違った使い方をしたらネットの正しいことしか能が無い連中に袋叩きにされちゃう。
トンファーで(それが言いたかっただけじゃねえか)
ゆっくりと、だけど確実に、壊れてゆく世界。
読者の頭に馴染んで、ちょっと愛着や帰巣本能のマーキングが済んだくらいのところで、それが突然やってくる。
そしてランカシャーCACC(Catch As Catch Can)の使い手でもある姐御がやって来て、シバかれて懐いて…それすらもあとでひっくり返る。
ちなみにランカシャーCACCとだけ書かれていて後の細かい説明は全く無かったんだけど、それだけ書いてあれば
ああ、寝技んなかでも特にしつこくてキツイやつだな……
と、なんとなく伝わって納得出来てしまうからプロレスマニアというのは便利な脳みそをしている。
出てくるマシンも多彩で、かつ進化を続けてゆくことで伏線にもなるし、武器にもなる。物は使いようだ。レールガンを槍のように使ったり、最後にはしっかりぶっ放すこともする。
ホワイトデューク、ブラックスター、ネクストディ……想像するだけでワクワクする乗り物たち。一体どうやって浮かんでいるのか、説明されてもされなくても、なんとなく脳みその中で浮かんでくれる乗り物たち。
この物語でかなり好きなのがジェロームだ。麻薬中毒で、ひどい状態でもフラフラしながら生きている。だけどそれも、彼らの暮らす世界(コロニー)が壊れた時に、一緒に壊れてしまった。元々ぶっ壊れているような印象だったのに、いよいよ本当に壊れてしまった時の、何とも言えない喪失感。
この本の中に一貫して漂っているのは、喪失感なのかもしれない。
死ぬこと、生きること、「空(そら)」をやめること、死ぬまで続けること。
ハンパもんがハンパなりに熱中し、命のやり取りをしている気でいられたうちは、幸せだったのかも知れない。可愛い彼女が居て、ライバルがいて、情熱を捧ぐマシンがあって、ジャンクヤードに通い詰めて……絵に描いたような暴走する青春。
行き場の無い気持ちやエネルギーをぶつけるための人、モノ、場所。
色んな理由を付けてその場から去ってゆく人々を見送り、蔑みながら、最後には色んな理由を付けて自分で自分を目覚めさせずに、酩酊状態のまま生きられる道を探している。だけど無意識に、足は正気の道へと歩こうとする。
少年期から青年期への葛藤と、乗り越えてゆくべきイニシエーション。
これは循環する世界に閉じ込めたジュブナイルを、意図と偶然とを不細工なタペストリーのように絡ませ飾り付けた槍でぶち抜いて壊してゆく物語だったと思う。
誰よりも、それを望んでいたはずなのに、いざ目の当たりにすると何も出来なくて。
寝ながらヘッドフォンで音楽を聴いている時は自由自在にギターが弾けるつもりでいるけど、いざ本物を手にして見ると途方もなさに気持ちが切れてしまう。
ずっとそんなことが続いている。自分の唯一の取柄であり、心の拠り所にすがりながら、思い出を引きずって、誰かにコテンパンにされることを望みながらイキがって、だけど最後には、自分で気づくまで放っておいてくれることが無情の優しさだったと思い知る。そしてそんな自分のそばには、似たような若者がくっ付いて来ている。
まごうことなき男の子の、ガキのまんまオトナになった奴のための物語に見える。
だけど、それを超えた先には、きっと無限に広がり続ける可能性の宇宙が広がっていて、今からでも足を踏み出そうとしている人の、背中を押してくれる一冊だと思います。
全部デタラメで、全部ウソで、友達も彼女も居なくなって、人工知能に覚えさせた幻さえもリセットして。上り坂ばかりの憂鬱な人生が続くとばかり思っていたのが、思いもよらない出来事が巻き起こり、最後には一人ぼっちで太陽に向かってすっ飛んで行く。
ジャクリーンに叩きのめされ、ヴィスコンティやジェローム、オーグルビーは去り、スケアリーモンスターズに組み込んだかつての恋人の面影も消し去った。
怒涛のように壊れてゆく日常とレゾンデートル。
一体、自分は何のために…?
わからないから暴走した、固執した、イキって落ち込んで立ち直ってまた凹んで。
結局わからないまま、だけどやるべきことを済ませて、太陽に向かって突っ込んでゆく。
これが解放と救いでなくてなんなのだ。手間暇をかけて丸裸にした、ヘイウッドの心が解き放たれた瞬間のために描かれた一冊の物語。
素晴らしかったです。
こんな世界が、物語が、自分も書けるようになりたい。
我もまたアルカディアにあり、を読み終わったときと同じく、久しぶりに血がたぎって指が追い付かなくなる感覚に陥っています。たぶん、これをアップして2時間も経てば、あちこちため息をつきながら手直ししたくなると思う。そんなレベルの、ギリギリ文章と呼べなくなる程度のものを叩きつけて、読書感想文といたします。
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