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第203回。遊星からの物体X

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掲載日2017年 08月26日 01時00分

 名作映画。
 もはや古典と言えるかもしれないけど、SFXもストーリーも今なお色褪せない。おぞましいけど目が離せない、あのクリーチャーどもの不気味な姿は一度見たら忘れられないこと請け合い。ウルトラマンや仮面ライダーに慣れていると猶更。奴らは姿カタチを持たない。だから最初は、その存在にも気付けなかった。だが、気付いたときには遅すぎた。あの犬が、顔が、あんなことになるなんて。物語は一寸の容赦もなく進んでいく。冒頭の犬を保護しようとするところ以外で隊員たちが余裕を見せる場面も無い。当然恋愛や女性がらみの問題も起こりようがない。舞台が整い役者がそろった。主演はカート・ラッセル。消防士でもプリスキンでもない。万能の主人公なんてのもまた、ここ南極には居やしないのだ。

 最初のシーン、雪原を走る犬。その後ろから銃撃する兵士。彼は何もかも知っていた。だが、犬はまんまと基地に入り込む。その走る犬の足元とその場面のBGMが織り成す「嫌な予感」は、この直後からエンドロールまで的中し続けることになるのだ。この映画はそういう作品である。

 姿なき殺戮者に怯え、怒り、不安と焦りを募らせてゆく基地の隊員たち。疑心暗鬼のなか無残に殺されてゆく。事態にいち早く気付いた科学者は発狂し基地の機能を停止させる。それは基地の隊員たちにとって最悪の事態であり、人類にとっては最善の策だった。極寒の空気と燃え尽きるのを待つしかない炎の対比。やがて姿なきクリーチャーは血液の一滴ですら化けられることに気が付く。そして、流れ出した血を熱してクリーチャーが化けた姿を見極めようとする。疑わしい仲間を縛って皮膚を切り付け、流れ出した血に熱したワイヤーを突っ込む。ひとり、またひとりと血液を焦がされてゆく。そして…。この場面の、縛られて身動きの取れない仲間の表情が強烈で素晴らしい。もし隣の奴が化け物だったら、真っ先に喰われるのは自分なのだ。それがありありと表れている。

 極めつけのシーンと言えば、診察台の上で心臓マッサージを受けている最中の襲撃だろう。誰もその瞬間に「来る」とは思わない。私も知らないで見てたから、こっちの心臓が止まるかというぐらいビックリした。ただし圧巻なのはそのあとだ。燃え上がる炎に焼かれたクリーチャーの首が溶けるように千切れて床に落ちる。フツーの特撮ならこれで終わりだろう。詰めが甘ければこの生首の処理をせずに話が進むこともあるくらい。この映画が名作たるゆえんはココにある。この生首がカニかクモのようにして歩き出し、みんなが燃え上がる胴体に気を取られているあいだにカサコソと部屋を抜け出そうとするのだ。幸いにして隊員が気付いていたとはいえ、あれに逃げられてたらと思うとゾッとする。私がいちばん好きな場面はここで、生首が千切れて床に落ちて、歩き出すシーンは珠玉の数分間であると言える。

 最後はたった二人だけ生き残って、最後まで疑心暗鬼なまま、燃え尽きる命の炎を茫然と見つめて物語は終わる。カメラが停まって炎が消えれば、やがて極寒の冬が来る。南極の氷に閉ざされて全てが振出しに戻る。山のような死体を残して。

 この映画の良い所は、万能で無敵性能のクリーチャーにどうにか食らいついて、殺したり殺されたりの攻防を繰り広げるスリル、そしてクド過ぎず残酷でテンポのいい人間同士の潰し合いがきちんと両輪バランスよく回っているところ。先に述べた手術台のシーンなんかは最たるもので、このシーンだけでも物凄い強烈だけど、実際はここに至るまで流れるように話が進んでいる。それを一つ一つ、ああいやだいやだ、と思いながら追い続けていくと突然ヤツが現れて大暴れし、大騒ぎのうちに戦いが一旦鎮まり、またじとーっと冷たく寒い静けさが戻る。戦いが進むにつれて破壊され、寒さを増していく基地も見逃せない。

 怖いのや気持ち悪いものが苦手じゃなければ是非見て損はない作品です。
 遊星からの物体Xでした。
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