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第921回。ハッカ油とフロントガラス越しの西日
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ニホンゴというのは美しいもので、午後遅くからの黄色っぽくなってじりじり照り付けてくる太陽光を西日(にしび)と呼んでいる。良いもんじゃなさそうに聞こえるが、西日、と書くだけで
午後遅くになって黄色っぽい光がじりじりと差し込んでくるさま
が思い浮かぶから大したものだ。
何気なく使っているフレーズ、ニホンゴの一つ一つがそんな風に分解すると意味を持たなくなったり別の言葉になってしまったりで面白い。
…そんなことを考えるくらい、仕事中に思考のやり場がなくなっている。一緒に作業をしている私の後任は覚えこそ良くはないが積極的に覚えようとしてくれるし、自分で動こうともしてくれるのでいいと思う。徐々にではあるが心を開いているおかげか、再三再四の忠告により着替えとタオルを沢山持ってくるようになったおかげか、汗臭いのもだいぶ楽になった。慣れたのかな…?
朝から大汗をかいてやってくる、愛想よく振舞っているが時折どもったりぶっきらぼうな素顔が垣間見える。正直、私はこういう人が嫌いじゃないし、朴訥がゆえに貧乏くじを引いてしまいちょっと斜に構えた性格になってしまったのだと勝手に思う。粗暴なところもあるが素直な人でもある。車の運転は少々雑だが、右折や歩行者に道を譲ることも多い。何か一つ、どこか一つをあげつらってアイツはどうだ、良いの悪いのとその場でだけゴチャゴチャ言う人もいるが、一日一緒にいると色々見えてくる。作業は積極的にこなそうとしてくれるし、至らないところも自分から聞きに来てくれるのでちゃんと教えようという気にもなる。何度も間違えるが、何度でもやり直すしメモも取る。そうこうしているうちに、ちょっとした作業なら一人でこなせるようになった。複合技は難しいが、単品でなら形になってきた。
今日はとうとう、私は助手席に乗っているだけでほとんど作業をしなかった。流石に手助けはするものの、1から10までの8か9は後任の人がこなし、細かいところを直したり教えたりするだけにとどまった。そうしたら、あれだけ袋いっぱいになってた着替えが一枚もなく終わった。タオルを2枚取り換えただけだった。有難いことに違いはないのだが、何しろ落ち着かない。ケツの座りが悪い、とはこのことだ。どうにも申し訳ない気がするし私の方が10歳も年下なのだからエバってるわけにもいかない。まあ新しく未経験で入ってきてエバってくる奴だったらそれはそれでもう知らんが…。努力を摘まないように、だけど惜しみなくダメ出しを。難しいもんだ。結局は怪我無く無事に作業をしてもらうのが一番なので、急かしたりだけはしないつもりだけれど。
でさ。最近ホントあんまり暑いのと午後から眠くなるのとで、ハッカ油を垂らしてしまっておくと他のタオルもスースーするので気持ちがイイ。眠気覚ましにもいいし、花粉症の時期には目鼻もスッキリする。もちろん一瞬の事ではあるが。
私としてはタオルに濃いめに染ませておいて、折に触れて
スウゥゥゥゥゥゥーーーーーーッ
っと吸い込むように使う。
使い道としては汗拭きタオルというよりは美人のおぱんちゅに近い。
で、それでうっかり汗を拭くとどうなるか。
これがまたきっついんだ。体も気温も車内の室温もうだるほど暑いのに首筋とか目の周りとか皮膚の弱いところだけスースーヒリヒリしてかえって不快になってしまう。で一度拭いちゃうと結構長いこと効果が続く。霧吹きに入れて水とエタノールと混ぜて噴射してもそこまでじゃないけど、さすがに直で皮膚に付着するとピンポイントで長続きされる。これはこれでキツイ。汗をかくほどそこだけスースーヒリヒリ。西日を浴びてじりじり汗をかきながら首筋だけはスースーヒリヒリ。
そんな午後。
たぶん字数が足りないのでこの時期の思い出の話で言えば、去年も大阪に行っていて廃墟の怖い話が出版されたのでいつもお世話になっているお店やその時に一緒にいた人にお配りしまくっていた。奇跡的に推してるプロレスラー(笑顔と豪快なファイトが魅力の青木いつ希選手だ)の試合があったのでそれも見に行った。あの日も暑くて暑くてどうにもくたばりそうで、けど初日に泊まったネトマルの天井の冷房を効かせ過ぎたせいで汗をかいた体が冷えに冷えてしまい逆に昼前に外へ出たら
「暑くない…」
すでに日は高く登りうだるような気温と湿度だったにもかかわらず、湿度の方は感じても温度の方はさっぱりで、なんというか身体が外側から解凍されていくみたいな感覚だった。20分もしたらすっかり汗だくになっていたし。
あの時はマジで布団に代わるものが薄いシャツしかなく、天井の冷房を弱めようにもそんな気力はなく。結果、合皮製のすぐに冷たくなるフラットシート?にも体温をガンガン奪われながら泥のように眠っていた。それが去年の8月上旬だった。
今年も大阪には行ったし泥のように眠った。三ツ寺会館のBARシックスナインさんのソファで。不思議と落ち着いて眠れた。のか、限界を超えていたか。
お酒、弱いしな、私。
去年は車で向かったので、帰りは暑いなか昼間の国道25号線を走っていた。
八尾市のあたりがまあー混んでて、じりじり進んで行った。
そのまま天理から名阪国道で亀山へ。
その辺りで疲労と陽射しと天理インター直前に買ったモスバーガーのポテトが効いてしまい猛烈に眠かった。豊明辺りまでの記憶があいまいだ。豊明で伊勢湾岸自動車道を降りて国道1号線で帰った。いつでもどこかのコンビニとかで休憩できるように、と思ったけどなんとか帰れた。
あの時もハッカ油を持ってたし、嗅ぎながら西日を浴びてた。
変わらんな、去年と。
変わった人もいるし、いなくなっちゃってる人もいるし、変わらずにいてくれる人もいる。私は来年、どう変わっているかな。変わらないのかな。
職場は変わります。
午後遅くになって黄色っぽい光がじりじりと差し込んでくるさま
が思い浮かぶから大したものだ。
何気なく使っているフレーズ、ニホンゴの一つ一つがそんな風に分解すると意味を持たなくなったり別の言葉になってしまったりで面白い。
…そんなことを考えるくらい、仕事中に思考のやり場がなくなっている。一緒に作業をしている私の後任は覚えこそ良くはないが積極的に覚えようとしてくれるし、自分で動こうともしてくれるのでいいと思う。徐々にではあるが心を開いているおかげか、再三再四の忠告により着替えとタオルを沢山持ってくるようになったおかげか、汗臭いのもだいぶ楽になった。慣れたのかな…?
朝から大汗をかいてやってくる、愛想よく振舞っているが時折どもったりぶっきらぼうな素顔が垣間見える。正直、私はこういう人が嫌いじゃないし、朴訥がゆえに貧乏くじを引いてしまいちょっと斜に構えた性格になってしまったのだと勝手に思う。粗暴なところもあるが素直な人でもある。車の運転は少々雑だが、右折や歩行者に道を譲ることも多い。何か一つ、どこか一つをあげつらってアイツはどうだ、良いの悪いのとその場でだけゴチャゴチャ言う人もいるが、一日一緒にいると色々見えてくる。作業は積極的にこなそうとしてくれるし、至らないところも自分から聞きに来てくれるのでちゃんと教えようという気にもなる。何度も間違えるが、何度でもやり直すしメモも取る。そうこうしているうちに、ちょっとした作業なら一人でこなせるようになった。複合技は難しいが、単品でなら形になってきた。
今日はとうとう、私は助手席に乗っているだけでほとんど作業をしなかった。流石に手助けはするものの、1から10までの8か9は後任の人がこなし、細かいところを直したり教えたりするだけにとどまった。そうしたら、あれだけ袋いっぱいになってた着替えが一枚もなく終わった。タオルを2枚取り換えただけだった。有難いことに違いはないのだが、何しろ落ち着かない。ケツの座りが悪い、とはこのことだ。どうにも申し訳ない気がするし私の方が10歳も年下なのだからエバってるわけにもいかない。まあ新しく未経験で入ってきてエバってくる奴だったらそれはそれでもう知らんが…。努力を摘まないように、だけど惜しみなくダメ出しを。難しいもんだ。結局は怪我無く無事に作業をしてもらうのが一番なので、急かしたりだけはしないつもりだけれど。
でさ。最近ホントあんまり暑いのと午後から眠くなるのとで、ハッカ油を垂らしてしまっておくと他のタオルもスースーするので気持ちがイイ。眠気覚ましにもいいし、花粉症の時期には目鼻もスッキリする。もちろん一瞬の事ではあるが。
私としてはタオルに濃いめに染ませておいて、折に触れて
スウゥゥゥゥゥゥーーーーーーッ
っと吸い込むように使う。
使い道としては汗拭きタオルというよりは美人のおぱんちゅに近い。
で、それでうっかり汗を拭くとどうなるか。
これがまたきっついんだ。体も気温も車内の室温もうだるほど暑いのに首筋とか目の周りとか皮膚の弱いところだけスースーヒリヒリしてかえって不快になってしまう。で一度拭いちゃうと結構長いこと効果が続く。霧吹きに入れて水とエタノールと混ぜて噴射してもそこまでじゃないけど、さすがに直で皮膚に付着するとピンポイントで長続きされる。これはこれでキツイ。汗をかくほどそこだけスースーヒリヒリ。西日を浴びてじりじり汗をかきながら首筋だけはスースーヒリヒリ。
そんな午後。
たぶん字数が足りないのでこの時期の思い出の話で言えば、去年も大阪に行っていて廃墟の怖い話が出版されたのでいつもお世話になっているお店やその時に一緒にいた人にお配りしまくっていた。奇跡的に推してるプロレスラー(笑顔と豪快なファイトが魅力の青木いつ希選手だ)の試合があったのでそれも見に行った。あの日も暑くて暑くてどうにもくたばりそうで、けど初日に泊まったネトマルの天井の冷房を効かせ過ぎたせいで汗をかいた体が冷えに冷えてしまい逆に昼前に外へ出たら
「暑くない…」
すでに日は高く登りうだるような気温と湿度だったにもかかわらず、湿度の方は感じても温度の方はさっぱりで、なんというか身体が外側から解凍されていくみたいな感覚だった。20分もしたらすっかり汗だくになっていたし。
あの時はマジで布団に代わるものが薄いシャツしかなく、天井の冷房を弱めようにもそんな気力はなく。結果、合皮製のすぐに冷たくなるフラットシート?にも体温をガンガン奪われながら泥のように眠っていた。それが去年の8月上旬だった。
今年も大阪には行ったし泥のように眠った。三ツ寺会館のBARシックスナインさんのソファで。不思議と落ち着いて眠れた。のか、限界を超えていたか。
お酒、弱いしな、私。
去年は車で向かったので、帰りは暑いなか昼間の国道25号線を走っていた。
八尾市のあたりがまあー混んでて、じりじり進んで行った。
そのまま天理から名阪国道で亀山へ。
その辺りで疲労と陽射しと天理インター直前に買ったモスバーガーのポテトが効いてしまい猛烈に眠かった。豊明辺りまでの記憶があいまいだ。豊明で伊勢湾岸自動車道を降りて国道1号線で帰った。いつでもどこかのコンビニとかで休憩できるように、と思ったけどなんとか帰れた。
あの時もハッカ油を持ってたし、嗅ぎながら西日を浴びてた。
変わらんな、去年と。
変わった人もいるし、いなくなっちゃってる人もいるし、変わらずにいてくれる人もいる。私は来年、どう変わっているかな。変わらないのかな。
職場は変わります。
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