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第三章

3-33 蕾生の気配

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「あー、会うだけで疲れるおっさんやで……」
 
 八雲やくもが去った後、梢賢しょうけんはぐったりとその場で寝転んだ。
 
「職人さんというだけあって、気難しそうな印象です」
 
 鈴心すずねがそう感想を述べていると、はるかは弾んだ声ではしゃいでいた。
 
「わー、すごい。このレース針ピッカピカだあ。武器になりそっ!」
 
 もう一度その針に視線を移して、鈴心は神妙な面持ちで言った。
 
「そして、その針。ものすごい力を感じます」
 
「あー、やっぱり?」
 
 永もそう同意すると、梢賢が捕捉してくれた。
 
「祭で奉納するもんを編む道具はな、普段のよりも清めてあんねん」
 
「このクオリティのものを各家庭に配っているんですか?」
 
「せや。だから、どこん家でも仏壇の中にしまって、祭以外では使わんよ」
 
「──でしょうね」
 
 永の手元をしげしげと見つめながら鈴心は頷く。そうしてその後ろで不機嫌な顔をしている蕾生らいおにようやく気づいた。
 
「……」
 
「ライ、どうしました?」
 
「あのおっさん、俺にガン飛ばしやがった」
 
 まるで不良に絡まれたような蕾生の態度に永は苦笑しながら宥めた。
 
「あの人も眞瀬木ませきの人でしょ?ライくんを見定めたい気持ちが抑えられなかったんだねえ」
 
「気分悪い」
 
 まだ不機嫌なままの蕾生に、今度は梢賢も手を振りながら言う。
 
「まあまあ、ライオンくん!しゃあないで、そら」
 
「なんでだよ」
 
「君はいろんなもんを垂れ流してるからなあ」
 
「梢賢くんも感じてるの?」
 
 永はハッとして聞いた。すると梢賢は困った顔で答える。
 
「もちろんや。初めて会った時から、こっちはビビりまくりよ!うーわ、これがぬえの生の気配かーつって!」
 
「そ、そうなのか?」
 
 そんなことは初めて言われた蕾生は驚いていた。鈴心もそれで罰が悪そうに言う。
 
「私やハル様は慣れてしまっているから無頓着でした。うっかりしてました……」
 
「この村はワカル人が多いんだね。これからは気をつけないと」
 
「気をつけるってどうやって?」
 
 蕾生自身が自分がどうなっているのかわからないのに気のつけようがない。
 
「あー、そうだねえ……」
 
 永もあまりピンときておらず首を捻っていると、梢賢はあっけらかんとして言った。
 
「今度銀騎しらきにでも聞いたらええ。普通の人間にはわからんからそんなに気にせんでええよ」
 
「わかった……」
 
 一応頷いたが、蕾生は納得がいかずにまだ不貞腐れていた。
 
「ところで、あの人、最近は裁縫道具ばっかり作ってるって言ってたけど、眞瀬木ませきけいの事業の関係で?」
 
「そやろな。里のもんに絹製品を作らせとるからな。すっかり金物屋さんみたいになってんで」
 
 永の問いに梢賢は可笑しそうに答えた。
 
「八雲ってかっこいい名前だよね」
 
「名前とちゃうで。八雲は役職名や。眞瀬木の呪具職人の長が代々継いどる。まあ、今はおっさん一人しかおらんけどな」
 
「昔ほど、呪具の需要がないんですね?」
 
 鈴心が問うと梢賢は頷いた。
 
「そういうこっちゃ。眞瀬木のお家芸も今では先細り。だから珪兄やんも躍起になっとる」
 
「そっかあ、色々限界なんだねえ……」
 
 永はまたかつてのかえでの言葉を思い出していた。
 
「珪兄やんの考えは間違ってないと思うんや。けど、手段がなあ……」
 
 梢賢も頭を掻きながら村の現状について溜息をついていた。







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