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第279回。新潟走行記 後編
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さて話は帰り道に飛ぶ。
試合についてはもう、書ききれない思いばかりなので割愛します。
私は松山勘十郎という男をほんのわずかな間でも間近で見られて、ほんのわずかでも同じ時間を過ごして、本当に良かった。幸せな時間でした。
すっかりと暗くなった坂道を今度はポクポク下る。
星が綺麗だ。見上げた顔を少し降ろすと、立ち並ぶ家々の灯りが優しく灯る。
自分がほとんど最後のお客だったにもかかわらず、駐車場に警備員さんたちが居てくれた。
申し訳ないやら有難いやら、嫌な顔一つしないどころか丁寧に送り出していただきました。ありがとうございました。ご苦労様でした。
コンビニで飲み物を買い県道を南下。加茂、そして三条とあっという間に戻ってしまう。
一生の思い出が一旦暗闇に飲まれて、また眩しく輝く日までそこで待っていてくれる気がする。あの暗い田舎道に、良く晴れた昼下がりの田んぼに、大事な記憶が残っているんだ。
あんまり後ろばかり見ていると危なくて運転にならないので、UCCの缶コーヒーを飲みながら北陸道に入る。
あっ!!
やっちまった。
ずっと新潟方面に走ってきたうえ、東京・富山方面などと言われたら愛知県民はわからない。以上、言い訳。これ逆方向だわ。
仕方がないので次の巻潟東(まきかたひがし)インターまで行って戻る。これで走行距離が往復で50キロほど増えたかな?こんだけ走ってると大して変わらない気がしてくる。
料金所を出てUターン。
再び高速道路に舞い戻り一路上越ジャンクションを目指す。
途中またしても花火。信濃川のあたりだったか。
関越道という表示を見るたびに、随分遠くへ来たなあと思う。
普段同じようなところばかりを走っていると新鮮味が違う。距離や時間帯、目的によって見える景色、記憶に残る情景は全然違うし、今こうして大満足で帰路に就けたことを私はずっと忘れない。
帰り道は妙高サービスエリアで休憩。
こまめに休憩を取りながら進む。この時、先週引いていた風邪がぶり返したか喉が痛くって、常に口の中を潤すか、ガムや飴を欠かさず口にしていなければならなかった。
地味に辛かったけど、飲み物を買い込んで再び出発。車内二泊や、どっかの宿に駆け込みで入るのは避けたかった。だが一番怖いのは居眠り運転だ。
大迷宮
(ドン)
難攻不落の要塞
(ドドン)
鉄壁の牙城
(ドドドン)
と水曜どうでしょう風に形容するとこんな感じの、この日本のアルカトラズ長野県に囚われたまま死ぬのは御免だ。
妙高から梓川までのんびり走る。もう時間も遅いし、あまり走る車もない。
トラックや、妙に急ぐ乗用車ぐらいのもの。遠くの、自分は走らない区間で事故。
相変らず夜景が凄まじい。
近くに見える灯りは建物や道路のものだとわかるのであまり関心を引かないが、遠くに散らばる光が集まると、なんだか少し現実的で少し非日常的な物を見ている気分になる。
ただの灯りでも、その建物にどんな人が今、何をしているんだろうとか考えると不思議な気分になる。絶対会わずに死んでいくであろう無数の人たちの灯りだから、通り過ぎるのが惜しいのか。
新潟に行かなければ、藤次郎さんのレジにいたおばさんと話す事も、駐車場の警備員さんたちと話す事も無かった。シマ重野選手をはじめ新潟プロレスを知る事もなく、田上町の街並みを想う事すらなく過ごしていたかもしれない。
そんな事を思うと、やっぱり来てよかった。面白かった!と思うのである。
帰りの食事も梓川。
山賊焼き丼と信州みそラーメン。正確には「俺の信州味噌ラーメン」だそうな。
男性向け?らしくしっかりとした味わい。これは冷えた身体には有難く、痛む喉にはちときつい。でも、美味しかったな。
梓川を出てからは、もう何処にも止まらなかった。
ずっと走った。
お土産も買ったし、最高のプロレスを見た。
新潟県と言う中々行かない場所に行って、普通なんだけど全然違う景色を沢山見た。
体育館に向かう坂道の、あのなんてことのない住宅街を、私は意外と忘れられない気がする。色んな思い出には色んな景色、におい、空の色、その時傍で流れていた音楽が結びついて、映画みたいに残る。
そうすると、良く晴れた田舎道というのは私の好む景色なので、色んな田舎道に色んな情景が重なってくる。
長い長い長野は、帰り道も長い。
中央道に乗って、そこからもずっと車の疎らな道路をごーっと進んでいく。
音楽を流すのにも飽きてしまい窓を開けて走ってみる。
冷えた空気で少し眠気が覚めるが、今度は寒くて眠くなる。
靴の中の足がむくんで、窮屈そうにじんじんしている。
漸く目の前にトラックが見えるが、すぐに追い越してまた見えなくなる。
中央道も終わって東海環状道。そして伊勢湾岸豊田ジャンクションまで来て東名に乗ると時刻は2時を回っていた。しかし、この交通量と言ったらどうだ。
中央道の東京近郊で事故・通行止めが続いているためもあるのかも知れないが、それにしたって。
さっきまで走ってきた、デヴィット・リンチの映画みたいな暗闇と孤独の世界はナンだったんだ。
結局帰りは最寄りのインターまでキッチリ乗って帰宅しました。
もうコンビニに寄る気力もなかったので、自宅のはす向かいの自販機でペプシコーラを買いました。
見慣れた景色に帰ってくると、そんで段々自宅が近づくとせつねえな。
MOTHER2や新桃太郎伝説みたいに、大好きで何度も遊ぶんだけど終わりを知ってるせいで終盤進めるのが嫌になる、あの感じ。
でゲームと違うのは、申し訳ないが桃太郎は竹取の島に上がったぐらいで、ネスたちは最低国に行く直前で止めてもまあ問題はないんだけど、私は帰らなきゃならない。今のところは。あの家に、私の自宅と言う有難い場所に。
家に帰ってシャワーを浴びて、疲れた足をほぐす。
お土産物は机に置いたり、パンフレットをもう一度読み返したり。
校長にもご挨拶できてよかったなと思う反面、パンフレットにサインを頂かなかった(言い出せなくってもらいそびれた)のは正しかったのかどうなのか。少し考え込んでしまったり。
余韻が、疲れが、心地良過ぎて。
夢にまで見たEL.DORADOを、ひとつ垣間見たなと確信した。
そしてこの次は、大阪。11月30日。
もうすっかり通い慣れた西名阪と国道25号線。
少し違うのは、せっかく出来た常設会場ではなく生野区民センター。
通い慣れてきた大阪だけど、ささやかな未知の領域。
大きな楽しみが終わってしまったというのにワクワクして仕方がないこの贅沢な感覚。
龍の一里塚、プロレス黄金の理想郷を私もまた探しに行かなくてはならない。
旅は続くのだ。
気が付くとぐっすり寝ていた。
朝が来て、いつもの毎日が始まる。まだ誰も目覚めていない。思ったより寝ていないけど、目は冴えている。
私はとりあえずパソコンを点けて、撮りすぎた写真を読み込んで選別する作業にかかる事にした。
おしまい。
試合についてはもう、書ききれない思いばかりなので割愛します。
私は松山勘十郎という男をほんのわずかな間でも間近で見られて、ほんのわずかでも同じ時間を過ごして、本当に良かった。幸せな時間でした。
すっかりと暗くなった坂道を今度はポクポク下る。
星が綺麗だ。見上げた顔を少し降ろすと、立ち並ぶ家々の灯りが優しく灯る。
自分がほとんど最後のお客だったにもかかわらず、駐車場に警備員さんたちが居てくれた。
申し訳ないやら有難いやら、嫌な顔一つしないどころか丁寧に送り出していただきました。ありがとうございました。ご苦労様でした。
コンビニで飲み物を買い県道を南下。加茂、そして三条とあっという間に戻ってしまう。
一生の思い出が一旦暗闇に飲まれて、また眩しく輝く日までそこで待っていてくれる気がする。あの暗い田舎道に、良く晴れた昼下がりの田んぼに、大事な記憶が残っているんだ。
あんまり後ろばかり見ていると危なくて運転にならないので、UCCの缶コーヒーを飲みながら北陸道に入る。
あっ!!
やっちまった。
ずっと新潟方面に走ってきたうえ、東京・富山方面などと言われたら愛知県民はわからない。以上、言い訳。これ逆方向だわ。
仕方がないので次の巻潟東(まきかたひがし)インターまで行って戻る。これで走行距離が往復で50キロほど増えたかな?こんだけ走ってると大して変わらない気がしてくる。
料金所を出てUターン。
再び高速道路に舞い戻り一路上越ジャンクションを目指す。
途中またしても花火。信濃川のあたりだったか。
関越道という表示を見るたびに、随分遠くへ来たなあと思う。
普段同じようなところばかりを走っていると新鮮味が違う。距離や時間帯、目的によって見える景色、記憶に残る情景は全然違うし、今こうして大満足で帰路に就けたことを私はずっと忘れない。
帰り道は妙高サービスエリアで休憩。
こまめに休憩を取りながら進む。この時、先週引いていた風邪がぶり返したか喉が痛くって、常に口の中を潤すか、ガムや飴を欠かさず口にしていなければならなかった。
地味に辛かったけど、飲み物を買い込んで再び出発。車内二泊や、どっかの宿に駆け込みで入るのは避けたかった。だが一番怖いのは居眠り運転だ。
大迷宮
(ドン)
難攻不落の要塞
(ドドン)
鉄壁の牙城
(ドドドン)
と水曜どうでしょう風に形容するとこんな感じの、この日本のアルカトラズ長野県に囚われたまま死ぬのは御免だ。
妙高から梓川までのんびり走る。もう時間も遅いし、あまり走る車もない。
トラックや、妙に急ぐ乗用車ぐらいのもの。遠くの、自分は走らない区間で事故。
相変らず夜景が凄まじい。
近くに見える灯りは建物や道路のものだとわかるのであまり関心を引かないが、遠くに散らばる光が集まると、なんだか少し現実的で少し非日常的な物を見ている気分になる。
ただの灯りでも、その建物にどんな人が今、何をしているんだろうとか考えると不思議な気分になる。絶対会わずに死んでいくであろう無数の人たちの灯りだから、通り過ぎるのが惜しいのか。
新潟に行かなければ、藤次郎さんのレジにいたおばさんと話す事も、駐車場の警備員さんたちと話す事も無かった。シマ重野選手をはじめ新潟プロレスを知る事もなく、田上町の街並みを想う事すらなく過ごしていたかもしれない。
そんな事を思うと、やっぱり来てよかった。面白かった!と思うのである。
帰りの食事も梓川。
山賊焼き丼と信州みそラーメン。正確には「俺の信州味噌ラーメン」だそうな。
男性向け?らしくしっかりとした味わい。これは冷えた身体には有難く、痛む喉にはちときつい。でも、美味しかったな。
梓川を出てからは、もう何処にも止まらなかった。
ずっと走った。
お土産も買ったし、最高のプロレスを見た。
新潟県と言う中々行かない場所に行って、普通なんだけど全然違う景色を沢山見た。
体育館に向かう坂道の、あのなんてことのない住宅街を、私は意外と忘れられない気がする。色んな思い出には色んな景色、におい、空の色、その時傍で流れていた音楽が結びついて、映画みたいに残る。
そうすると、良く晴れた田舎道というのは私の好む景色なので、色んな田舎道に色んな情景が重なってくる。
長い長い長野は、帰り道も長い。
中央道に乗って、そこからもずっと車の疎らな道路をごーっと進んでいく。
音楽を流すのにも飽きてしまい窓を開けて走ってみる。
冷えた空気で少し眠気が覚めるが、今度は寒くて眠くなる。
靴の中の足がむくんで、窮屈そうにじんじんしている。
漸く目の前にトラックが見えるが、すぐに追い越してまた見えなくなる。
中央道も終わって東海環状道。そして伊勢湾岸豊田ジャンクションまで来て東名に乗ると時刻は2時を回っていた。しかし、この交通量と言ったらどうだ。
中央道の東京近郊で事故・通行止めが続いているためもあるのかも知れないが、それにしたって。
さっきまで走ってきた、デヴィット・リンチの映画みたいな暗闇と孤独の世界はナンだったんだ。
結局帰りは最寄りのインターまでキッチリ乗って帰宅しました。
もうコンビニに寄る気力もなかったので、自宅のはす向かいの自販機でペプシコーラを買いました。
見慣れた景色に帰ってくると、そんで段々自宅が近づくとせつねえな。
MOTHER2や新桃太郎伝説みたいに、大好きで何度も遊ぶんだけど終わりを知ってるせいで終盤進めるのが嫌になる、あの感じ。
でゲームと違うのは、申し訳ないが桃太郎は竹取の島に上がったぐらいで、ネスたちは最低国に行く直前で止めてもまあ問題はないんだけど、私は帰らなきゃならない。今のところは。あの家に、私の自宅と言う有難い場所に。
家に帰ってシャワーを浴びて、疲れた足をほぐす。
お土産物は机に置いたり、パンフレットをもう一度読み返したり。
校長にもご挨拶できてよかったなと思う反面、パンフレットにサインを頂かなかった(言い出せなくってもらいそびれた)のは正しかったのかどうなのか。少し考え込んでしまったり。
余韻が、疲れが、心地良過ぎて。
夢にまで見たEL.DORADOを、ひとつ垣間見たなと確信した。
そしてこの次は、大阪。11月30日。
もうすっかり通い慣れた西名阪と国道25号線。
少し違うのは、せっかく出来た常設会場ではなく生野区民センター。
通い慣れてきた大阪だけど、ささやかな未知の領域。
大きな楽しみが終わってしまったというのにワクワクして仕方がないこの贅沢な感覚。
龍の一里塚、プロレス黄金の理想郷を私もまた探しに行かなくてはならない。
旅は続くのだ。
気が付くとぐっすり寝ていた。
朝が来て、いつもの毎日が始まる。まだ誰も目覚めていない。思ったより寝ていないけど、目は冴えている。
私はとりあえずパソコンを点けて、撮りすぎた写真を読み込んで選別する作業にかかる事にした。
おしまい。
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