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第三章

3-29 奉納品

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織魂祭しょくこんさいと言うのはね、里の守り神である資実姫たちみひめとその弟子になった我々の先祖をお祀りする大切な行事なの。そこに貴賓としてご出席願いたいわ」
 
「えええー……」
 
「あなた!しっかりなさい!」
 
 はるか達よりも先に反応して青ざめる柊達しゅうたつ橙子とうこがまた怒鳴る。その後ようやく永は慎重に尋ねた。
 
「そんな大事な催しに僕らなんかが出席させていただいていいんですか?」
 
「ええ。是非」
 
 康乃やすのは笑って頷いている。元々興味を引かれていた祭だ、断る理由はない。
 
「それは身に余る光栄です」
 
 永が一礼の後に承諾すると、またもや横で柊達が「受けるの?」と言わんばかりに声を上げた。
 
「えええー?」
 
「あーた!」
 
 雨都うと夫妻の反応を完全に無視して、康乃は嬉しそうに手を打った。
 
「良かった。今年は特別なお祭りになりそうね。ところで、どなたか手芸なんかおできになる?」
 
「あ、僕、趣味でレース編みを少々……」
 
「マジか、ハル坊!?」
 
 今度は先に梢賢しょうけんが驚いていた。似たもの父子なのである。
 そういう雨都のコミカルさには慣れているのだろう、康乃はそれを咎めたりもせずに孫の剛太ごうたを促した。
 
「まあ、すごい!人は見かけによらないのねえ。剛太、お出ししなさい」
 
「はい、お祖母様」
 
 剛太は陰から三宝を出して永の前に置いた。その上には美しい糸の束がひとつ乗せられている。
 
「わあ……」
 
「なんて美しい……」
 
 永も鈴心すずねもその清廉な美しさに感嘆の声を上げる。
 
「祭祀用の絹糸です。ご査収ください」
 
「いいんですか?」
 
 あまりの美しさに永が物怖じしていると、康乃はまたにっこり笑った。
 
「ええ。同じ糸を里の者にも配るのでね。せっかくですからそれで何か編んでいただきたいと思って。織魂祭で奉納させていただきたいわ」
 
「どんなものを編めばよろしいので?」
 
「なんでも結構よ。少ししかないから、皆もちょっとした物を編んでます。靴下とか、ハンカチとかね」
 
「なるほど、わかりました。お預かりします」
 
 永は丁重にその糸の束を受け取った。手触りも素晴らしく良く、こんな極上のものは初めてだった。
 
「良かったわ、楽しみにしています。それから後で八雲やくもに編み棒を届けさせますね」
 
「ひええええっ!」
 
「あなた、しっかり!」
 
 新たな単語の登場に、柊達はついに腰を抜かした。橙子もうろたえながらその腰を摩っている。
 
「やくも……?」
 
眞瀬木ませきの一族の中に呪具職人がいるの。彼が作った針や編み棒で里の者も絹糸を織ったり編んだりしてるのよ」
 
「はー、そんな方がいらっしゃるんですか」
 
「ええ。会っておいて損はないと思うわ」
 
 何かを含んだ康乃の物言いが少し気になったけれど、すぐに話題が変わってしまった。







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