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第135回。入江弥彦さんのモノガタリ
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掲載日2017年 06月19日 01時00分
フォロワーさんに作家の入江弥彦さんという方がいる。
私は、この入江さんのファンになって久しい。
最近も新刊
cRown
oN
cLown
を拝見したばかりだ。
この本におさめられている短編はどれも不思議で、不条理で、理不尽な世界での出来事だ。
いま居る現実の世の中が少しずつずれて進化したような世界。
それが結局どう転んでも結局ディストピアだったんだろうな、と思わせる身近な暗黒世界が描かれている。
時空モノガタリさんにも投稿されていた作品で、短編集の中で一番好きな
「水底から一閃」
さらに書き下ろしの
「入水」
この二つの作品の世界には共通点があるように思える。
それは理不尽で不条理で不思議なまでに自然な形で横行する退廃と混沌である。
装甲騎兵ボトムズのナレーション風に万丈ボイスでお届けしたいがそれは後だ。
とにかく入江さんの作品には、全体的に暗く重いディストピアの空がかかっているのだ。
入水に出てくる汚染された半魚人。
水底から一閃ですっかり水没した街並み。
こうした情景は、私がいつもいつでも何より書きたくて書きたくて、椎名誠さんのSFを幾つも読んで頭の中で拡げては崩れ、描こうとしては薄れ、思い出しても元通りにならず、そうこうしているうちに次のものが思いうかんで忘れて行ってしまったような、早い話が
「コレだよ! コレが書きたかったんだ」
と思うと同時に
「やられた・・・! こう書けばいいんだ!!」
と思わせられる描写の数々だった。
当たり前ながら、いつも私の一枚も二枚も上を行く入江さんの精緻でありながら廃れ切っているどこか近くて遠い他所の未来。
コミコや他の短編集などでは実に爽やかな、清々しい作品も書けるのに。完全に推測だけれど、入江さんは寂しくて薄暗くて遣り切れなさが空気の中にうっすらと溶けだしている雰囲気を、きっと心の中に持っているのだろう。
荒涼とした景色の中に赤い花が一輪あればその絵は明るさを得たものとして看做される。入江さんの作品は、結局そういう事なのだと思う。
今回私が読んだ短編「ネジマキ式の音鳴りさん」も素晴らしかった。
詳しい内容は是非、時空モノガタリさんの入江さんのページでご覧いただくとして、簡単に言うと音楽の変容しきってしまった世界に残った、古いタイプの人間と、古いタイプの音楽のはなし。
ネジマキという言葉が肝になっている。
映画のGattacaみたいに、色々なものが先鋭化しすぎて選別され過ぎて、それ以外のものが存在する事さえ許されなくなってる世界。
あの映画はエリートに食い込む落ちこぼれの話だったけど、このネジマキ式の音鳴りさんは、その落ちこぼれている方のリアルな生活を描き出しているような気がする。全然関係ないと思うけどね、映画と、この作品自体には。
でも、私の好きなディストピア映画で言えば、Gattacaにしろ、未来世紀ブラジルにしろ、選ばれ抜いた人間の世界の、そのずっと下層の人々に感じられる選ばれずに生き続けた時間みたいなものが、このネジマキ式の音鳴りさん、そして水底から一閃、入水などに度々見受けられる。
荒涼として退廃を迎え滅亡に向かって行く暗黒の世界で、「何処かの誰かども」の理想郷からハミ出して生きる人々の儚くも力強い一瞬を捉えている作品だ。
入江さんの作品はアマチュアにありがちな、美しく流れるような文章ばかりじゃない。
カッコつけてて、大袈裟なくせに中身のない文章なんて掃いて捨てるほどある。
綺麗な所は、嫌な予感がするぐらい綺麗に。
落ちるところはゴミ溜めの底が抜けるぐらい落ちる。
このメリハリと、そこかしこに見え隠れする伏線を踏んだ時の快感。
ああ、ここに繋がるのか、と。薄暗い世界で灯りを見たような安心感もあるのが入江さんにハマってしまう大きな要因だ。
これより少し前に入江さんが発表した「草の芽が生える頃まで 」では、もっと直接的な愛憎劇が語調豊かにつづられていた。てっきり、私は入江さんはそういう作家さんなのだと思っていた。確実に、過去に何かしらの修羅場をくぐったり、何処かに傷を負っていなければこうは書けないだろうなという描写がある。二つの果実、白い缶詰、卒業、コレとはさらに別の場所に書かれたサクランタクランなどなど。
入江さんはツイッターではクールで、表情豊かで、礼儀正しい優しい人だ。
だけど、心の中に抱えているナニカトンデモナイモノは普段きっともっと暗くて深い場所に閉じ込められていて、時折ゴゴゴゴっと脈動するときに片鱗をのぞかせるのだろう。
ネタバレしないように、と思っていると言い回しが抽象的で、面白さが伝わっているかわからない…けれど、直接的な感想は時空モノガタリさんの記事の方にするつもりなので、今回ここでは、このような文章になってしまって申し訳ない。
何のことだかわからねえよ!
と仰る方も居るかと思う。
なので、是非、本編を見て欲しいのです。
時空モノガタリでの入江さんの短編は、どれもサックリ読めるし内容は濃い。
短い時間で読めるが、頭に入ってくる情報量はとても豊かだ。そしてそれがとても心地よい。
ツイッターを使っている方は入江さんのアカウントを探すもよし、直接ググって時空モノガタリに飛ぶも良し。
ディストピア系のSFが好きな方は、きっと気になるフレーズや情景が出てくるはずだと思います。
そうではなくとも、面白い短編が必ず見つかります。いろんなタイプのがあるので…。
私も勉強がてら楽しみ半分ではあるものの、また色々読ませていただきたいと思っている作家さんの一人です。
インディーだろうとアマチュアだろうと、やっぱり行動的で、攻撃的で、でも優しくあろうとする人はかっこいい。入江さんはそういう人だと思う。
マンガ家さんだとハヤリエリさんもそうだけど、この刹那、この心持ち、今生きるしかない遣る瀬無さを画面越しに叩きつけてくる。この感じ。私にはたまんない。
皆様もぜひ。入江弥彦さんのモノガタリの中へ。
フォロワーさんに作家の入江弥彦さんという方がいる。
私は、この入江さんのファンになって久しい。
最近も新刊
cRown
oN
cLown
を拝見したばかりだ。
この本におさめられている短編はどれも不思議で、不条理で、理不尽な世界での出来事だ。
いま居る現実の世の中が少しずつずれて進化したような世界。
それが結局どう転んでも結局ディストピアだったんだろうな、と思わせる身近な暗黒世界が描かれている。
時空モノガタリさんにも投稿されていた作品で、短編集の中で一番好きな
「水底から一閃」
さらに書き下ろしの
「入水」
この二つの作品の世界には共通点があるように思える。
それは理不尽で不条理で不思議なまでに自然な形で横行する退廃と混沌である。
装甲騎兵ボトムズのナレーション風に万丈ボイスでお届けしたいがそれは後だ。
とにかく入江さんの作品には、全体的に暗く重いディストピアの空がかかっているのだ。
入水に出てくる汚染された半魚人。
水底から一閃ですっかり水没した街並み。
こうした情景は、私がいつもいつでも何より書きたくて書きたくて、椎名誠さんのSFを幾つも読んで頭の中で拡げては崩れ、描こうとしては薄れ、思い出しても元通りにならず、そうこうしているうちに次のものが思いうかんで忘れて行ってしまったような、早い話が
「コレだよ! コレが書きたかったんだ」
と思うと同時に
「やられた・・・! こう書けばいいんだ!!」
と思わせられる描写の数々だった。
当たり前ながら、いつも私の一枚も二枚も上を行く入江さんの精緻でありながら廃れ切っているどこか近くて遠い他所の未来。
コミコや他の短編集などでは実に爽やかな、清々しい作品も書けるのに。完全に推測だけれど、入江さんは寂しくて薄暗くて遣り切れなさが空気の中にうっすらと溶けだしている雰囲気を、きっと心の中に持っているのだろう。
荒涼とした景色の中に赤い花が一輪あればその絵は明るさを得たものとして看做される。入江さんの作品は、結局そういう事なのだと思う。
今回私が読んだ短編「ネジマキ式の音鳴りさん」も素晴らしかった。
詳しい内容は是非、時空モノガタリさんの入江さんのページでご覧いただくとして、簡単に言うと音楽の変容しきってしまった世界に残った、古いタイプの人間と、古いタイプの音楽のはなし。
ネジマキという言葉が肝になっている。
映画のGattacaみたいに、色々なものが先鋭化しすぎて選別され過ぎて、それ以外のものが存在する事さえ許されなくなってる世界。
あの映画はエリートに食い込む落ちこぼれの話だったけど、このネジマキ式の音鳴りさんは、その落ちこぼれている方のリアルな生活を描き出しているような気がする。全然関係ないと思うけどね、映画と、この作品自体には。
でも、私の好きなディストピア映画で言えば、Gattacaにしろ、未来世紀ブラジルにしろ、選ばれ抜いた人間の世界の、そのずっと下層の人々に感じられる選ばれずに生き続けた時間みたいなものが、このネジマキ式の音鳴りさん、そして水底から一閃、入水などに度々見受けられる。
荒涼として退廃を迎え滅亡に向かって行く暗黒の世界で、「何処かの誰かども」の理想郷からハミ出して生きる人々の儚くも力強い一瞬を捉えている作品だ。
入江さんの作品はアマチュアにありがちな、美しく流れるような文章ばかりじゃない。
カッコつけてて、大袈裟なくせに中身のない文章なんて掃いて捨てるほどある。
綺麗な所は、嫌な予感がするぐらい綺麗に。
落ちるところはゴミ溜めの底が抜けるぐらい落ちる。
このメリハリと、そこかしこに見え隠れする伏線を踏んだ時の快感。
ああ、ここに繋がるのか、と。薄暗い世界で灯りを見たような安心感もあるのが入江さんにハマってしまう大きな要因だ。
これより少し前に入江さんが発表した「草の芽が生える頃まで 」では、もっと直接的な愛憎劇が語調豊かにつづられていた。てっきり、私は入江さんはそういう作家さんなのだと思っていた。確実に、過去に何かしらの修羅場をくぐったり、何処かに傷を負っていなければこうは書けないだろうなという描写がある。二つの果実、白い缶詰、卒業、コレとはさらに別の場所に書かれたサクランタクランなどなど。
入江さんはツイッターではクールで、表情豊かで、礼儀正しい優しい人だ。
だけど、心の中に抱えているナニカトンデモナイモノは普段きっともっと暗くて深い場所に閉じ込められていて、時折ゴゴゴゴっと脈動するときに片鱗をのぞかせるのだろう。
ネタバレしないように、と思っていると言い回しが抽象的で、面白さが伝わっているかわからない…けれど、直接的な感想は時空モノガタリさんの記事の方にするつもりなので、今回ここでは、このような文章になってしまって申し訳ない。
何のことだかわからねえよ!
と仰る方も居るかと思う。
なので、是非、本編を見て欲しいのです。
時空モノガタリでの入江さんの短編は、どれもサックリ読めるし内容は濃い。
短い時間で読めるが、頭に入ってくる情報量はとても豊かだ。そしてそれがとても心地よい。
ツイッターを使っている方は入江さんのアカウントを探すもよし、直接ググって時空モノガタリに飛ぶも良し。
ディストピア系のSFが好きな方は、きっと気になるフレーズや情景が出てくるはずだと思います。
そうではなくとも、面白い短編が必ず見つかります。いろんなタイプのがあるので…。
私も勉強がてら楽しみ半分ではあるものの、また色々読ませていただきたいと思っている作家さんの一人です。
インディーだろうとアマチュアだろうと、やっぱり行動的で、攻撃的で、でも優しくあろうとする人はかっこいい。入江さんはそういう人だと思う。
マンガ家さんだとハヤリエリさんもそうだけど、この刹那、この心持ち、今生きるしかない遣る瀬無さを画面越しに叩きつけてくる。この感じ。私にはたまんない。
皆様もぜひ。入江弥彦さんのモノガタリの中へ。
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