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第156回。カニクリームコロッケと背負い投げの時代

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掲載日2017年 07月10日 01時00分

カニクリームコロッケと背負い投げ

中学で柔道部に入って柔道を始めたキッドさん。
寝技は苦手だけど投げ技はさほど上手くならず、パンチとキック(いわゆる当て身)は当然禁止。
そういうわけで闘争本能と見様見真似のスリーパーホールド(柔道では裸締めってことになる)だけを武器に何とか戦っていた。ホントに今考えても不器用極まりない、力任せでバタバタした酷い有様だった。

ライバルであり仲間には軽量級のコンちゃん、小学生のころから柔道やってる期待のエース・ダンディ山田、中量級のケンちゃん、そして体重120キロの巨漢・クマさんらがいて強敵ぞろいだった。
強敵と書いて強敵(とも)と読む、と北斗の拳みたいなことを言ってみても今更だなあ。

そんなある日、背が低くて小太り、ずんぐりむっくりの加藤君に攻めあぐねていたキッドさんを見かねた組長…ではなく顧問の梅原先生が
「オイ佐野! バックドロップだ!!」
その瞬間、背負い投げの態勢に入った加藤君の体が逆さまに宙を舞った。
キッドさんは当時、毎週テレビで放送されてた後藤達俊選手の得意技・高角度バックドロップをマスターしたくて敷布団を巻いたやつで毎晩練習していたのだ。そして練習の甲斐あって加藤君は見事なフォームのバックドロップで叩きつけられて悶絶。

この日から私は改良を重ねて、裏投げを得意技にしていった。中学生では中々使い手が居ないので面白いぐらい決まったけど、自分よりずっと強くて上手いやつはそもそも返されるような投げ方をしないので全く歯が立たないこともあった。

そんな風に毎日一生懸命練習してた。
嘘。彼女が出来たりすると、サボってデートしてた。
あとでバレてこっぴどくしごかれたけど。

こんな奴にも進級すれば後輩が出来る。
私らの同級生は辞めちゃった奴も含めると10人ぐらい居た。
その下の世代は4人しかいなかった。のちに剣道部から移籍してきてやっとこ5人。だけど、この5人は仲も良かったし、そのうちの一人の彦坂君は大変なしっかり者で、柔道部員にするにはもったいないくらいの人材だった。
強さより徳だとか知でもってみんなをまとめてくれるタイプだ。
実際に2017年現在でも、この彦坂君と、移籍してきた細田君が頑張って毎年12月末には忘年会を開いてくれている。顧問の梅原先生もお招きして居酒屋で飲み会をするのだが、我々だけだったら金銭トラブルも待ち合わせの不備も散々あるだろうに…一度もそういう事がない。彼らのお陰だ。

そんな優秀な彦坂君だが、中学時代はお昼のお弁当にカニクリームコロッケが必ず入っていたらしい。
何かで書いたけど、あの頃は人にやたらと名前を付けていたので、彦坂君のリングネームは満場一致でカニクリーム彦坂になった。
細田君の家は建具屋さんで、当時は表にメーカーの看板が出ていたことからトステム細田。私の家の近所に住んでる石黒君は花火とおもちゃと駄菓子の問屋さんの3代目なので電器屋の3代目であるルーク篁参謀みたいになるかと思いきや、体型がムッチリしているのでムッチ石黒になった。グッチ祐三みたいでちょっといいな。

ムッチの家は結構なお店(たな)なので、お弁当も豪華だ。
報告によるといつぞやの試合の日、朝練の後におもむろに弁当を食いだしたがその中身がうな重だったことがあるそうな。
お前、すげえな!
というわけで、ムッチ石黒うな重伝説は今も語り継がれている。大事な試合でうな重食うのもムッチ石黒か、先ごろ引退した加藤一二三(ひふみん)さんくらいのもんだろう。

大体、学校でも合同練習でも弁当を食い終わった後は遊んでいた。
午前中が8時半から12時まで、午後も13時から17時までミッチリ練習するのに、飯を5分で食い終わってあと遊んでたんだからどういう体力をしてたんだか、まあ、合同練習になると仲のいい他校の選手と組んで、足払いしながら上手に体力回復してたりしたか。練習の終盤になると必ず、何人かが前に出て3分の乱取りを連続でこなす練習があるのだが、こう見えてキッドさんは練習熱心だったので率先して前に出ていた。でも疲れてくると仲良しの小尾(おび)くんや小野くんといった他校の選手に目で合図して組んでもらってた。もちろん、合図も虚しく冗談の通じない園田君とかが来ちゃうと猶更辛かったりもした(けど園田君も超いいやつだった。元気かな)なあ。

ひるめしのもんだい、とはかくも楽しいもので、とにかくあの時分は食ったら即遊んでいた。寝ていることもあったけど、みんなが遊びだすと、なんかもったいなくて。特にいま名前を挙げた子たちが居た本郷中学とわが校は友好的だったので、しょっちゅう一緒に練習してた。本郷中学の顧問の先生が他所と練習すると張り切るらしく、見栄を張って筋トレのメニューが倍になってると小尾くんがこぼしていたっけな。
それでも今思い出すと辛かったというより、楽しかったなあ。
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