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第248回。センシュウノイマゴロハ
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10月7日土曜。午前6時ちょっと過ぎ。
会社は休みだと言うのに私はいつも通り朝早くから仕事に向かった。
進行方向の空は晴れているのに、しつこい雨がまだ降ってる。まるで終わりから目をそらし続けている失恋のように。前を走る車が、雨のせいかことごとくゆっくり運転なのもイラ立ちを増した。
タダシイことは時々邪魔だ。
あと少ししたら、この名ばかりのバイパスも通勤の車でふん詰まりになる。毎朝それが嫌でたまらない。横をすり抜ける原付も、当然のように追い越して信号待ちで割り込むバイクも気にくわない。
走るだけで憂鬱のメーターが上がってゆく大嫌いな道。
やっと右折してふと窓の外を見たら虹が出ていた。雨は少し小降りになっていた。
空もさっきよりも晴れてきている。いいことだ。いいことがあった。そう思って少しアクセルを緩めて、工場の建物が途切れるたびにちょっとずつ虹を見た。ちょっとずつしか見てないから中々消えない気がした。
街路樹、日東電工の看板、晴れ間をバックに四半分だけ空をかける虹。その上にも副虹。やがて左折して、また虹を背負って走り出した。今度はあんまりイラつかなかった。
土曜日だ。そうだ、土曜日だ。
センシュウノイマゴロハ。
考えなくてもいいことが、考えないようにしていたことが案の定脳裏をよぎって雨粒といっしょにワイパーではじかれてゆく。お祭りの準備で提灯や通行止めの看板が出ている。会所となる公民館では法被を着た人たちが既に何人か集まっていた。雨はこのまま上がるだろうか。
また別の町内では、また別の日のお祭りの立て看板。
その週末も私は仕事なのだと言うことを思い出して朝からフウとため息を吐く。腹の中に詰まっている生暖かい感情から揮発したガスだけがほんの少し出ていって、また充填され膨張する。
坂道を少し上り、スーパーマーケットの裏口側を通る。トラックが何台も停まっている。19の夏、私もあのトラックから野菜を下ろして冷蔵庫に搬入する仕事をしていた。時間が短くバイトだからお給料も少なかったけど、時間だけはあったしあの頃よく昼から原付で海へ行ってぼんやりしていた。その海のすぐそばの会社で、この生活を維持するために働いている。10年。短くも長くも感じる年月を結局この周辺で過ごしている。
会社の門は閉まっていた。朝早くに点検に来た人は、もう帰ってしまったようだ。
車を降りて鍵を開け、ゲートを畳んで、車に戻って適当に停める。
隣の工場の屋根の上に、まだ虹がかかっていた。
すっかり小降りになった雨が名残惜しそうに肩を濡らしているが、構わずに仕事を始めることにした。
会社は休みだと言うのに私はいつも通り朝早くから仕事に向かった。
進行方向の空は晴れているのに、しつこい雨がまだ降ってる。まるで終わりから目をそらし続けている失恋のように。前を走る車が、雨のせいかことごとくゆっくり運転なのもイラ立ちを増した。
タダシイことは時々邪魔だ。
あと少ししたら、この名ばかりのバイパスも通勤の車でふん詰まりになる。毎朝それが嫌でたまらない。横をすり抜ける原付も、当然のように追い越して信号待ちで割り込むバイクも気にくわない。
走るだけで憂鬱のメーターが上がってゆく大嫌いな道。
やっと右折してふと窓の外を見たら虹が出ていた。雨は少し小降りになっていた。
空もさっきよりも晴れてきている。いいことだ。いいことがあった。そう思って少しアクセルを緩めて、工場の建物が途切れるたびにちょっとずつ虹を見た。ちょっとずつしか見てないから中々消えない気がした。
街路樹、日東電工の看板、晴れ間をバックに四半分だけ空をかける虹。その上にも副虹。やがて左折して、また虹を背負って走り出した。今度はあんまりイラつかなかった。
土曜日だ。そうだ、土曜日だ。
センシュウノイマゴロハ。
考えなくてもいいことが、考えないようにしていたことが案の定脳裏をよぎって雨粒といっしょにワイパーではじかれてゆく。お祭りの準備で提灯や通行止めの看板が出ている。会所となる公民館では法被を着た人たちが既に何人か集まっていた。雨はこのまま上がるだろうか。
また別の町内では、また別の日のお祭りの立て看板。
その週末も私は仕事なのだと言うことを思い出して朝からフウとため息を吐く。腹の中に詰まっている生暖かい感情から揮発したガスだけがほんの少し出ていって、また充填され膨張する。
坂道を少し上り、スーパーマーケットの裏口側を通る。トラックが何台も停まっている。19の夏、私もあのトラックから野菜を下ろして冷蔵庫に搬入する仕事をしていた。時間が短くバイトだからお給料も少なかったけど、時間だけはあったしあの頃よく昼から原付で海へ行ってぼんやりしていた。その海のすぐそばの会社で、この生活を維持するために働いている。10年。短くも長くも感じる年月を結局この周辺で過ごしている。
会社の門は閉まっていた。朝早くに点検に来た人は、もう帰ってしまったようだ。
車を降りて鍵を開け、ゲートを畳んで、車に戻って適当に停める。
隣の工場の屋根の上に、まだ虹がかかっていた。
すっかり小降りになった雨が名残惜しそうに肩を濡らしているが、構わずに仕事を始めることにした。
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