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第370回。Let me out!!
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メキシコでの寮生活中に、同期が一人増えたことがあった。
はるかイギリスから海を渡ってやってくる彼の名はブライアン。
本名はブライアン佐藤君といい、お父さんが日本人でお母さんが香港の人で、香港生まれイギリス育ちの日本人。で、日本の土を踏まないまま今度はメキシコにやって来た。
本籍は横浜だったかな…?とにかくそんな複雑な事情を抱えているのではあったが、肝心の本人は至って陽気で明るいスポーツマン。年齢は私より一歳年上だったが、良くも悪くも子供みたいな人で年齢とか育ちの差を感じることはほとんどなかった。
お父さんが日本人なので日本語を、香港生まれでしばらく育ったのもあって中国語が、さらに寄宿学校に入っていたので英語も出来た。若干19歳にしてトライリンガルだった彼だが日本語はちょっとカタコトで、朴訥な話し方をしていたっけな。
ブライアンはイギリスの学校でアマレスとフットボールをやっていたとのころで、体は私より少し小さく細かったがまあ強かったのなんの。
ガッチリ掴まれたら岩みたいに重くて硬かったし、動きはすばしっこいし、オマケに体が柔らかかった。
私の同期では松崎君と廣川さん、そして今も現役ルチャドールの花岡君が強かった。
松崎君はパンクラスで練習を積んでから入学して来たし、廣川さんはガタイが良くてパワーがあった。
花岡君はガッツで向かってくる。みんなそれぞれ手強かったけど、ブライアンはまた異質だった。
ちょっと出来上がった感じというのかなんというか。
まあ、私はそのブライアンが入学してちょっとしてやめてしまうので、その後どうだったのかはわからないんだけどね…。
でもって、ブライアンは私の隣の部屋に入った。
ので、よく私の部屋に遊びに来てくれた。
何をしゃべるでもなくボンヤリしている時もあったし、ちゃんこ番の買い物に付き合ってくれたりもした。でも時々私が掃除してるところに後ろから飛びかかって来たり、買っておいたお菓子をバリボリ食ってたりもした。憎めないヤツって感じで、仲良くやっていた。
寮生活なのでお風呂や洗濯機の順番待ちが大変。
練習の後のシャワーはザっと入ってしまうけど、休みの日は4階にある堀口さんの部屋が4人部屋でシャワーも部屋の中にあったのでよくお借りしていた。堀口さんは当時すでにデビューしていたし、筋骨隆々のマッチョなイケメンで語学も堪能。確かかなりのインテリだったはず。
文武両道おまけに男前。まさに完璧な…と言いたいところだけど実は朝が死ぬほど弱くてまず起きて来なかったり、多趣味なせいで部屋の中がいつも雑然としてたりで
人間ってどっかでバランス取れてんな
と思うこともたまにあった。物静かで優しい先輩だった。
なのでシャワーをお借りするときもお願いしやすかったし、いつも快く貸してくれてた。
ある日、いつものように私がシャワーをお借りしていると、部屋のドアが開いてブライアンが入ってきたらしいのがわかった。ああ彼もシャワーかな、と思いイソイソと体を拭いて出ようとすると(着替えるスペースは外、つまり部屋側になるのだ)ドアが開かない。
明らかに外から押さえられている。
堀口さんはたまにこういう冗談をやる。
前にも
「佐野君、ラピュタ知ってるよね」
「はい、あのジブリの」
「じゃあ今日のシャワーは40秒で!」
「えええええええ!」
「残り35秒…」
こんなことを言い出したりもしていた。結局頑張ったけど1分30秒が限界だった。今でも風呂が早いのは寮生活でチャチャっと入る癖が付いたのかもしれない。短い間とはいえ3か月ぐらいそうしてたから…毎回こうじゃなかったけどね。
で、今回は閉じ込め作戦と来た。
わずかに開いたドアの隙間から押さえているのがブライアンだとわかった。
出してー!と全裸で叫ぶ佐野君18歳。
それを嬉々として閉じ込めるブライアン19歳。
地球の反対側で何をやってるんだか。
そこに堀口さんから救いの手が
「佐野君、英語で出してくれ!って言えたら出してあげよう!!」
へ?英語…え、え!?
さっき書いたようにブライアンは英語ペラペラ。堀口さんも英語は得意。
さて日本語以外の言葉は野良猫とバルタン星人の言葉しかわからない佐野君。
キエテ・コシ・キレキレテ……などと言ったところで通じるわけもない。
えーっとえっと、
佐「レットミーゴー!?」
堀「惜しい!」
ブ「レットは合ってるよ!」
佐「マジで!?えー…(小声で)ブライアン、なんて言うの!?」
ブ「(小声で)レットミーアーウツ」
佐「れ、レットミーアーウツ!!!」
堀「こらっ!ブライアン、教えたな!?」
やっとこ狭いシャワールームから解放されたと思ったら、パンツを穿いている最中にブライアンから背中にチョップをバチンともらった。
そんなわけで皆さん、どっかに閉じ込められたときは
レットミーアーウツ!
です。それかスマホで警察に電話しましょう。
それでもダメなら、ウルトラサインを出しましょう。
立て!
撃て!
斬れ!
はるかイギリスから海を渡ってやってくる彼の名はブライアン。
本名はブライアン佐藤君といい、お父さんが日本人でお母さんが香港の人で、香港生まれイギリス育ちの日本人。で、日本の土を踏まないまま今度はメキシコにやって来た。
本籍は横浜だったかな…?とにかくそんな複雑な事情を抱えているのではあったが、肝心の本人は至って陽気で明るいスポーツマン。年齢は私より一歳年上だったが、良くも悪くも子供みたいな人で年齢とか育ちの差を感じることはほとんどなかった。
お父さんが日本人なので日本語を、香港生まれでしばらく育ったのもあって中国語が、さらに寄宿学校に入っていたので英語も出来た。若干19歳にしてトライリンガルだった彼だが日本語はちょっとカタコトで、朴訥な話し方をしていたっけな。
ブライアンはイギリスの学校でアマレスとフットボールをやっていたとのころで、体は私より少し小さく細かったがまあ強かったのなんの。
ガッチリ掴まれたら岩みたいに重くて硬かったし、動きはすばしっこいし、オマケに体が柔らかかった。
私の同期では松崎君と廣川さん、そして今も現役ルチャドールの花岡君が強かった。
松崎君はパンクラスで練習を積んでから入学して来たし、廣川さんはガタイが良くてパワーがあった。
花岡君はガッツで向かってくる。みんなそれぞれ手強かったけど、ブライアンはまた異質だった。
ちょっと出来上がった感じというのかなんというか。
まあ、私はそのブライアンが入学してちょっとしてやめてしまうので、その後どうだったのかはわからないんだけどね…。
でもって、ブライアンは私の隣の部屋に入った。
ので、よく私の部屋に遊びに来てくれた。
何をしゃべるでもなくボンヤリしている時もあったし、ちゃんこ番の買い物に付き合ってくれたりもした。でも時々私が掃除してるところに後ろから飛びかかって来たり、買っておいたお菓子をバリボリ食ってたりもした。憎めないヤツって感じで、仲良くやっていた。
寮生活なのでお風呂や洗濯機の順番待ちが大変。
練習の後のシャワーはザっと入ってしまうけど、休みの日は4階にある堀口さんの部屋が4人部屋でシャワーも部屋の中にあったのでよくお借りしていた。堀口さんは当時すでにデビューしていたし、筋骨隆々のマッチョなイケメンで語学も堪能。確かかなりのインテリだったはず。
文武両道おまけに男前。まさに完璧な…と言いたいところだけど実は朝が死ぬほど弱くてまず起きて来なかったり、多趣味なせいで部屋の中がいつも雑然としてたりで
人間ってどっかでバランス取れてんな
と思うこともたまにあった。物静かで優しい先輩だった。
なのでシャワーをお借りするときもお願いしやすかったし、いつも快く貸してくれてた。
ある日、いつものように私がシャワーをお借りしていると、部屋のドアが開いてブライアンが入ってきたらしいのがわかった。ああ彼もシャワーかな、と思いイソイソと体を拭いて出ようとすると(着替えるスペースは外、つまり部屋側になるのだ)ドアが開かない。
明らかに外から押さえられている。
堀口さんはたまにこういう冗談をやる。
前にも
「佐野君、ラピュタ知ってるよね」
「はい、あのジブリの」
「じゃあ今日のシャワーは40秒で!」
「えええええええ!」
「残り35秒…」
こんなことを言い出したりもしていた。結局頑張ったけど1分30秒が限界だった。今でも風呂が早いのは寮生活でチャチャっと入る癖が付いたのかもしれない。短い間とはいえ3か月ぐらいそうしてたから…毎回こうじゃなかったけどね。
で、今回は閉じ込め作戦と来た。
わずかに開いたドアの隙間から押さえているのがブライアンだとわかった。
出してー!と全裸で叫ぶ佐野君18歳。
それを嬉々として閉じ込めるブライアン19歳。
地球の反対側で何をやってるんだか。
そこに堀口さんから救いの手が
「佐野君、英語で出してくれ!って言えたら出してあげよう!!」
へ?英語…え、え!?
さっき書いたようにブライアンは英語ペラペラ。堀口さんも英語は得意。
さて日本語以外の言葉は野良猫とバルタン星人の言葉しかわからない佐野君。
キエテ・コシ・キレキレテ……などと言ったところで通じるわけもない。
えーっとえっと、
佐「レットミーゴー!?」
堀「惜しい!」
ブ「レットは合ってるよ!」
佐「マジで!?えー…(小声で)ブライアン、なんて言うの!?」
ブ「(小声で)レットミーアーウツ」
佐「れ、レットミーアーウツ!!!」
堀「こらっ!ブライアン、教えたな!?」
やっとこ狭いシャワールームから解放されたと思ったら、パンツを穿いている最中にブライアンから背中にチョップをバチンともらった。
そんなわけで皆さん、どっかに閉じ込められたときは
レットミーアーウツ!
です。それかスマホで警察に電話しましょう。
それでもダメなら、ウルトラサインを出しましょう。
立て!
撃て!
斬れ!
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