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第239回。ガソリンスタンドの思い出。

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なんかもっといいサブタイトル無かったのかキッド。
思いついたら不意に差し替えます。
人生初のアルバイト。15の4月から17の11月くらいまでやってたガソリンスタンド。出光の。
なので今でも何となく給油は出光です。別にガソリンやオイルの違いなんぞわかりゃしないけど、余裕があるうちは探して出光で給油してる。

世の中のお店に来る嫌な客という人種は、自分が接客をしたことが無いか、してたけどすげえ嫌な目に遭ったんだと思う。私も随分嫌な奴を見てきた。
けど、そういう話をしてもつまらないので、もうちょっとこう、まあなんだ。変わったお客さんの話でも。

そうは言ってもキッドさん。15歳。豚骨タンクローリーなりに若く、色気づいておりました。なので美人のお客さんのことは色々覚えていることもあれば、忘れられないことも、忘れてしまいたいこともある。

で、それと同じくらい、おかしなお客さんのことって案外覚えているもんで。
先ず真っ先に思い出すのは、この南国愛知に大雪が降った次の日の朝。
運悪く日曜日で、運悪く出勤の日。しかも早番で開店の準備をするにもまずは雪かきから。慣れない重労働で7時開店なのに8時半にはバテていた。
でお客さんもあんまり来なかったのだが、ひとりフロントガラスがバッチリ凍ったまま時速10キロぐらいで走ってきた外人さんが居た。彼はブラジルの人なので雪なんぞ滅多に見ないそうで、カタコトの日本語で
「コオリ、ガラス、オネガイシマス!」
というのでガソリンはどうするのかと聞くと
「アトデ、イレニ、キマス!!」
ホントかよ。悪意ではなく、彼らは本当にスッポリ忘れるのだということをこの3年後にみっちり思い知るのだが、今はまだ純情キッド。
まあ後で来るんなら…どうせ会社の掛け売りカードだろうけど、客は客だしな。と親切にフロントガラスの氷に熱湯をぶっかけて溶かしてあげた。
「イマハアンゼンガダイイチダトオモイマス!」
とブラジル人客。お前どこでそんな標語じみたフレーズを覚えたんだ?と言いたいのをぐっとこらえて窓ガラスを綺麗にしてあげた。
そして彼は給油の事も綺麗に忘れてしまったようだった。

こんな些細な、15年ぐらい前のある朝のことを急に思い出したりする。別になにかきっかけがあるわけでもなく、不意に
ああ、あんなことがあったな
と。そういう時に、首尾よく昔話に付き合ってくれる人も中々いないので、ここに書いておく。みんないつもありがとう。

あとどんなヒトが来たっけな。
ヤのつく怖いお兄さんも結構来ていた。
いつも白くて高そうなベンツに乗っている気風の良いアンチャンと、絵に描いたようなハマーに乗った親分。
この2人は別格だったな。白ベンツのアニキはいつも手洗い洗車でピカピカにしてからどこかへ出掛けるらしく、日曜日の朝8時45分ごろになると決まってやってきては洗車を頼んで新聞を読んでいた。意外とインテリだ。
親分のハマーといえば私、肝を冷やしたことがあった。

この親分、安岡力也さんと竹内力さんを足して松方弘樹さんで割ったような風貌のトンデモ親分だった。見るからにごっつい。小さめの岩みたいだった。
で乗ってるのがハマー。若くて物凄い美人の奥さんらしき女性がいつも一緒だった。で、これまた高そうなタバコの入った灰皿を掃除して手渡すと、
アレ?入らねえな…。
灰皿を差し込んで固定するバネが無い!?

さあ大変。
顔面蒼白で探し回るキッド。
しばらく探しても見つからず、どうしよう…!と思っていると

オウ、あったあった!兄ちゃん悪かったな。

自分で外した時に座席の下に転がってしまっていたようだった。
マンガか映画みたいな話だけど、たまたま奥さんが財布から出したカードを落としてしまい、拾うときに見つけてくれたらしい。
上機嫌で走り去る親分夫妻。

ああー、良かった。危うくクビが飛ぶかと思った。
と胸をなでおろしていると、副店長(サブマネージャー)夫人のマサコさんが私の肩をポンと叩いて一言。
「オイ、小指が繋がっててよかったな」
クビが飛ぶより怖いわ。

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