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第616回。キッドさんはバッファローを見た。
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皆さんこんばんは!
ダイナマイト・キッドです。
バッファロー、見たことありますか?
キッドさんは見ました。メキシコの動物園で。
寮生活にも慣れてきた頃に先輩が連れて行ってくれました。
同期のムラカミさんと私と3人だったか、あともう一人同期が居たかも。
私の住んでいたナウカルパンという街からバスに乗って向かったのは首都メキシコシティ。そこにチャップルテペック公園という巨大な緑地公園があり、そのなかに動物園や国立博物館、お城(これが名前の由来だったと思う)に美術館までありました。かなりの大都会の摩天楼の真ん中に。
映画ホームアローン2で夜中にハトおばさんとマコーレー・カルキン演じるケビン・マカリスターが出会う公園みたいな、周りはビルなんだけどそこだけ緑が鬱蒼としていて。
日本だと明治神宮とかあんな感じ?
とにかくケタ違いに広く感じたんだけど、今行ったらどうなんだろう。
動物園もハナシによれば世界有数の動物園だとかで確かパンダも居た。
その時まで知らなかったんだけど、パンダってかなり凶暴なのね。檻の前に貼ってある警告のサインが赤で、それに気が付かずに近づいた私を怒鳴る警備員さん。そんな危ないのか。
あんな呑気そうな風体で。
そんなわけで多分私が初めてパンダを見たのもメキシコだった。
メキシコのルチャ・ドール(プロレスラー)にパンディータというマスクマンがいて、文字通りのパンダレスラー(日本で言えば「タイガーマスク」みたいな感じ)なのでメキシコでもパンダの来墨は結構なセンセーションだったのかもしれない。
入場料や細かな事は忘れてしまったけれど、かなり賑やかな場所だった。当然か。
屋台の食堂やお土産屋さんなんかも沢山あった。
そこをずいずい、と歩いていくと…ひときわ大きな檻の周りに結構な人だかりが出来ている。
それがバッファローの檻だった。
人いきれの頭の上からバッファローの頭が見えた。想像してたのより二回りぐらいデカかった。せいぜい闘牛のちょっとゴツいヤツぐらいだろうと思ってたがとんでもない話。
ウルトラマンエースに出てきた合体超獣ブロッケンか、最強超獣ジャンボキングかといった感じで、中にスーツアクターが二人ぐらい入っててもおかしくないサイズだった。
もじゃもじゃの剛毛に覆われた顔面にウルトラの父みたいな巨大なツノがぎゅん!と伸びている。
黒い顔には鉄仮面みたいな表情を浮かべた目鼻と大きな口。
大きく盛り上がった背中に彫刻みたいな足と蹄。
これが同じ地球の生き物か!?
なんつーか、神々の詩(うた)って昔やってた夜中のドキュメント番組で見てたやつがまんま目の前にいるんで、色んな意味で現実味がない。そもそもここ、メキシコなんだよな…オレ、メキシコまで来て動物園でバッファロー見てるのか…?
って、真昼の陽射しと銀色の摩天楼と目の前の巨獣が全部視覚情報として脳に雪崩れ込んで来るのに処理速度が追い付かないでクラクラうんにょりする感じ。
感覚としては風邪で高熱が出た時の夢に近い。
横にいる先輩や同期も視界から、記憶からさえ一瞬遠ざかって、目の前のバッファローが近づいたり遠ざかったりした。
ハッと気づくと、私たちの周りにも結構な人だかりが出来ていた。周りといえばここはメキシコの首都メキシコシティのど真ん中。目ん玉飛び出るような巨獣の前で呆然と立ち尽くす日本人たち数名も、彼らからしたら十分珍しかったようで奇異の眼差しを随分感じた。メキシコの皆さんは基本的に日本人が好きでいてくれるのだけど、それゆえに通り過ぎざまに
「あっ日本人だ」
と言った感じでチラっと見ていくらしい。私も
JAPON
って札をかけて箱でも空き缶でも持ってたら幾らかもらえたかもしれない。
動物園の帰りに屋台を覗いていると、お土産屋さんとか食堂のほかに、ペイント屋さんの露店があった。
色んなメイクをその場でしてくれるお店で、看板に見本が飾ってある。
動物だったり漫画や映画のキャラクターだったりと様々だが、その中になんと!
ハポネス・カブキのメイクが!
私の先輩、松山勘十郎さんは日本(ハポン)の伝統カブキレスラーの系譜を継ぐ男。
先輩は大乗り気で、奢ってやるからコレやってもらえよ!と囃し立てる。
当然私も断るつもりなど毛頭ない。
ただ……
その歌舞伎の二つ隣に…
KISSが……
私はどーーーーーーーーーーしてもエース・フレーリーになりたかった。
好きなのだ。エースが。
しかし先輩の言うことには逆らえない。私は元気よく返事をした。
「ボク、エース・フレーリーがいいです!!!!!!」
かくして私は陽光きらめくチャップルテペック公園の片隅の露店で小さな椅子に座り、メキシコ人のペイント屋さんに身を(顔面を?)任せること数分。
どこからどうみても顔だけは立派なエース・フレーリーの一丁あがりである。
先輩の指示はもう一つだけあった。
そのままバス乗って寮まで帰ってみんなに見せようぜ!
もちろん私もノリノリである。
その時の写真を撮って頂いたので今でも大事にとってある。
ただ、その時はアメリカに遠征していた勘十郎さんは帰ってきてひとこと
「なんで歌舞伎にしなかったんだよぅ」
とちょっと寂しそうだった。
いまこの機会だから白状すると、確かにエース・フレーリーのメイクをしてみたかった。
けどそれ以上にプロレスマニア独特の変なとこ律義というか臆病と言うか、私が軽々しく歌舞伎メイクをしていいのかどうか凄く怖かった。それも結構大きな原因だった。
けどあんな早く私が帰国しちゃうぐらいなら、一度ぐらい、幻のカブキタッグをやっておけば良かったかな、と今またちょっと後悔している。
ダイナマイト・キッドです。
バッファロー、見たことありますか?
キッドさんは見ました。メキシコの動物園で。
寮生活にも慣れてきた頃に先輩が連れて行ってくれました。
同期のムラカミさんと私と3人だったか、あともう一人同期が居たかも。
私の住んでいたナウカルパンという街からバスに乗って向かったのは首都メキシコシティ。そこにチャップルテペック公園という巨大な緑地公園があり、そのなかに動物園や国立博物館、お城(これが名前の由来だったと思う)に美術館までありました。かなりの大都会の摩天楼の真ん中に。
映画ホームアローン2で夜中にハトおばさんとマコーレー・カルキン演じるケビン・マカリスターが出会う公園みたいな、周りはビルなんだけどそこだけ緑が鬱蒼としていて。
日本だと明治神宮とかあんな感じ?
とにかくケタ違いに広く感じたんだけど、今行ったらどうなんだろう。
動物園もハナシによれば世界有数の動物園だとかで確かパンダも居た。
その時まで知らなかったんだけど、パンダってかなり凶暴なのね。檻の前に貼ってある警告のサインが赤で、それに気が付かずに近づいた私を怒鳴る警備員さん。そんな危ないのか。
あんな呑気そうな風体で。
そんなわけで多分私が初めてパンダを見たのもメキシコだった。
メキシコのルチャ・ドール(プロレスラー)にパンディータというマスクマンがいて、文字通りのパンダレスラー(日本で言えば「タイガーマスク」みたいな感じ)なのでメキシコでもパンダの来墨は結構なセンセーションだったのかもしれない。
入場料や細かな事は忘れてしまったけれど、かなり賑やかな場所だった。当然か。
屋台の食堂やお土産屋さんなんかも沢山あった。
そこをずいずい、と歩いていくと…ひときわ大きな檻の周りに結構な人だかりが出来ている。
それがバッファローの檻だった。
人いきれの頭の上からバッファローの頭が見えた。想像してたのより二回りぐらいデカかった。せいぜい闘牛のちょっとゴツいヤツぐらいだろうと思ってたがとんでもない話。
ウルトラマンエースに出てきた合体超獣ブロッケンか、最強超獣ジャンボキングかといった感じで、中にスーツアクターが二人ぐらい入っててもおかしくないサイズだった。
もじゃもじゃの剛毛に覆われた顔面にウルトラの父みたいな巨大なツノがぎゅん!と伸びている。
黒い顔には鉄仮面みたいな表情を浮かべた目鼻と大きな口。
大きく盛り上がった背中に彫刻みたいな足と蹄。
これが同じ地球の生き物か!?
なんつーか、神々の詩(うた)って昔やってた夜中のドキュメント番組で見てたやつがまんま目の前にいるんで、色んな意味で現実味がない。そもそもここ、メキシコなんだよな…オレ、メキシコまで来て動物園でバッファロー見てるのか…?
って、真昼の陽射しと銀色の摩天楼と目の前の巨獣が全部視覚情報として脳に雪崩れ込んで来るのに処理速度が追い付かないでクラクラうんにょりする感じ。
感覚としては風邪で高熱が出た時の夢に近い。
横にいる先輩や同期も視界から、記憶からさえ一瞬遠ざかって、目の前のバッファローが近づいたり遠ざかったりした。
ハッと気づくと、私たちの周りにも結構な人だかりが出来ていた。周りといえばここはメキシコの首都メキシコシティのど真ん中。目ん玉飛び出るような巨獣の前で呆然と立ち尽くす日本人たち数名も、彼らからしたら十分珍しかったようで奇異の眼差しを随分感じた。メキシコの皆さんは基本的に日本人が好きでいてくれるのだけど、それゆえに通り過ぎざまに
「あっ日本人だ」
と言った感じでチラっと見ていくらしい。私も
JAPON
って札をかけて箱でも空き缶でも持ってたら幾らかもらえたかもしれない。
動物園の帰りに屋台を覗いていると、お土産屋さんとか食堂のほかに、ペイント屋さんの露店があった。
色んなメイクをその場でしてくれるお店で、看板に見本が飾ってある。
動物だったり漫画や映画のキャラクターだったりと様々だが、その中になんと!
ハポネス・カブキのメイクが!
私の先輩、松山勘十郎さんは日本(ハポン)の伝統カブキレスラーの系譜を継ぐ男。
先輩は大乗り気で、奢ってやるからコレやってもらえよ!と囃し立てる。
当然私も断るつもりなど毛頭ない。
ただ……
その歌舞伎の二つ隣に…
KISSが……
私はどーーーーーーーーーーしてもエース・フレーリーになりたかった。
好きなのだ。エースが。
しかし先輩の言うことには逆らえない。私は元気よく返事をした。
「ボク、エース・フレーリーがいいです!!!!!!」
かくして私は陽光きらめくチャップルテペック公園の片隅の露店で小さな椅子に座り、メキシコ人のペイント屋さんに身を(顔面を?)任せること数分。
どこからどうみても顔だけは立派なエース・フレーリーの一丁あがりである。
先輩の指示はもう一つだけあった。
そのままバス乗って寮まで帰ってみんなに見せようぜ!
もちろん私もノリノリである。
その時の写真を撮って頂いたので今でも大事にとってある。
ただ、その時はアメリカに遠征していた勘十郎さんは帰ってきてひとこと
「なんで歌舞伎にしなかったんだよぅ」
とちょっと寂しそうだった。
いまこの機会だから白状すると、確かにエース・フレーリーのメイクをしてみたかった。
けどそれ以上にプロレスマニア独特の変なとこ律義というか臆病と言うか、私が軽々しく歌舞伎メイクをしていいのかどうか凄く怖かった。それも結構大きな原因だった。
けどあんな早く私が帰国しちゃうぐらいなら、一度ぐらい、幻のカブキタッグをやっておけば良かったかな、と今またちょっと後悔している。
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