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第732回。(再)第129回。70000円のバッグと夜店とわたし。

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高校生の頃、バイト先のガソリンスタンドで美人のお姉さんと仲良くなった。
当時23歳のマイちゃん(仮名)はバツイチで3歳の娘さんが居た。
お店のお客さんの会社の、そのまた娘さんという事でよく店に来てくれてた。
顔を見ると「ジュース飲む?」といって待合室の自販機でジュースを買ってくれた。ショートカットで日に焼けた素肌が綺麗な人だった。

どーにかお近づきになりたくて、でもあの当時はラインも赤外線通信もないんで、紙切れにアドレスと電話番号を書いてスキを見て手渡した。話をどうにかそっちに持って行って、しれっと。
「あ、これ、じゃあ、よかったら……」
なんてな感じで。これがスマートかどうかは別として、まあそんな風にどうにか切っ掛けを作ってデートに漕ぎつけたのです。

我が家の近所では毎年6月の週末になると緑地公園に屋台が出て納涼祭りが開催される。
そりゃまあ女の子連れて遊びに行きたいわな。それはもう。男ども数人で繰り出しても楽しいけど、同じ学校のあんまり話したことも無いような女の子が何気に男連れで歩いてるの見ちゃったりすると、その後で急激に口数が減ったりしてね。実話。ま、まあやっぱり女の子と歩く夏祭りは良いもんですよ。ええ。

でね。
御多分に漏れず、私も女の子とお祭りに行きたい!と思うわけだよ!お祭り!行きたい!!
いや、もうお祭りをしたい!わっしょいわっしょい!!夜のお神輿を担ぎたい!
おやっさんね、神輿やないの。組がここまでになるのに誰が血ぃ流しとる思ってんの。神輿は神輿らしく大人しくしとればこっちも黙って担ぐがのう、神輿が一人で歩けるもんなら歩いてみいや!おう!?
と心の中で理性と下心の仁義なき戦いがスタート。超ミニサイズの金子信雄さんが
「牛の糞にも段々が、牛の糞にも段々が、牛の牛の糞糞糞糞……」
と言いながら部屋の隅っこを大名行列(それは違うお祭りが開かれちゃってるんじゃないのかキッドよ)
なんだよ大体夜のお神輿って。

で、ジッタリンジンよろしく眩しい浴衣姿で来てくれたマイちゃん。可愛かった。髪の毛にはキティちゃんの髪飾りもつけていた。我が家からマイちゃんの車でお祭りの会場まで行って、そこでぶらぶら歩く。手をつなぎたいけど、なんだか言い出せないまま歩いていると、ちょうど目の前の人だかりの中から
「おう佐野!」
と。声の主は同じ高校の古賀君だった。彼は男前で、男女6人のトリプルデートの最中のようだった。連れてる女の子もみんな可愛かった。けど私は大人のお姉さんといっしょだもんね!23歳!!へへーん!と思っていると、その古賀君たちの後ろから物凄く辛気臭くて気まずそうな顔をした夏目君がヌーっと姿を現した。
どうも付いてきたは良いが完全におミソのようで、まあ奴は色々あってそういう奴なので(詳しく話したいけどそれだとコッチが仕掛けてるみたいになっちゃうんだよなあ、いじめの言い訳みたいで。いなくても厄介な奴だ夏目君)どうせまた古賀君にくっついてイケてるグループの金魚のフンと洒落こんだは良いが居場所が無いのだろう。
さまみろ!!!
とこの時私は確かに思いました。
「今の子たち、だあれ?」
「ああ、高校の同級生だよ!」
美人のお姉さんと一緒な所を見られたので、私は鼻が高かった。

結局、お祭りの夜は良くも悪くも何事もなく終わりました。
その後もたまに会ってデートしてた。ファミレスでご飯食べたり、彼女の車でドライブしたりダベったりして。それだけだったけど、仕事が終わった後のあのひとはいい匂いがした。

そんなこんなで月日が過ぎて、彼女のお誕生日が近づいてきた夏の日。
佐野さん考えました。何がイイだろうか。
大人の女性だから、食べ物や可愛い雑貨とかよりは…もっとちゃんとしたものがいいだろう!

そうだ!カバンだ!!

なぜかブラウン神父のミサを聞いたブルースブラザーズのジョン・ベルーシよろしく
カバンだ! エルウッド!! カバンだよ!!!
(The BAG!)
と神の光が差してしまったのです。

当時、我が家のすぐ近くにあった西武百貨店が完全閉店セール中だった。
そこに行って、約70000円のカバンを買いました。バイトの給料ほぼ一か月分。黒くてしっかりしててオシャレな、とてもかっこいいカバンだと思いました。丁寧にラッピングもしてもらって、意気揚々と家に帰って大事にそれを置いて。
さっそく、愛しのマイちゃんにメールだ。
「おつかれさま。お誕生日もうすぐだね!プレゼント買って来たし近いうちにご飯でも云々」
暫くして彼女から返事が来た。
「お疲れ様です。うれしいけどごめんね、私は佐野君の気持ちには答えられないよ」
ほぼ原文ママ。それまで和哉君だったのが、佐野君になってた。

何が原因なのかは結局わからない。まあでも未成年だし向こうは子持ちだし本気にされたのが…ねえ。
最初に話した時に二十歳ぐらいだと思われてて、なんだか大人にみられてたと喜んでたのもバカみたいなら、夏目君を見下していた自分も惨めで仕方がなかった。

なにより、部屋の棚に鎮座した高級カバン。

どうしよ、コレ。
確かに物はいい。7万円。これだけでもせめて手渡せないだろうか。7万円。
彼女の気持ちが金額で動くと思うのか。7万円で。
…7万円。

3日くらい悩みました。暑い暑い日でした。
返品に行きました。

かっっっっこ悪(ワリ)いーーーーーー!!!!!!!!!!

死にたいくらい恥ずかしかったしみっともなかった……いやもうホントどんな顔してたんだろう私。

結局その後もマイちゃんはお店に来たけど、私のことは避けていました。そりゃそうだ。そのうちに普通にお話しするくらいにはなったので、おそらく彼氏が出来たんだろうな、と思った17歳のキッドさんでした。

納涼祭りの季節になると思い出す夜店と7万円のバッグのはなし。

だっせえ!www
和哉君だっせえ!www
17歳のころってことは15年前かあ。マイちゃん(仮名)いま幾つでどうしてるんだろう。
うへえー、考えるのよそう。
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