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入江弥彦さんは化け物か。の巻
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今回は入江弥彦さんの新作、前回のイベントで2冊出されていた
「雪の日にはじめまして、雨の日に永久に」
「尾ひれのあるヨメ」
このうちの「雪の日にはじめまして、雨の日に永久に」のなかから一作ご紹介させていただきます。
一部作品のネタバレを含みます。
ご興味のある方は是非、そちらを先にご覧ください。
私キッドはココや小説家になろうで愚にもつかない話や、プロレスに対する暑苦しいエッセイを書き散らかしているだけではなく。
意外と小説も書いております。パッとしないだけで。
大きなお世話だ。
そんな小説を書いて出している数ある人々の中で、もうこれは敵わない、バケモンだ、と思う人が二人だけ居ます。
それが黄鱗きいろさんと、入江弥彦さんです。
この二人は私の中ではインディーズ最強とでもいうべき、別格の存在です。
自分が同じ土俵に立っているとすら思えない。
確かに私はごく一部の作品だけとはいえ書籍化もして頂いた(宝島文庫「廃墟の怖い話」好評発売中)けれど、基礎とか技術とかあらゆる面で言えばこの二人には全然及んでない。どうやったって長い目で見れば彼女らの勝ちは揺るがないのだ。そのぐらい、私にとって大変に魅力的な作品を世に送り出し続け、異彩を放つのが黄鱗きいろさんと、入江弥彦さんなのです。
プロレスで言えばメジャー団体には居ないけどインディーでは並ぶもののないカリスマを持つ、葛西純選手とか松永光弘さんとかそんな感じの位置に居ます。例えがデスマッチ戦士ばっかりですが、お二人ともかなり独自の世界を突っ走っているうえに、その世界が半端なく面白く、隅々まで読めば読むほど楽しませてもらえるから、って意味ではかなり近いです。
で今回。冒頭でも述べたように入江弥彦さんの新作、前回のイベントで2冊出されていた
「雪の日にはじめまして、雨の日に永久に」
「尾ひれのあるヨメ」
このうちの「雪の日にはじめまして、雨の日に永久に」のなかから一作ご紹介させていただきます。この先、ネタバレを含みます。ただ全部紹介しちゃうのはホントに勿体ないので、是非、出来ることなら今すぐ入江弥彦で検索して通販でなんも知らずにご覧になって欲しいです。そのぐらい、頭真っ白で読んだ方がより入江ワールドの深いところに突っ込んでいけます。
そのぐらい、のっけから面白いです。
両方とも作風としては椎名誠さんとか、テリー・ギリアムとかに近いです。
よくある日常なんだけどどこか狂ってたり、我々の生活とは違う世界軸だったりします。水没した世界、工場裏の泥濘に棲む半魚人、神様に作られた機械などなど。そういうちょっとヘンな世界のちょっとヘンな住人たちと、少年や少女の不思議で切ない交流を描いた短編が沢山あります。
同じ事をもっと大きな会社のCGアニメ映画で謳われてても食指が伸びない私ですが、入江弥彦さんの作品ではそれがもっと身近で、ともすればこれは現代生活そのものの中で狂っちゃった妄想の世界なのでは…?とすら思わせる、読めば読むほど心地よく深みにハマることが出来ます。お勧めします。
さてその入江弥彦さんの最新作。
「雪の日にはじめまして、雨の日に永久に」
からトップバッターの「蛸の足は腕だという」という作品をご紹介します。
舞台はどこか遠くの街の小学校。のっけから「僕」の独白で、好きな人には下半身にタコの足が生えている、と明かされる。そんなお話とは。
クラス替えで一緒になったガキ大将のカズイ君。
短気で怒りっぽいけど大人びた言動や、他のクラスの連中は知らないようなことを教えてくれる男。だけど話が進むにつれて、主人公の僕ことヒカル君はカズイ君のことを、空気が読めない乱暴者から、頼りになるけど実は彼も友達が欲しかったんだな、と思うようになる。
私キッドは本名がカズヤなので、なんだかちょっと親近感がわく。こういうカズイ君みたいなキャラは他人な気がしない。
カズイ君に連れられて、学区外に出かけるヒカル。この学区外というのが小学高学年の冒険サイズとして物凄く的確だと思います。あの頃、ヘルメットなしでチャリ乗るのと、校区の外に子供だけで出るのと、学校サボって昼間出歩くのってすげえ冒険してる気がしたじゃん。BGMは斉藤和義の「歩いて帰ろう」か、和田アキ子の「さあ冒険だ」で。
その学区外の街も、大阪の三ツ寺とか宗右衛門町みたいな雑然としててちょっと怖い感じがする場所。でも自分たちにさほど興味を示されない。お互いに不干渉な場所ってのがいい。つまり本当に知らない場所。日ごろの生活圏を飛び出して、子供だけで未知の世界を歩いている。でもその未知の世界は普段の自分たちの暮らす街のすぐ隣にある。これが、子供のスケールを凄くよく表現していると思います。
そこで目撃するのは、喋る軽トラックと背広の男が繰り広げる移動式の見世物小屋。
荷台に据え付けられた水槽には、蛸女。
カズイ君は気持ち悪い、というけど、ヒカル君は蛸女に心を奪われる。
そして蛸女を奪うことにする。
蛸女とのカケオチを決めたヒカル君はカズイ君にだけこのことを打ち明ける。
ここで二人の関係性は完全に変わる。それまでも変わりつつあったものが、ココで固まったというべきか。永遠の友情と、長い長い別れの時。
それが、この計画を実行することによって生まれて、動き出す。
ラストまで圧巻の手に汗握るランナウェイ。
軽トラが喋るという伏線も、蛸女とのキスも、全てを飲み込んで川を流れて行くふたり。
正直言えば、入江弥彦さんの作品にしては幸せ過ぎるほど幸せなエンディング。
物凄いカタルシス。
小さな本だけど、中に詰め込まれてる広大な世界の入り口にはこれ以上ないほどピッタリな作品でした。
まだ通信販売も受け付けているかも知れないので、ご興味のある方は是非ご覧になってみてください。この記事をご覧になって下さったからといって、決して遅くはありません。
「雪の日にはじめまして、雨の日に永久に」
「尾ひれのあるヨメ」
このうちの「雪の日にはじめまして、雨の日に永久に」のなかから一作ご紹介させていただきます。
一部作品のネタバレを含みます。
ご興味のある方は是非、そちらを先にご覧ください。
私キッドはココや小説家になろうで愚にもつかない話や、プロレスに対する暑苦しいエッセイを書き散らかしているだけではなく。
意外と小説も書いております。パッとしないだけで。
大きなお世話だ。
そんな小説を書いて出している数ある人々の中で、もうこれは敵わない、バケモンだ、と思う人が二人だけ居ます。
それが黄鱗きいろさんと、入江弥彦さんです。
この二人は私の中ではインディーズ最強とでもいうべき、別格の存在です。
自分が同じ土俵に立っているとすら思えない。
確かに私はごく一部の作品だけとはいえ書籍化もして頂いた(宝島文庫「廃墟の怖い話」好評発売中)けれど、基礎とか技術とかあらゆる面で言えばこの二人には全然及んでない。どうやったって長い目で見れば彼女らの勝ちは揺るがないのだ。そのぐらい、私にとって大変に魅力的な作品を世に送り出し続け、異彩を放つのが黄鱗きいろさんと、入江弥彦さんなのです。
プロレスで言えばメジャー団体には居ないけどインディーでは並ぶもののないカリスマを持つ、葛西純選手とか松永光弘さんとかそんな感じの位置に居ます。例えがデスマッチ戦士ばっかりですが、お二人ともかなり独自の世界を突っ走っているうえに、その世界が半端なく面白く、隅々まで読めば読むほど楽しませてもらえるから、って意味ではかなり近いです。
で今回。冒頭でも述べたように入江弥彦さんの新作、前回のイベントで2冊出されていた
「雪の日にはじめまして、雨の日に永久に」
「尾ひれのあるヨメ」
このうちの「雪の日にはじめまして、雨の日に永久に」のなかから一作ご紹介させていただきます。この先、ネタバレを含みます。ただ全部紹介しちゃうのはホントに勿体ないので、是非、出来ることなら今すぐ入江弥彦で検索して通販でなんも知らずにご覧になって欲しいです。そのぐらい、頭真っ白で読んだ方がより入江ワールドの深いところに突っ込んでいけます。
そのぐらい、のっけから面白いです。
両方とも作風としては椎名誠さんとか、テリー・ギリアムとかに近いです。
よくある日常なんだけどどこか狂ってたり、我々の生活とは違う世界軸だったりします。水没した世界、工場裏の泥濘に棲む半魚人、神様に作られた機械などなど。そういうちょっとヘンな世界のちょっとヘンな住人たちと、少年や少女の不思議で切ない交流を描いた短編が沢山あります。
同じ事をもっと大きな会社のCGアニメ映画で謳われてても食指が伸びない私ですが、入江弥彦さんの作品ではそれがもっと身近で、ともすればこれは現代生活そのものの中で狂っちゃった妄想の世界なのでは…?とすら思わせる、読めば読むほど心地よく深みにハマることが出来ます。お勧めします。
さてその入江弥彦さんの最新作。
「雪の日にはじめまして、雨の日に永久に」
からトップバッターの「蛸の足は腕だという」という作品をご紹介します。
舞台はどこか遠くの街の小学校。のっけから「僕」の独白で、好きな人には下半身にタコの足が生えている、と明かされる。そんなお話とは。
クラス替えで一緒になったガキ大将のカズイ君。
短気で怒りっぽいけど大人びた言動や、他のクラスの連中は知らないようなことを教えてくれる男。だけど話が進むにつれて、主人公の僕ことヒカル君はカズイ君のことを、空気が読めない乱暴者から、頼りになるけど実は彼も友達が欲しかったんだな、と思うようになる。
私キッドは本名がカズヤなので、なんだかちょっと親近感がわく。こういうカズイ君みたいなキャラは他人な気がしない。
カズイ君に連れられて、学区外に出かけるヒカル。この学区外というのが小学高学年の冒険サイズとして物凄く的確だと思います。あの頃、ヘルメットなしでチャリ乗るのと、校区の外に子供だけで出るのと、学校サボって昼間出歩くのってすげえ冒険してる気がしたじゃん。BGMは斉藤和義の「歩いて帰ろう」か、和田アキ子の「さあ冒険だ」で。
その学区外の街も、大阪の三ツ寺とか宗右衛門町みたいな雑然としててちょっと怖い感じがする場所。でも自分たちにさほど興味を示されない。お互いに不干渉な場所ってのがいい。つまり本当に知らない場所。日ごろの生活圏を飛び出して、子供だけで未知の世界を歩いている。でもその未知の世界は普段の自分たちの暮らす街のすぐ隣にある。これが、子供のスケールを凄くよく表現していると思います。
そこで目撃するのは、喋る軽トラックと背広の男が繰り広げる移動式の見世物小屋。
荷台に据え付けられた水槽には、蛸女。
カズイ君は気持ち悪い、というけど、ヒカル君は蛸女に心を奪われる。
そして蛸女を奪うことにする。
蛸女とのカケオチを決めたヒカル君はカズイ君にだけこのことを打ち明ける。
ここで二人の関係性は完全に変わる。それまでも変わりつつあったものが、ココで固まったというべきか。永遠の友情と、長い長い別れの時。
それが、この計画を実行することによって生まれて、動き出す。
ラストまで圧巻の手に汗握るランナウェイ。
軽トラが喋るという伏線も、蛸女とのキスも、全てを飲み込んで川を流れて行くふたり。
正直言えば、入江弥彦さんの作品にしては幸せ過ぎるほど幸せなエンディング。
物凄いカタルシス。
小さな本だけど、中に詰め込まれてる広大な世界の入り口にはこれ以上ないほどピッタリな作品でした。
まだ通信販売も受け付けているかも知れないので、ご興味のある方は是非ご覧になってみてください。この記事をご覧になって下さったからといって、決して遅くはありません。
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