上 下
776 / 1,299

キッドさんの四国上陸 その1

しおりを挟む
第一話「ビックリするほど晴れた空」の巻

空に星が光るくらい晴れていても、夜空を明るいとは思わないもので
滋賀県のマクドに入る前、ふと夜空を見上げた佐野は思わず声を上げた
佐野「すげえ、すげえ星!」 
助手席の平松も空を見る。幾戦もの星が瞬いている。冬が近づいている事もあるが、元々空気が澄んでいるのだろう。 夜空をさえぎるほどの光も、汚れもないのは素晴らしいことだ
こういう田舎って好きだな

京都府を抜ける頃、いよいよ本格的に夜明けを迎えた。白々してきた空は東のほうに雲が見えた。 そこに朝日が赤みを帯びて昇ってくる…我々は太陽と反対に進んでいるので、眩しくは無い
そのまま大阪府内に突入。周りに車も増えてきた
大阪府大阪市の梅田新道で、国道1号と2号が交差する
しかしちょうど四国の地図にも東海地方の地図にも大阪は詳しく出ていないのでメモ代わりのケータイ画面を何度も確認する佐野
この頃のケータイ地図は今にして思えばホントに不便というか、使える代物ではとてもなかった。というか今が異様に便利なんだろうけどもね

そして辺りはすっかり明るくなり、空も青く光りだしたころ…ここだ。梅田新道だ
心斎橋まで雨の御堂筋を辿れば欧陽菲菲だ
無事、国道2号線に乗る
ココからが本番…と言いたいところだが、実際は半分も来ていない
なんたってまだ兵庫県も見えていないのだ
相変わらず平松は熟睡。朝倉もまだ行けそうだ
佐野も来るべき中国~四国地方のために地図の準備を始める
この日に備えて地図のアチコチにコツコツ目印の付箋を貼り付けていたのだ。誰か褒めて

大阪府を抜けると、兵庫県に入る。尼崎、西宮、芦屋、神戸と順調に走る
佐野「ま~平松も寝てるし」 
朝倉「そうだな。少し走ったらまた休憩だ…そこで交代し「起きてるよ」 
うぉっ!
いつの間にか起き出した平松。丁度良いので駐車場のあるコンビニを探す
が、街中を走っているため中々ない。あっても出にくそうだったりして難儀していると
その名もズバリ「大物公園」。アニメキャラで言うと 
「野原しんのすけ」 
「野比のび太」 
といった大器晩成型の人間がタムロしているのだろうか。 
いや、ひょっとしたら 
「自分は大器晩成と信じ続け、40過ぎても無職独身のアブラハゲオヤジ」 
の憩いの場所だったりして… うひゃあ…
(でもそっちのが行って見たい) 

しばらく走って神戸市内に入り、やっとセブンイレブンを見つける
トイレがてら朝倉にピザまんを買ってあげた佐野。手渡された朝倉に 
「ピザでも食ってろデブ!」 
と2chの慣用句を叩きつけられても泣かない
ついでに、とさらに栄養ドリンクを飲む佐野。もうタウリンとかは過摂取じゃなかろうか
その姿を朝倉が撮影
ドリンク飲んでろデブ! 
などと言わない様に。それは泣くので

ココから運転を平松に交代
平「頑張るよ!全然四国までいけるし!」 
朝「そんなに遅刻の罪悪感を感じなくても」 
佐「あはははは!」 
平「ああ確かに感じてるよ!いま自分で言おうと思ったのに……」 
自虐は自分で言うから成り立つのである

神戸市を抜けてさらに走る
道はしばらく2号線だけだし、さし当たって迷う気遣いは無い
しかし、思えば遠くへ来たものだ…まだ本州だし、世界にはもっと広い国や街同士が遠く離れた国もあるだろう
アメリカやロシアなんか隣の大都市へ行くのに一日がかりなんてざらだし。でもさあ、地図見てテレビ見て、それで納得できるかと言えば、どうだろう。たとえ狭い島国のアスファルトや低い山道であっても、たった数100キロであっても、自分たちで走りぬけたほうが実感できる 
もちろん徒歩や自転車でさえないし、ガソリンのムダだしくだらないと思う人も居るだろう
受験だ、仕事だ、それぞれもっと大事なことがある奴だって、きっといっぱいいるだろう
でも私たちは今これが楽しいし、受験もない。仕事や学校も都合をつけてる
ソレが出来るうちに、やらなきゃ損だ
2020年になってコレを読み返すと、つくづくそう思うね
行きたい場所は行けるうちに、だ

周りはすっかり明るい朝になった
本当に雲ひとつ無い日本晴れ。天晴れ!というやつだ
山並みがくっきり見える
先ほど明け方に見えていた雲もドコへやら
360度、どこを見渡しても青空…車内ではイエローカードの爽やかで疾走感あふれる音色が響いていた
イエローカードも晴れた空に良く似合う! 
懐かしいなイエローカード。当時好きだったんだよな


道路の青看板に「明石海峡大橋」の文字が見えてきた
我々は瀬戸大橋を通るので、一旦明石海峡大橋の下をくぐり、帰りには明石海峡大橋を渡るのだ。なんだこの日程!?

海沿いの斜面にJR神戸線のコゲ茶色が映える。家々が立ち並び、日差しは暖かく、透き通るような青空もあいまって、まるで絵葉書の中を進んでいるようだった

情緒の無いことも言っとくと 
「反対方向(太陽が昇るほう)を向いてたら、眩しかっただろうなあ…」 
と平松君が言っていた

明石海峡大橋は唐突に姿を現した
カーブの向こう側、斜面に隠されるように…ほんの少しアタマが見えた
そして近づくほどに巨大さを増してきた。でかい
なおかつ美しい
様式美というか、このカタチは実用的なものだろう。それがまた美しい

天候に恵まれている事もあって、本当に景色がきれいだった
この橋を明日渡るのかあ、と感慨にふけっていたが、よく考えたら明日はもう帰るのだ。慌しい日程を今更実感する一行であった

やいやい…(三河弁。やれやれ、の意味) 


つづく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

生意気な女の子久しぶりのお仕置き

恩知らずなわんこ
現代文学
久しくお仕置きを受けていなかった女の子彩花はすっかり調子に乗っていた。そんな彩花はある事から久しぶりに厳しいお仕置きを受けてしまう。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

処理中です...