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第三章
3-13 辛い立場
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「それを信じたの?」
「そうや。オレ自身、君らに興味があったからな。けど菫さんも居場所の詳細はわからないって言うから、オレはすぐ都会の大学に行こうと思った。そこで君らを探そうと思ったんや」
「やっぱりすごい行動力だね……」
感心しながら聞く永の態度が柔らかくなったので、梢賢はやっと安心して少しおちゃらける。
「そっからがマジ地獄よ!勉強なんてしてこなかったツケが一気にきてなあ。思い出すと今でも吐きそうや」
「お前、頑張ったんだな……」
「馬鹿の一念、岩をも通すってやつですね」
勉強嫌いの蕾生も素直に敬意を表し、鈴心も睨むのをやめていた。
「で、なんとか大学に補欠合格できて、みっちり三ヶ月、君らを探してたんや。銀騎研究所周りやろうと睨んでな」
「余裕綽々で現れたから、雨都には僕らの居場所を察知できるツールがあるんだと思ってたよ」
「あるわけ無いやろ、銀騎じゃあるまいし!まあ、あの時はオレもカッコつけたかってん。ミステリアスなイケメン登場ってな!」
すっかり元の調子に戻った梢賢の軽口に、鈴心も蕾生もきょとんとしていた。
「イケメン、とは?」
「格好良かったか?土下座が?」
「酷いっ!」
「しかし、そうなると雨辺菫は本当に怪しいね。どこからそんな情報を?」
一人真面目に考え込んでいる永に、梢賢はあっさり言う。
「多分、例の伊藤やろな」
「伊藤の裏には眞瀬木がいるんだろ?じゃあ、眞瀬木が俺達の居場所を知ってたってことか?」
蕾生の質問に、梢賢は首を捻りながら答えた。
「いや、そこはオレも不思議でな。君らがここに来た日、一度足止めくったやろ?あの晩、藤生でオレはこっぴどく大人達に叱られたんやけど、眞瀬木のおっちゃんも君らの正体は知ったばかりみたいだったんよ。ただ──」
「私達の正体を隠して村に入れようとしてたんですか?」
「無謀だな……」
鈴心も蕾生も梢賢の言葉を遮ってまで呆れていた。
「んんん、まあそこはご愛嬌やで。その晩にきっちり説明したから、翌朝迎えにいけたやん。ただ、君らの正体を康乃様にバラしたのは珪兄やんなんよ」
珪の名前が出ると、永もさらに真面目な顔で眉を寄せていた。
「オレが都会の大学に入ったことを不審に思ったらしくて、オレを監視してたんやて。それでオレが君らと会ったのを知ったって言ってたな」
「それ、そのまま信じてるの?」
「いや、さすがにオレも疑ってるよ。けど、そしたら珪兄やんの何もかもを疑わないといけない。子どもの頃から兄貴みたいに慕ってた人を、オレはそこまでできん」
梢賢の言い分は鈴心には充分理解できた。鈴心も以前皓矢に対して似たような感情だったからだ。
「でも、君は僕に言ったよね?眞瀬木珪を信用するなって」
「だからや。オレは身内を百パー疑える自信がない。だからオレの代わりにハル坊の冷静な視点で疑って欲しいんや」
その梢賢の言葉は今の彼の現状を的確に表現していた。村での梢賢の微妙な立ち位置が、実際に村に入って見ているから永にはすぐに理解できた。
「ああ、そういうことか。君が僕らを頼った本当の理由がわかった気がする」
村の事情、雨都の立場、それから梢賢自身の運命。それを永は思いやった。
「共に育った人を、故郷を疑わなければならなくなった……頭ではわかっていても心がついていきませんよね」
「あれは、そういうSOSだったんだな……」
鈴心も蕾生もここまで聞いてやっと慮ることができた。おちゃらけながら村を雨辺をと忙しなく三人に見せたのはその現状を感じて欲しかったのだと理解できた。
「梢賢くんは今まで孤独な戦いをしてたんだね、大変だったでしょう」
「ええ?いきなりの理解!」
真面目な雰囲気が苦手な梢賢は変わらずおちゃらけていた。
「戯けなくてはやってられなかったんですね」
「こそばゆい!」
「よし、わかった。これからは俺たちが力になる」
無条件で信じてくれたのは自分が雨都だからだろうか?梢賢は祖先達と彼らの絆を初めて実感した。
「ほんまに君らはもう、人が良すぎやで」
梢賢ははにかんでそう言うのが精一杯だった。けれど気持ちは伝わっている。
ほのぼのとした雰囲気の中を打ち消すように、けたたましいベルが鳴った。梢賢の電話だった。
「ピッ!なんやええところで──あ」
慌ててポケットから取り出して画面を確認したら梢賢はそのまま固まった。
「誰?」
「噂をすれば……菫さんや」
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「そうや。オレ自身、君らに興味があったからな。けど菫さんも居場所の詳細はわからないって言うから、オレはすぐ都会の大学に行こうと思った。そこで君らを探そうと思ったんや」
「やっぱりすごい行動力だね……」
感心しながら聞く永の態度が柔らかくなったので、梢賢はやっと安心して少しおちゃらける。
「そっからがマジ地獄よ!勉強なんてしてこなかったツケが一気にきてなあ。思い出すと今でも吐きそうや」
「お前、頑張ったんだな……」
「馬鹿の一念、岩をも通すってやつですね」
勉強嫌いの蕾生も素直に敬意を表し、鈴心も睨むのをやめていた。
「で、なんとか大学に補欠合格できて、みっちり三ヶ月、君らを探してたんや。銀騎研究所周りやろうと睨んでな」
「余裕綽々で現れたから、雨都には僕らの居場所を察知できるツールがあるんだと思ってたよ」
「あるわけ無いやろ、銀騎じゃあるまいし!まあ、あの時はオレもカッコつけたかってん。ミステリアスなイケメン登場ってな!」
すっかり元の調子に戻った梢賢の軽口に、鈴心も蕾生もきょとんとしていた。
「イケメン、とは?」
「格好良かったか?土下座が?」
「酷いっ!」
「しかし、そうなると雨辺菫は本当に怪しいね。どこからそんな情報を?」
一人真面目に考え込んでいる永に、梢賢はあっさり言う。
「多分、例の伊藤やろな」
「伊藤の裏には眞瀬木がいるんだろ?じゃあ、眞瀬木が俺達の居場所を知ってたってことか?」
蕾生の質問に、梢賢は首を捻りながら答えた。
「いや、そこはオレも不思議でな。君らがここに来た日、一度足止めくったやろ?あの晩、藤生でオレはこっぴどく大人達に叱られたんやけど、眞瀬木のおっちゃんも君らの正体は知ったばかりみたいだったんよ。ただ──」
「私達の正体を隠して村に入れようとしてたんですか?」
「無謀だな……」
鈴心も蕾生も梢賢の言葉を遮ってまで呆れていた。
「んんん、まあそこはご愛嬌やで。その晩にきっちり説明したから、翌朝迎えにいけたやん。ただ、君らの正体を康乃様にバラしたのは珪兄やんなんよ」
珪の名前が出ると、永もさらに真面目な顔で眉を寄せていた。
「オレが都会の大学に入ったことを不審に思ったらしくて、オレを監視してたんやて。それでオレが君らと会ったのを知ったって言ってたな」
「それ、そのまま信じてるの?」
「いや、さすがにオレも疑ってるよ。けど、そしたら珪兄やんの何もかもを疑わないといけない。子どもの頃から兄貴みたいに慕ってた人を、オレはそこまでできん」
梢賢の言い分は鈴心には充分理解できた。鈴心も以前皓矢に対して似たような感情だったからだ。
「でも、君は僕に言ったよね?眞瀬木珪を信用するなって」
「だからや。オレは身内を百パー疑える自信がない。だからオレの代わりにハル坊の冷静な視点で疑って欲しいんや」
その梢賢の言葉は今の彼の現状を的確に表現していた。村での梢賢の微妙な立ち位置が、実際に村に入って見ているから永にはすぐに理解できた。
「ああ、そういうことか。君が僕らを頼った本当の理由がわかった気がする」
村の事情、雨都の立場、それから梢賢自身の運命。それを永は思いやった。
「共に育った人を、故郷を疑わなければならなくなった……頭ではわかっていても心がついていきませんよね」
「あれは、そういうSOSだったんだな……」
鈴心も蕾生もここまで聞いてやっと慮ることができた。おちゃらけながら村を雨辺をと忙しなく三人に見せたのはその現状を感じて欲しかったのだと理解できた。
「梢賢くんは今まで孤独な戦いをしてたんだね、大変だったでしょう」
「ええ?いきなりの理解!」
真面目な雰囲気が苦手な梢賢は変わらずおちゃらけていた。
「戯けなくてはやってられなかったんですね」
「こそばゆい!」
「よし、わかった。これからは俺たちが力になる」
無条件で信じてくれたのは自分が雨都だからだろうか?梢賢は祖先達と彼らの絆を初めて実感した。
「ほんまに君らはもう、人が良すぎやで」
梢賢ははにかんでそう言うのが精一杯だった。けれど気持ちは伝わっている。
ほのぼのとした雰囲気の中を打ち消すように、けたたましいベルが鳴った。梢賢の電話だった。
「ピッ!なんやええところで──あ」
慌ててポケットから取り出して画面を確認したら梢賢はそのまま固まった。
「誰?」
「噂をすれば……菫さんや」
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