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第628回。キッドさんはその辺のじいちゃんばあちゃんとお話するのが好き。

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皆さんこんばんは。ダイナマイト・キッドです。
あのーもうね、のっけからこんな話で申し訳ないんですけども。
毎回、アルファポリスのエッセイ・ブログ大賞のランキングほかツイッターでフォロワーさんが拡散してくれたツイートとか、私のアカウントを幸か不幸か発見して下さってココを読んでくれる人もいるんだろうな、と思って書いてるんだけども。

今日(2018年10月13日)の私キッドはすこぶる機嫌が悪い。
何故こんなマネをされなくてはならないのかわからない。
そのぐらい、やり場のない怒りを覚えている。

夕食のキンピラゴボウの中に私が世の中で二番目に嫌いな
セロリ
が入っていたからだ!!!!!!!
許せねえ!!!!!!!!!!!!

この怒り、どうしてくれよう。
ちなみに世の中で一番嫌いなのは戦争です。

んもーホントにねえ、私ゃ何が嫌いってセロリほど嫌いな食べ物ないんですよ。味も匂いも触感も後味も全部無理!
で、実はもう一品目ダメなのがあって、それが漬物。それも浅漬けね。生臭いというか青臭いうえに酸っぱいんだか甘いんだかしょっぱいんだかわからない、そんでもって野菜がコリコリカリカリしないで
ぎゅにゅっ。
ぶにゅっ
ぐにゅっ。
って感じの食感でしょ?どないせーっちゅうのよ。
この保存と冷蔵の効く世の中で、冷蔵庫のなかった頃の食べ物をそんなにありがたがらなくっても…好きな人にはたまらないが、ダメな人はダメっていう典型的なやつ。
飲み込んじゃったせいでテンションが上がりません。今日は沢山エッセイ書きたかったんだけども…うーん。

まあこんな風に好き嫌いの話なんかしてますとね、お年寄りには
私らのころは食べるものが無くて…
なんて言われたりする。そうだろうなあ。
またウチの爺さんは貧しい農家の三男か四男で、養子に貰われてきたぐらいなので本当に少食で好き嫌いがなかった。その代わり五十代から食が細すぎて、旅行や外食に行っても小学生だった私の方がずっとずっと食べてたぐらいだ。
私の大飯食らいは、豪傑・豪快・健啖家でお馴染みだった婆さんのノリコさんから遺伝したものと思われる。
詳しくはキッドさんといっしょ。「第465回。ビートのりこ」をご参照されたし。

でね。そんなわけで私はじいちゃん子ばあちゃん子として育ったお蔭か、どこへ行ってもわりと優しくていいお年寄りに当たることが多い。高齢者向けの人当たりがイイのかも知れない。
何しろお年寄りは太ったガキが大好き。
そしてガキに何かモノを食べさせてくれるのが大好き。
さてココに祖母譲りの健啖家の血を引いた人当たりのいい太ったガキがいて、向こうからポクポク歩いてきたとする。そう、それが私だ。
ホントに幼稚園なり小学校低学年ならまだしも、私はいつまで経ってもこのまんまだ。
自分で言うのもナンだけど、人様から食べ物を分けて頂くことが多い。
田舎の人には、特にそうやって誰かに施しをする遺伝情報が代々受け継がれているのかも知れない。

二十歳ぐらいの頃、地図の調査員をやっていたころに歩いた山奥で出会った人は、みんなそんな風に親切にしてくれた。お菓子やお茶を頂きながら、アレやコレやと話すと色んなことがわかって面白い。
この土地はいまでこそこう呼ばれているが、戦前とか江戸時代はこうだった、みたいなことを知っている人とか居たりする。この人のさらにおじいちゃん、そのまたご先祖様からずっとここに住んでいるのだとか。そうなると、脳内地図に東西南北だけじゃなく過去のベクトルも出来上がる。
縁側に招かれてあったかいお茶とエンゼルパイを頂きながら、老夫婦ふたり暮らしの四方山話を聞くこともあった。旦那さんは不器用で不愛想で仕事してなくても機械いじりばかりしていて、あの時はこうだった、この時はああだった…そんな話をしているおばさんの顔は全然イヤそうじゃなかったりして。
「じゃあ、そんな旦那様とずっとご一緒なさってるおばさんはまさに良妻賢母ですね!」
なんて言って、エンゼルパイもういっこ貰ったりしてね。

そんな中で、愛知県の屋根と言われる茶臼山高原に向かう国道151号線からグリーンポート宮嶋って道の駅んとこを右に。そっから山を越えて里山をぐるっと回り込んだあたりだったかな…それとも、東栄町の東栄温泉のちょい手前んとこ、川を渡ってすぐの交差点をまっすぐ行って山を越えてったとこだったか…今となってはちょっと記憶が曖昧なんだけど、そこに小さな集落があった。表札が出てたりすると別にわざわざお尋ねする必要は無いんだけど、たまたまその家の人と出くわして話をすることも多くて、そのカワベさんというお宅もそうだった。平屋だけど敷地が広くて、庭のほとんどは家庭菜園になっている。文字通り家のすぐ裏に綺麗な、小さな川が流れていた。
カワベさんの奥さんらしき、おばあちゃんと言った感じの女性が畑仕事をしていたので挨拶をして、そこからまた随分と話し込んでしまった。旦那さんは山を越えて長野県の街まで買い物に行っているそうだ。
この辺りはもう長野に入った方が大きな街やお店が近いとかで、いつもそうしているという。
さらに、息子と娘がいるけれど両方とも遠くで暮らしてて、将来は息子夫婦の家に厄介になる予定だから、この家もいつまであるかねえ…とか、旦那さんが近年大病をしてその面倒を見ていたので自分も「こんきぃ(愛知の方言で、しんどいって意味)」とか。
ついさっきまで他人で、おそらく二度と来る用事はなさそうなこんな山奥で見知らぬおばあさんの身の上話を聞いていると、なんだか頭がクラクラする。すっかり仲良くなったので、今度はバイクで遊びに来る約束をしてその日は去った。
二度と来る用事は無いだろうが、無ければ作ればいいのだ。
私は豊橋で手土産のお菓子を買い込んで、愛車のYAMAHAマジェスティに乗り込んだ。
タンクバッグの中でクッキーの青い缶がたまに揺れてカランと鳴った。
豊橋から3時間半ぐらいずーーーっと走ってやっとたどり着いたら昼だった。
カワベさんご夫婦がちょうどお昼のラーメンを食べようとしているところだったのだが、アンタも食べていきなさい、とご相伴にあずかることに。しかもここで例のデブを発揮し、旦那さんもカワベさんも食べきれないからとお代わりまで…。
持参したお菓子はお腹いっぱいで食べれないんで取っといてもらうことにして、少し話をしてお茶を飲んで帰った。
その夏の終わり、私は地図の調査員の仕事をやめて(元々の仕組みからして必ず短期間の契約だったんだけどね)次のバイトが決まるまでヒマだったんで、よくバイクを乗り回していた。
ふと思い出して、カワベさんのお宅を久々に尋ねてみると、誰もいない。
お留守かしらと思ってその日は帰った。
冬になり、積雪や凍結の恐れがあるんで山の方を走るのはやめて、また春になったんで尋ねてみた。毎回、電話なんかしてなかった。家の場所は知ってるが住所なんかわからないから手紙も出せない。行って、会えばお話するだけだ。

家は残っていたけど、家庭菜園は草いきれの埋もれて、窓や屋根には砂埃がついていた。
玄関の表札も消えていた。
家はもぬけの殻だったのだ。

物置になっている車庫の片隅に、あの時のものとおぼしきクッキーの青い缶が置いてあって、中に小さなショベルやクワが入れっぱなしで放ってあった。
あれから10年以上が過ぎた。もう細かな場所も忘れてしまった。
今でもご夫婦はお元気だろうか、無事に息子夫婦の家で厄介になっているんだろうか。
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