617 / 1,299
第615回。キッドさんはブルートレインが好き。
しおりを挟む
皆さんこんばんは!
ダイナマイト・キッドです。
早速ですが皆さんはブルートレインをご存知でしょうか。
青い車両の寝台特急。
70年代後半から起こったブルートレインブーム、国鉄民営化、そして相次ぐ廃止…。
激動の昭和を走り抜けたブルートレイン。追憶の彼方にある終着駅で静かに眠るブルートレイン。
ああブルートレイン。
乗りたかった!
北斗星もカシオペアも富士も出羽も陸奥もあさかぜもさくらもはやぶさも彗星も…挙げればキリがない。私が幼稚園児の頃におじいちゃんが買ってくれた鉄道図鑑には華々しく目玉として特集されるブルートレインの雄姿があった。
豪勢な食堂車、賑やかな寝台車B、豪華な寝台車A(シャワー付きの個室)に鮮やかなシンボルマーク。
ディーゼル機関車の重連運転に独特のカラーリングの電気機関車。
アレに乗って夜の線路の上をガタンゴトンと走り、食堂車で高そうで少ないご飯(だってコース料理だっていうし…)を食べたり売店で駅弁を買ったりして、寝台車のベッドで寝て、起きたら北海道。
私はいつかブルートレインで北海道に行きたかった。
でも、私が大人になったらブルートレインはどれもこれもなくなってしまった。
カシオペアも北斗星も限定的な運行で人気が高くてチケットは高い。
気が付けばどっちもなくなってしまった。
今じゃサンライズエクスプレスくらいか。コレだけは後悔しないように乗っておきたい。
でもね、実は、ブルートレイン乗ったことあるんよ。
コレだけは嘘じゃない。
私が住んでる豊橋市の豊橋駅は私鉄とJRのホームが繋がってたり、秘境駅のあるJR飯田線の始発駅だったり、今ではこちらも数少ない路面電車の駅もあったりと、一般の利用者のみならず鉄道好きの方にもお馴染みの駅で。
ここにはブルートレインさくらが停車した。
ずっとずっと小さいころ。まだ我が家の祖父母が健在だったころ。
私に図鑑を買い与えてくれて、人生で最初にして最古の趣味である鉄道に目覚めさせてくれたおじいちゃんと、その付き添いでおばあちゃんに連れて行ってもらって乗った。
真冬に深夜の駅のホームで何時間も待っていた。この時の豊橋駅は、多分まだ改装前で古い駅舎だった。
今よりは駅前の高層ビルや明かりも少なくて、真っ黒な夜空に星がハッキリ光って見えた。
このときの夜空と真夜中のがらんとしたホームは、その後何度も夢に出てきた。
あんまり寒いんで小さめの毛布を持って行って、それに包まってチョココロネみたいになってベンチに座っていた。時折あったかいお汁粉なんかを飲んで、じっと待っていた。
いま、そのときの情景を思い出しながら書いている。
おぼろげな記憶の中で
ピーーーーーン、
ポーーーーーン、
という駅のホーム独特の音が鳴る。これは視覚の不自由な方へのサインだそうな。
おじいちゃんとおばあちゃんが、どんな話をしていたのかは覚えていない。売店も閉まってたし、駅のホームには他に誰もいなかった。やけに白い照明と、THE夜もヒッパレ!みたいなパタパタ回る表示板。
子供にとってはかなり夜遅かったが、今思えば23時前後だったと思う。
やがて小さな明かりがぽつっと見えて、毛布を脱ぎ捨てて黄色い線の内側から(鉄道のお約束と書いて「鉄則」だぞ)それを待ち構えているうちにぐんぐん明かりが大きくなった。
ブルートレインさくら、だった。
青い電気機関車にピンク色のさくらのシンボルマーク。
ゴトゴトゴトゴト、と音を立ててホームに滑り込み、やがてゆっくりと停車した。
降りる人も乗る人もいなかった。
おばあちゃんが私の手を引いて満面の笑みで言った。
「和哉、今だっ!!」
という言うが早いかおばあちゃんは私の手を握ったままダッシュして、適当な車両の右側から乗り込んだ。慌てて、驚いて、そして喜んでいる私をさらに引っ張って、すぐに反対側のドアから降りて三河弁でひとこと。
「やったな、和哉あんたブルートレイン乗っただに!」
このワンフレーズは未だに脳裏に焼き付いている。おばあちゃんのちょっと紫色の入ったトンボメガネ越しの満面の笑顔といっしょに。
車内は深い紅色の絨毯と重厚な木目調の壁、そして静まり返ったドアだけを覚えている。もしかしたら他の資料などで見た車両と混同しているかもしれない。
しかし私はブルートレインに乗ったことがある。
ほんの数秒間だけ。
そのもう少しあとで、ブルートレインはやぶさがやってきて、一瞬で通過していった。
目を凝らして見ていたら、ボディに羽を広げた鳥のマークが見えた。
ショッカーのマークみたいなあれだ。
結局あんまり寒いし眠いし夜も遅いんで、ブルートレインを見に行ったのも乗ったのもこれっきりになってしまった。だけど今でもブルートレインのDVDや雑誌を見ると買ってしまうし、そのたびにあの日の小さな鉄道マニアの太ったガキが喜んでくれる気がするんだ。
割とマジで、死んだら三途の川に瀬戸大橋とか関空に向かうみたいなデッカイ鉄橋がかかってて、そこをブルートレインが走ってるといいなと思う。一旦閻魔様の前で降ろされて、その先は電車の行く先が違うの。
キッドさんがどっち行きの路線に乗るかは一目瞭然だけどね。
ダイナマイト・キッドです。
早速ですが皆さんはブルートレインをご存知でしょうか。
青い車両の寝台特急。
70年代後半から起こったブルートレインブーム、国鉄民営化、そして相次ぐ廃止…。
激動の昭和を走り抜けたブルートレイン。追憶の彼方にある終着駅で静かに眠るブルートレイン。
ああブルートレイン。
乗りたかった!
北斗星もカシオペアも富士も出羽も陸奥もあさかぜもさくらもはやぶさも彗星も…挙げればキリがない。私が幼稚園児の頃におじいちゃんが買ってくれた鉄道図鑑には華々しく目玉として特集されるブルートレインの雄姿があった。
豪勢な食堂車、賑やかな寝台車B、豪華な寝台車A(シャワー付きの個室)に鮮やかなシンボルマーク。
ディーゼル機関車の重連運転に独特のカラーリングの電気機関車。
アレに乗って夜の線路の上をガタンゴトンと走り、食堂車で高そうで少ないご飯(だってコース料理だっていうし…)を食べたり売店で駅弁を買ったりして、寝台車のベッドで寝て、起きたら北海道。
私はいつかブルートレインで北海道に行きたかった。
でも、私が大人になったらブルートレインはどれもこれもなくなってしまった。
カシオペアも北斗星も限定的な運行で人気が高くてチケットは高い。
気が付けばどっちもなくなってしまった。
今じゃサンライズエクスプレスくらいか。コレだけは後悔しないように乗っておきたい。
でもね、実は、ブルートレイン乗ったことあるんよ。
コレだけは嘘じゃない。
私が住んでる豊橋市の豊橋駅は私鉄とJRのホームが繋がってたり、秘境駅のあるJR飯田線の始発駅だったり、今ではこちらも数少ない路面電車の駅もあったりと、一般の利用者のみならず鉄道好きの方にもお馴染みの駅で。
ここにはブルートレインさくらが停車した。
ずっとずっと小さいころ。まだ我が家の祖父母が健在だったころ。
私に図鑑を買い与えてくれて、人生で最初にして最古の趣味である鉄道に目覚めさせてくれたおじいちゃんと、その付き添いでおばあちゃんに連れて行ってもらって乗った。
真冬に深夜の駅のホームで何時間も待っていた。この時の豊橋駅は、多分まだ改装前で古い駅舎だった。
今よりは駅前の高層ビルや明かりも少なくて、真っ黒な夜空に星がハッキリ光って見えた。
このときの夜空と真夜中のがらんとしたホームは、その後何度も夢に出てきた。
あんまり寒いんで小さめの毛布を持って行って、それに包まってチョココロネみたいになってベンチに座っていた。時折あったかいお汁粉なんかを飲んで、じっと待っていた。
いま、そのときの情景を思い出しながら書いている。
おぼろげな記憶の中で
ピーーーーーン、
ポーーーーーン、
という駅のホーム独特の音が鳴る。これは視覚の不自由な方へのサインだそうな。
おじいちゃんとおばあちゃんが、どんな話をしていたのかは覚えていない。売店も閉まってたし、駅のホームには他に誰もいなかった。やけに白い照明と、THE夜もヒッパレ!みたいなパタパタ回る表示板。
子供にとってはかなり夜遅かったが、今思えば23時前後だったと思う。
やがて小さな明かりがぽつっと見えて、毛布を脱ぎ捨てて黄色い線の内側から(鉄道のお約束と書いて「鉄則」だぞ)それを待ち構えているうちにぐんぐん明かりが大きくなった。
ブルートレインさくら、だった。
青い電気機関車にピンク色のさくらのシンボルマーク。
ゴトゴトゴトゴト、と音を立ててホームに滑り込み、やがてゆっくりと停車した。
降りる人も乗る人もいなかった。
おばあちゃんが私の手を引いて満面の笑みで言った。
「和哉、今だっ!!」
という言うが早いかおばあちゃんは私の手を握ったままダッシュして、適当な車両の右側から乗り込んだ。慌てて、驚いて、そして喜んでいる私をさらに引っ張って、すぐに反対側のドアから降りて三河弁でひとこと。
「やったな、和哉あんたブルートレイン乗っただに!」
このワンフレーズは未だに脳裏に焼き付いている。おばあちゃんのちょっと紫色の入ったトンボメガネ越しの満面の笑顔といっしょに。
車内は深い紅色の絨毯と重厚な木目調の壁、そして静まり返ったドアだけを覚えている。もしかしたら他の資料などで見た車両と混同しているかもしれない。
しかし私はブルートレインに乗ったことがある。
ほんの数秒間だけ。
そのもう少しあとで、ブルートレインはやぶさがやってきて、一瞬で通過していった。
目を凝らして見ていたら、ボディに羽を広げた鳥のマークが見えた。
ショッカーのマークみたいなあれだ。
結局あんまり寒いし眠いし夜も遅いんで、ブルートレインを見に行ったのも乗ったのもこれっきりになってしまった。だけど今でもブルートレインのDVDや雑誌を見ると買ってしまうし、そのたびにあの日の小さな鉄道マニアの太ったガキが喜んでくれる気がするんだ。
割とマジで、死んだら三途の川に瀬戸大橋とか関空に向かうみたいなデッカイ鉄橋がかかってて、そこをブルートレインが走ってるといいなと思う。一旦閻魔様の前で降ろされて、その先は電車の行く先が違うの。
キッドさんがどっち行きの路線に乗るかは一目瞭然だけどね。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる