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第四章
4-18 帰還
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「ただいまさーん!」
三十分も経った頃、陽気な声が聞こえた。梢賢が帰ってきたのだ。蕾生も後に続いて永と鈴心がいる居間にやってきた。
「あ、お帰り。今日は門限までに帰ってこれたね」
永が声をかけて顔を上げると、蕾生も梢賢も汗だくになっていた。
「まあな。炎天下の中自転車漕ぐはめになったけど」
「ああもう、キツイキツイ!汗びっしょりや!」
そんな二人の出立ちを見て、鈴心は少し遠ざかる。
「ちょっと、鈴心ちゃん?」
「臭いので来ないでください」
「ガーン!」
ショックでよろめいた梢賢に、永は笑っていた。
「ははっ、じゃあまずシャワーでも浴びてきたら?」
「おう!そうさしてもらうわ!行くで、ライオンくん!」
梢賢に肩をがっしと掴まれた蕾生は大袈裟に嫌がった。
「ええっ、お前と一緒に入るのか?ヤダよ!」
「ワガママ言いなや!時間の節約や!」
上機嫌で蕾生を引きずっていった梢賢がこの世の終わりのような顔をして戻ってきたのは、それから二十分後だった。
「……」
「どしたの、梢賢くん?」
永が驚いていると、その後ろで蕾生は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「だから嫌だったんだ、俺は」
「あかん……完敗どころか、オレなんか豆粒や……」
「ああ……」
梢賢の敗北感は、かつて永も味わったことがあるものだった。それを察した永は深く頷いて同意を示す。その様子を見ていた鈴心は更に嫌悪感を強めて男共を見下していた。
「あーあ、疲れちゃった!」
梢賢がメソメソしているのを誰も構わなくなった頃、永が急にレース針を投げ出した。
「編み物、進んだか?」
「遅々として進まないよぉ。すぐ疲れちゃうんだもん」
蕾生の問いに腑抜けた返事をする永を見て、鈴心が楚々と労った。
「ハル様、肩をお揉みします」
「いいの!?やったー」
無邪気に喜ぶ永を見て、梢賢は少し引きながら言う。
「なんか、ハル坊おかしくない?」
「永は疲れ過ぎると精神年齢が下がるんだ」
蕾生が説明すると、梢賢は顎に手をあて興味深そうに頷いた。
「ほう。自己防衛かね、これ以上疲れないように頭脳を使うのをセーブしてんのかな」
永の手が止まったのを機に、蕾生が話し始める。
「永。俺達が街にいる時に皓矢から連絡がきた」
「え?マジ?あー、そこそこ!で、何だって?」
「例の長男のことだ」
嬉々として肩を揉まれていた永は、その言葉が出た途端、いつもの表情を戻していた。
「わかった。聞くよ」
「おお、急に正気に戻った!」
梢賢が揶揄うのを無視して、蕾生は辿々しく説明を始めた。
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三十分も経った頃、陽気な声が聞こえた。梢賢が帰ってきたのだ。蕾生も後に続いて永と鈴心がいる居間にやってきた。
「あ、お帰り。今日は門限までに帰ってこれたね」
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「まあな。炎天下の中自転車漕ぐはめになったけど」
「ああもう、キツイキツイ!汗びっしょりや!」
そんな二人の出立ちを見て、鈴心は少し遠ざかる。
「ちょっと、鈴心ちゃん?」
「臭いので来ないでください」
「ガーン!」
ショックでよろめいた梢賢に、永は笑っていた。
「ははっ、じゃあまずシャワーでも浴びてきたら?」
「おう!そうさしてもらうわ!行くで、ライオンくん!」
梢賢に肩をがっしと掴まれた蕾生は大袈裟に嫌がった。
「ええっ、お前と一緒に入るのか?ヤダよ!」
「ワガママ言いなや!時間の節約や!」
上機嫌で蕾生を引きずっていった梢賢がこの世の終わりのような顔をして戻ってきたのは、それから二十分後だった。
「……」
「どしたの、梢賢くん?」
永が驚いていると、その後ろで蕾生は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「だから嫌だったんだ、俺は」
「あかん……完敗どころか、オレなんか豆粒や……」
「ああ……」
梢賢の敗北感は、かつて永も味わったことがあるものだった。それを察した永は深く頷いて同意を示す。その様子を見ていた鈴心は更に嫌悪感を強めて男共を見下していた。
「あーあ、疲れちゃった!」
梢賢がメソメソしているのを誰も構わなくなった頃、永が急にレース針を投げ出した。
「編み物、進んだか?」
「遅々として進まないよぉ。すぐ疲れちゃうんだもん」
蕾生の問いに腑抜けた返事をする永を見て、鈴心が楚々と労った。
「ハル様、肩をお揉みします」
「いいの!?やったー」
無邪気に喜ぶ永を見て、梢賢は少し引きながら言う。
「なんか、ハル坊おかしくない?」
「永は疲れ過ぎると精神年齢が下がるんだ」
蕾生が説明すると、梢賢は顎に手をあて興味深そうに頷いた。
「ほう。自己防衛かね、これ以上疲れないように頭脳を使うのをセーブしてんのかな」
永の手が止まったのを機に、蕾生が話し始める。
「永。俺達が街にいる時に皓矢から連絡がきた」
「え?マジ?あー、そこそこ!で、何だって?」
「例の長男のことだ」
嬉々として肩を揉まれていた永は、その言葉が出た途端、いつもの表情を戻していた。
「わかった。聞くよ」
「おお、急に正気に戻った!」
梢賢が揶揄うのを無視して、蕾生は辿々しく説明を始めた。
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