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第四章

4-15 RPG④眞瀬木の子息

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 皓矢こうや梢賢しょうけんの態度を特に気にすることなく少し微笑んで自己紹介する。
 
「初めまして、銀騎しらき皓矢こうやです。お噂はかねがね」
 
「ええ?銀騎サンに噂されてるなんて面映いですわー」
 
「お調子者のふりをしながら、非常に思慮深いとか」
 
 皓矢の言葉に、梢賢は顔を顰めた。
 
「……あかんわあ、お兄さん。そないに真っ直ぐな目で言われたらシラけまっせ」
 
「おや、これは手厳しいね。では本題に入ろうかな」
 
 二人の会話からは雨都うとと銀騎の間にはまだ壁があることがわかる。化かし合いのような会話を続けられるよりは早く用件を言ってくれた方が蕾生も気が楽だった。
 
「なんだ?」
 
眞瀬木ませきの例の件、もう少しわかったことがある」
 
「本当か!あー……」
 
 蕾生が隣の梢賢を気にすると、梢賢は少し目を泳がせてからわざとらしく欠伸をする。
 
「ああ、あかん、急に眠たなってきた……」
 
 立ちながら狸寝入りを始めた梢賢を見せながら蕾生は皓矢に確認をとった。
 
「こんなもんでどうだ?」
 
「あ、ああ……まあ、いいか」
 
 皓矢は苦笑しながら話し始めた。蕾生にもわかるように現代の表現を使いながら。
 
「当時の資料やら記録やらを片っ端から漁ってみたんだけどね、スカウトした眞瀬木の子息は研修期間を終えた後、ぬえの腕を分析するチームに配属されたらしい」
 
「鵺の腕?」
 
師羅鬼しらき幽保ゆうほがかつての君達に遭遇した際、腕を切り落として持ち帰ったんだ。後にその爪から幽爪珠ゆうそうじゅという呪具を作り、銀騎の当主としての証──つまり家宝にしたんだけどね」
 
「幽爪珠って、あの時の?」
 
 蕾生は銀騎しらき詮充郎せんじゅうろうが得意げに掲げて星弥を苦しめた時のことを思い出す。
 
「そう。お祖父様が星弥せいやを鵺化させようとして使ったアレだ。幽爪珠を幽保が作った後、残った腕の遺骸を部下に分析させ、記録に残そうとした。そのために結成されたチームに眞瀬木の子息は抜擢されたんだ」
 
「優秀だったってことか」
 
「それは間違いない。恐らく眞瀬木の結界術を買われたんだろう。腕だけとは言ってもとんでもない妖気があっただろうからね。それを外に漏らさず、安全に作業するためには必須の能力だよ」
 
「そうなのか」
 
 陰陽師とか呪術とか、蕾生はそういう類の知識が乏しい。これを聞いたのが永だったらどう言うのだろうと思いながらも頷くだけで精一杯だった。
 
「しばらくは淡々と分析作業が進められていた。だけどある日、眞瀬木の子息は突然乱心したとある」
 
「狂ったのか?」
 
「──その表現が正しいかはわからないが、眞瀬木の子息は突然暴力的になり、その場を荒らして、同僚達の制止を振り切ってそのまま出奔したそうだ。乱闘のどさくさに紛れて、鵺の腕の毛を一握りむしってね」
 
 イマイチ情景が見えてこない蕾生は、とりあえずの事実だけを確認する。
 
「持って帰ったっていう遺骸は、腕毛だったのか」
 
「そうだね。最初に見た記録に遺骸とだけあったから、もっと肉体に近いものを持ち出したのかと思ったのだけど、詳しく調べてみたら体毛を数グラムというものだった」
 
「毛だったら、たいした被害じゃねえってことか?」
 
 蕾生の問いに、皓矢が少し困って言った。
 
「うーん、そこは意見がわかれるね。お祖父様だったら毛一本でもお怒りになると思うな。
 だけど、当時は鵺の分析を始めたばかりだったし、幽保は天才がゆえに物事を過小評価するくせがあったから、僅かな体毛だけではどうにもできないだろうと見逃した可能性が高い」
 
「ふうん……」
 
「眞瀬木は結界術の達人だったから、僅かな体毛のために本格的な探索をするのが面倒くさかったのかも」
 
 皓矢がわかりやすい言葉を使っているおかげで、蕾生もなんとか理解できている。
 
「銀騎の爺さんが尊敬してるわりに、テキトーなヤツだったんだな」
 
「まあ、天才がゆえだ。何かあったとしても、退ければいいだけという自信の表れだね」







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