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第二章
2-38 思惑
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「そういう考えがあるのに、雨辺のあの人には調子のいいことを言ってるんですね」
「だからあ!菫さんにはああ言っとかないと何するかわからへんねん!ほんと危険なとこまで来てるんよ!」
鈴心がジロリと睨みながら雨辺についての話を始めると、梢賢は慌てて弁解していた。
それまで他人事だと飄々としていた態度は薄れていた。梢賢には明確な個人的目的があるのだろう。
「ああ、そうだ。この村の状況が面白すぎて本来の目的を忘れてた」
「ひどい!」
永のいじりを受けて急におちゃらけ出す梢賢に、蕾生は苛立って聞いた。
「その雨辺の問題もそうだけど、蔵に入った泥棒の方はどうするんだ?それだけは俺達にも関係あるだろ」
「それについてはオレに心当たりがある」
「ええ?」
ふざけたかと思えば急に真面目な顔になって言う梢賢に、蕾生も混乱してきた。
「なんでさっきの会議で言わなかったの?」
永も少し責めるような口調になっていたが、やはり梢賢は飄々としていた。
「そら、雨辺が関わっとるからや。ここでは雨辺のことだけは禁句、父ちゃん達のおっかない顔見たやろ?」
「ああ……」
眞瀬木珪が会議で雨辺の名前を出した時、柊達と橙子、楠俊でさえも恐ろしい顔で睨んでいたのを永は思い出す。
「ちゅーわけで改めて雨辺をなんとかすんで!」
「でも具体策がないんでしょぉ?」
「そこはハル坊の超絶かしこなトコが頼りやねんで!」
「ええー……」
結局元のノープラン状態を再確認することになり、永は肩を落とした。
するとドスドスと派手な足音を立てて優杞が部屋に乗り込んできた。
「あんた達!いつまで起きてんの!さっさとお風呂入って寝なさい!!」
「はぁい……」
阿修羅のような雰囲気に気圧された四人は従うしかなかった。
雨都家から十数メートル離れた所に眞瀬木の邸宅がある。
そこからさらに数メール離れると、小さな荒屋が建っていた。外見は物置小屋のようだが中は綺麗にリノベーションされおり、珪はここで自分の仕事をしている。
かつてここで起こった凄惨な事件を忘れないために、あえて珪はここに居座っている。
机の上に設計図を広げてじっと考え込む。その頭の中では夥しい計算が渦巻いていた。
一息ついて珪は窓の外を見る。遠くに雨都家の灯りがあった。子どもがとるに足らない計画でも立てているんだろう。
鵺人があんな子どもでは拍子抜けだ。梢賢の動向は注意するべきだが、あいつの行動原理などわかりきっている。
珪はふっと笑った。ついにこれまでの努力が身を結ぶ時がやってくる。あの人の夢を実現する時が。
踊れ。
思う存分踊れ。
そして最後に嗤うのは俺だ。
珪はまた机に視線を移した。そこにはこの計画の要とも言える呪具が、仄暗い光を宿していた。
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「だからあ!菫さんにはああ言っとかないと何するかわからへんねん!ほんと危険なとこまで来てるんよ!」
鈴心がジロリと睨みながら雨辺についての話を始めると、梢賢は慌てて弁解していた。
それまで他人事だと飄々としていた態度は薄れていた。梢賢には明確な個人的目的があるのだろう。
「ああ、そうだ。この村の状況が面白すぎて本来の目的を忘れてた」
「ひどい!」
永のいじりを受けて急におちゃらけ出す梢賢に、蕾生は苛立って聞いた。
「その雨辺の問題もそうだけど、蔵に入った泥棒の方はどうするんだ?それだけは俺達にも関係あるだろ」
「それについてはオレに心当たりがある」
「ええ?」
ふざけたかと思えば急に真面目な顔になって言う梢賢に、蕾生も混乱してきた。
「なんでさっきの会議で言わなかったの?」
永も少し責めるような口調になっていたが、やはり梢賢は飄々としていた。
「そら、雨辺が関わっとるからや。ここでは雨辺のことだけは禁句、父ちゃん達のおっかない顔見たやろ?」
「ああ……」
眞瀬木珪が会議で雨辺の名前を出した時、柊達と橙子、楠俊でさえも恐ろしい顔で睨んでいたのを永は思い出す。
「ちゅーわけで改めて雨辺をなんとかすんで!」
「でも具体策がないんでしょぉ?」
「そこはハル坊の超絶かしこなトコが頼りやねんで!」
「ええー……」
結局元のノープラン状態を再確認することになり、永は肩を落とした。
するとドスドスと派手な足音を立てて優杞が部屋に乗り込んできた。
「あんた達!いつまで起きてんの!さっさとお風呂入って寝なさい!!」
「はぁい……」
阿修羅のような雰囲気に気圧された四人は従うしかなかった。
雨都家から十数メートル離れた所に眞瀬木の邸宅がある。
そこからさらに数メール離れると、小さな荒屋が建っていた。外見は物置小屋のようだが中は綺麗にリノベーションされおり、珪はここで自分の仕事をしている。
かつてここで起こった凄惨な事件を忘れないために、あえて珪はここに居座っている。
机の上に設計図を広げてじっと考え込む。その頭の中では夥しい計算が渦巻いていた。
一息ついて珪は窓の外を見る。遠くに雨都家の灯りがあった。子どもがとるに足らない計画でも立てているんだろう。
鵺人があんな子どもでは拍子抜けだ。梢賢の動向は注意するべきだが、あいつの行動原理などわかりきっている。
珪はふっと笑った。ついにこれまでの努力が身を結ぶ時がやってくる。あの人の夢を実現する時が。
踊れ。
思う存分踊れ。
そして最後に嗤うのは俺だ。
珪はまた机に視線を移した。そこにはこの計画の要とも言える呪具が、仄暗い光を宿していた。
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