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第44回。溶接の講習を受けた話。
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掲載日2017年 03月21日 12時00分
3年ぐらい前の4月の出来事。
当時勤めてた会社がお金を出してくれるというので、ガス溶接の講習を受けに行ってきました!
仕事で使うことはないんだけど、売る側ではあるので知識として持っておくことは必要かな、と思っていたところでした。
渡りに哲也とはこの事。
土日なのでさぞかし受講者も多いかな…と二階にある教室の前まで来てみると、ドアに張り紙がしてある。
本日の受講者
①大門圭介(仮名)
②佐野和哉(キッドさんの本名)
以上。
ふ、二人ぃ!?
生徒二人、講師一名のコンパクト授業でした。
そのため学科も実技もみっちり。
時間が余るというので学科の授業も細かく進めていたのですが…なにしろノートを取ってお勉強なんて10年ぶり。
高校入試だって何一つ勉強なんてしていないのに…まあそれは、一次方程式と自分の名前を漢字とローマ字で書ければ入れるような学校だったからなんだけどね(本当)。
で、だ!
そんなわけで10年ぶりのお勉強。
教室の椅子に座ってじっとしているのなんて2分が限界だったあの頃は、周りに同じような…否それ以上の愛すべき馬鹿どもが居たからまだよかった。
今日、隣の椅子に座っている大門さん(仮名)は物静かで、黙々とノートを取ってはホワイトボードとスクリーンを真剣に見ていらっしゃる。
まあー眠かった…。
講師は定年後もバイトとして来ているという俳優の故・小林昭二のおやっさんをもう少し縦に伸ばしたようなおじさんでしたが、軽妙な語り口の割には話が長くて、ペンも速い。結果、必死でテキストに線を引いて話を聞きながらノートを取っているのが、一番眠気に効くのだとわかりました。
あと15年早く気付いていれば、私の人生も少しは変わっていたかもしれない。
午前中はどうにか乗り切って、一食400円のお弁当を買って食べる。
案外おいしかった。
しかして問題は午後。
腹はくちいわ一日中部屋の中で座りっぱなしだわ、教室の中はポカポカ暖かいわ。
何度か目を閉じて ふっ と寝かかりました。
でもこらえてノートを書く、書く、書く。
学科試験は翌日の朝。
この時と夜しか勉強する時間がないのです。
終業の16時40分までどうにか堪え、その日は終了。
外に出て風を浴びると案外寒い。
いよいよ明日は本番だ…。
翌日。
集合時間が何故か昨日より20分早い。
教室に入ると、もう大門さんが来ていた。
そしておやっさんもやってきて、法令と事故事例など昨日の続きを済ませて、いよいよ学科試験。
4択問題で1つだけ間違ったものを探して番号を書くというもの。
簡単なのもあれば、いざとなると迷ってしまうものもあり。
しかし巡回した講師が言うには 二人とも大変優秀 とのこと。
ひとまず学科は大丈夫そうだと安心して、さあ実技。
見慣れたガスボンベと器具。
普段は売ったり運んだり設置したりする側なのだが、今日はそれを使う側に回ることに。
まずは手順通りセッティングをして、ガスに着火。次いで逆火処置(ガスに点いた火が何かのはずみで逆流してしまった時に、手元の段階で火を消す作業)をして、器具を取り外して終了。
これが実技試験でした。
私はこの逆火処置が遅いと何度も言われてね。
まあ不器用なのもあるんだけど、一つだけ言わせてほしい。
ああいう工具や器具類は、ほっとんどが「右利き」で使うようにできているのだ。
キッドさんは左利きなので、この段階で慣れるのに時間がかかってしまったのだろう。
そーゆーことにしておく。
その分練習を繰り返したので、合格をもらうまで手こずってしまった。
さて、これで学科と実技の試験が終了。
そこから半日は、ひたすら溶断と溶接の体験コーナーということになる。
まずは1枚の鉄板を真っ二つに切る作業。
これがなかなか難しくてね。
図工で2より上を取ったことがない、いつもどの美術の先生にも
「佐野君、アイデアは凄くいいよねえ」
と言われ続けた私には至難の業にも思えた。
おやっさんにあーだこーだどやされ、なんとか切り終わっても鉄板は落ちない。
次に大門さん(仮名)の番。
大門さんは市役所にお勤めで、配属先が決まる前に自費で講習を受けに来ていた。
これがまあ、上手い。溶断も溶接もソツなくこなしていく。これで全く未経験だというから驚きだ。
本当に職人さんみたいにしゅーっと切っていく。
さすがに溶接では手こずっていたが、それでも私が溶接をした時の はぐれメタル みたいになった鉄板よりはずっと美しく仕上がっていたなあ。
こんな風に交互に授業を進めながら、大門さん(仮名)ともポツポツ話すようになり、シャイで口数の少ないナイスガイだということが判明。
結局、私がまともに溶断できたのは鉄板を丸く切った時の一つだけ。
かこーん!と音を立てて鉄板が落っこちた時は、思わず やったあ! って喜んじゃった。
実技の方はあっという間に終わり、その日のうちに修了証を受け取って、キッドたんと大門さんのお勉強は一応のおしまいを迎えたのでした。
おじさんのバイク屋に酸素とアセチレンがあったから、今度行って練習させてもらおうっと。
(そんなことは一度もしていないうちに、区画整理でおじさんのお店がなくなってしまったし、キッドさんは溶剤屋さんを辞めてしまった)
実はやってみると難しいなりに、結構楽しいのですよ。
しかし簡単にやっているようで難しいんだな…と思うと、普段何気なく接しているお客さん、職人さんを見る目が少し変わった気がします。…ステキ。
3年ぐらい前の4月の出来事。
当時勤めてた会社がお金を出してくれるというので、ガス溶接の講習を受けに行ってきました!
仕事で使うことはないんだけど、売る側ではあるので知識として持っておくことは必要かな、と思っていたところでした。
渡りに哲也とはこの事。
土日なのでさぞかし受講者も多いかな…と二階にある教室の前まで来てみると、ドアに張り紙がしてある。
本日の受講者
①大門圭介(仮名)
②佐野和哉(キッドさんの本名)
以上。
ふ、二人ぃ!?
生徒二人、講師一名のコンパクト授業でした。
そのため学科も実技もみっちり。
時間が余るというので学科の授業も細かく進めていたのですが…なにしろノートを取ってお勉強なんて10年ぶり。
高校入試だって何一つ勉強なんてしていないのに…まあそれは、一次方程式と自分の名前を漢字とローマ字で書ければ入れるような学校だったからなんだけどね(本当)。
で、だ!
そんなわけで10年ぶりのお勉強。
教室の椅子に座ってじっとしているのなんて2分が限界だったあの頃は、周りに同じような…否それ以上の愛すべき馬鹿どもが居たからまだよかった。
今日、隣の椅子に座っている大門さん(仮名)は物静かで、黙々とノートを取ってはホワイトボードとスクリーンを真剣に見ていらっしゃる。
まあー眠かった…。
講師は定年後もバイトとして来ているという俳優の故・小林昭二のおやっさんをもう少し縦に伸ばしたようなおじさんでしたが、軽妙な語り口の割には話が長くて、ペンも速い。結果、必死でテキストに線を引いて話を聞きながらノートを取っているのが、一番眠気に効くのだとわかりました。
あと15年早く気付いていれば、私の人生も少しは変わっていたかもしれない。
午前中はどうにか乗り切って、一食400円のお弁当を買って食べる。
案外おいしかった。
しかして問題は午後。
腹はくちいわ一日中部屋の中で座りっぱなしだわ、教室の中はポカポカ暖かいわ。
何度か目を閉じて ふっ と寝かかりました。
でもこらえてノートを書く、書く、書く。
学科試験は翌日の朝。
この時と夜しか勉強する時間がないのです。
終業の16時40分までどうにか堪え、その日は終了。
外に出て風を浴びると案外寒い。
いよいよ明日は本番だ…。
翌日。
集合時間が何故か昨日より20分早い。
教室に入ると、もう大門さんが来ていた。
そしておやっさんもやってきて、法令と事故事例など昨日の続きを済ませて、いよいよ学科試験。
4択問題で1つだけ間違ったものを探して番号を書くというもの。
簡単なのもあれば、いざとなると迷ってしまうものもあり。
しかし巡回した講師が言うには 二人とも大変優秀 とのこと。
ひとまず学科は大丈夫そうだと安心して、さあ実技。
見慣れたガスボンベと器具。
普段は売ったり運んだり設置したりする側なのだが、今日はそれを使う側に回ることに。
まずは手順通りセッティングをして、ガスに着火。次いで逆火処置(ガスに点いた火が何かのはずみで逆流してしまった時に、手元の段階で火を消す作業)をして、器具を取り外して終了。
これが実技試験でした。
私はこの逆火処置が遅いと何度も言われてね。
まあ不器用なのもあるんだけど、一つだけ言わせてほしい。
ああいう工具や器具類は、ほっとんどが「右利き」で使うようにできているのだ。
キッドさんは左利きなので、この段階で慣れるのに時間がかかってしまったのだろう。
そーゆーことにしておく。
その分練習を繰り返したので、合格をもらうまで手こずってしまった。
さて、これで学科と実技の試験が終了。
そこから半日は、ひたすら溶断と溶接の体験コーナーということになる。
まずは1枚の鉄板を真っ二つに切る作業。
これがなかなか難しくてね。
図工で2より上を取ったことがない、いつもどの美術の先生にも
「佐野君、アイデアは凄くいいよねえ」
と言われ続けた私には至難の業にも思えた。
おやっさんにあーだこーだどやされ、なんとか切り終わっても鉄板は落ちない。
次に大門さん(仮名)の番。
大門さんは市役所にお勤めで、配属先が決まる前に自費で講習を受けに来ていた。
これがまあ、上手い。溶断も溶接もソツなくこなしていく。これで全く未経験だというから驚きだ。
本当に職人さんみたいにしゅーっと切っていく。
さすがに溶接では手こずっていたが、それでも私が溶接をした時の はぐれメタル みたいになった鉄板よりはずっと美しく仕上がっていたなあ。
こんな風に交互に授業を進めながら、大門さん(仮名)ともポツポツ話すようになり、シャイで口数の少ないナイスガイだということが判明。
結局、私がまともに溶断できたのは鉄板を丸く切った時の一つだけ。
かこーん!と音を立てて鉄板が落っこちた時は、思わず やったあ! って喜んじゃった。
実技の方はあっという間に終わり、その日のうちに修了証を受け取って、キッドたんと大門さんのお勉強は一応のおしまいを迎えたのでした。
おじさんのバイク屋に酸素とアセチレンがあったから、今度行って練習させてもらおうっと。
(そんなことは一度もしていないうちに、区画整理でおじさんのお店がなくなってしまったし、キッドさんは溶剤屋さんを辞めてしまった)
実はやってみると難しいなりに、結構楽しいのですよ。
しかし簡単にやっているようで難しいんだな…と思うと、普段何気なく接しているお客さん、職人さんを見る目が少し変わった気がします。…ステキ。
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