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第三章
3-2 ツンデレ
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「おー、ルミおったおった」
眞瀬木邸に到着すると、ちょうど玄関先に道着に袴姿の眞瀬木瑠深がいた。
「最悪、朝っぱらから馬鹿が来た」
梢賢の姿を確認した途端暴言を吐く瑠深に、梢賢は猫撫で声で近づく。
「まあまあ、ルミちゃんは朝も早よから修行でえらいなあ」
「なんの用?あんまりあんた達に関わるなって言われてんだけど」
「なんてことないねん。ルミちゃん、今日一日自転車貸してねえな」
「はあ?」
突拍子もないことに思わず声を上げた瑠深だったが、四人を順番に見て、一人だけ自転車を携えていない蕾生を見定めて言った。
「なるほど?そこの大男が使うのね?」
「むっ」
怒りかけた蕾生を制して永が低姿勢で言う。
「すいません、今日は僕ら街に出ようと思って。お願いできません?」
「……わかった。貸してやるから早く行きな」
これ以上関わりたくない瑠深は渋々承知した。
「悪いなあ、あんがとさん」
だがヘラヘラ笑う梢賢に瑠深は当然の要求を突きつける。
「お土産はパティスリーブルーのプレミアムタルト。もちろんワンホールな」
「えっ!?」
「え?」
ギクリと肩を震わせる梢賢に瑠深は圧をかけながら聞き返す。それで梢賢は観念した。
「うう、わかった……」
「──よし。ほら、傷つけたらただじゃおかないから」
満足気に頷いた後、瑠深はスポーツバイクを持ち出して蕾生に釘を刺す。
「おう。ありがとう」
「!べ、別に、タルトにつられただけなんだからね!!」
仏頂面しか知らなかった蕾生が素直に礼を述べたので、瑠深は途端に顔を赤らめて目をそらした。
「あ、ああ……」
乙女の微妙な心は蕾生にわかるはずがない。それを生温い目で見ていた永はなんて綺麗なツンデレだと感心していた。
そうして四人は眞瀬木家を後にする。それを陰から見送る姿には誰も気づかなかった。
「プレミアムタルト、とは?」
山道に向かう途中で鈴心が興味津々で聞くと、梢賢はがっくり肩を落として答えた。
「おお……高紫で一番高いケーキやねん」
「ほほー」
鈴心の瞳がキラリと光る。次いで永も疑問を投げかけた。
「修行って何の?」
「ああ、眞瀬木の呪術の修行をな、そろそろ本腰入れて始めるらしいで。なんせ瑠深は天才やからな」
「と言うことは、兄貴よりも?」
「せやねん。珪兄やんはあんまり向いてないらしい。だから変なビジネス始めたんやろな」
それを聞いて永にも昨日の話の合点が行く。なぜ有力な家の跡取りが事業など始めたのかが少し疑問だった。
「そういうことか……」
いよいよ険しい山道に差し掛かる。永は余計なことに気を回している場合ではなくなった。
===============================
お読みいただきありがとうございます
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眞瀬木邸に到着すると、ちょうど玄関先に道着に袴姿の眞瀬木瑠深がいた。
「最悪、朝っぱらから馬鹿が来た」
梢賢の姿を確認した途端暴言を吐く瑠深に、梢賢は猫撫で声で近づく。
「まあまあ、ルミちゃんは朝も早よから修行でえらいなあ」
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「なるほど?そこの大男が使うのね?」
「むっ」
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「……わかった。貸してやるから早く行きな」
これ以上関わりたくない瑠深は渋々承知した。
「悪いなあ、あんがとさん」
だがヘラヘラ笑う梢賢に瑠深は当然の要求を突きつける。
「お土産はパティスリーブルーのプレミアムタルト。もちろんワンホールな」
「えっ!?」
「え?」
ギクリと肩を震わせる梢賢に瑠深は圧をかけながら聞き返す。それで梢賢は観念した。
「うう、わかった……」
「──よし。ほら、傷つけたらただじゃおかないから」
満足気に頷いた後、瑠深はスポーツバイクを持ち出して蕾生に釘を刺す。
「おう。ありがとう」
「!べ、別に、タルトにつられただけなんだからね!!」
仏頂面しか知らなかった蕾生が素直に礼を述べたので、瑠深は途端に顔を赤らめて目をそらした。
「あ、ああ……」
乙女の微妙な心は蕾生にわかるはずがない。それを生温い目で見ていた永はなんて綺麗なツンデレだと感心していた。
そうして四人は眞瀬木家を後にする。それを陰から見送る姿には誰も気づかなかった。
「プレミアムタルト、とは?」
山道に向かう途中で鈴心が興味津々で聞くと、梢賢はがっくり肩を落として答えた。
「おお……高紫で一番高いケーキやねん」
「ほほー」
鈴心の瞳がキラリと光る。次いで永も疑問を投げかけた。
「修行って何の?」
「ああ、眞瀬木の呪術の修行をな、そろそろ本腰入れて始めるらしいで。なんせ瑠深は天才やからな」
「と言うことは、兄貴よりも?」
「せやねん。珪兄やんはあんまり向いてないらしい。だから変なビジネス始めたんやろな」
それを聞いて永にも昨日の話の合点が行く。なぜ有力な家の跡取りが事業など始めたのかが少し疑問だった。
「そういうことか……」
いよいよ険しい山道に差し掛かる。永は余計なことに気を回している場合ではなくなった。
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