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第二章

2-20 鵺の亡霊

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 蕾生らいおが手に取った古い書物を受け取って、梢賢しょうけんは嬉しそうにはしゃいだ。
 
「うわあ、これが残っとったのは正に雲水うんすい様のお導きやあ!」
 
「床に落ちてたぞ」
 
「だから運良く免れたのかもね」
 
「で、これはなんだ?」
 
 蕾生とはるかはその書物に興味津々だった。梢賢は永に書物を手渡して言う。
 
「そいつはうちの最古の文献や。初代がぬえの亡霊に会うた記録を二代目が書き残したもんや」
 
「鵺の亡霊だって?」
 突然、永の視線が鋭くなった。
 
「おう。もしかして覚えてんのんか?」
 
「当然だ。長い転生の中であっても絶対に忘れない──忘れてはならない出来事だよ」
 
「へええ。オレはその本でしか知らんけど、当時におった人から生の声が聞けるんか!ヤバッ、興奮するッ!」
 
 はしゃぎ続ける梢賢に気をとられていると、後方でガタ、と棚を揺らす音がした。見ると鈴心すずねが青ざめて寄りかかっていた。
 
「リン?」
 
「あ……すみません」
 
 その声は弱々しかった。蕾生が近寄ると、息も上がっていた。
 
「大丈夫か?顔色が悪いぞ」
 
「あ、ちょっと暑くて……」
 
 いくら日陰の多い場所でも今は真夏の正午過ぎ。日照がちょうど厳しくなっている時間だ。梢賢は慌てて蔵を出ようとした。
 
「あかん、熱中症かもしれん。家に戻ろか」
 
「これ、持ち出してもいい?」
 
 件の書物を片手に永が聞くと、梢賢は大きく頷いた。
 
「当然や。涼しい部屋でいっちょ鵺談義と洒落込もうや」
 
「盗難事件の方はどうするんだ?」
 
 蕾生が聞くと、梢賢は少し白けた雰囲気で言う。
 
「ああ……どうせ警察には言えないんや。里の大人達が考えるやろ。オレ達が何かできるとしたら大人の話が済んでからや」
 
「そんなんでいいのか?」
 
「ライくん、ここは特殊な場所なんだよ。仕方ない。それよりも早くリンを休ませたい」
 
 蕾生は消化不良な気分だったが、永は鈴心を心配して少し焦っていた。それで蕾生も従うことにする。
 
「そうだな。鈴心、平気か?おぶってやろうか」
 
「……おんぶよりもお姫様抱っこがいいです」
 
「ああん!?」
 
「冗談です。大丈夫、家までなら歩けます」
 
 せっかく心配してやったのにふざける元気はあったのか。蕾生は先にスタスタ歩く鈴心に文句を投げた。
 
「クソガキがっ!」
 
 怒りながら後に続いて蔵を出た蕾生の後ろで、永はまた何かを考えていた。目は鈴心の背中を追っている。
 また、梢賢もそんな永の様子を注視していた。

 
「どうだった?」
 
 蔵の外にいた楠俊なんしゅんに、梢賢は残念そうに首を振った。
 
「あかんわ。二代目の手記と、最近の記録以外はごっそりや」
 
「そうか……。犯人が戻って見にくるかもと思って蔵の周りを見張ってたんだけど、誰もこなかったよ」
 
「ナンちゃん、マジか!気がきくどころやあれへんね!ほんまに名探偵みたいや」
 
 梢賢が褒めそやすと楠俊は苦笑しながら、先を歩く鈴心と蕾生を指して言う。
 
「いいから、君達は部屋に戻っていなさい。もうすぐ人が色々来るだろうから」
 
 優杞ゆうこが父のいる会合場所へ行ったと言うことは、藤生ふじきにも眞瀬木ませきにも事件のことはバレている。その後起こることは明白だ。その場には永達はいない方がいいのと言うは楠俊も梢賢も同じ考えだった。
 
「はーい。子どもらは大人しく留守番してますぅ」
 
 そうして梢賢は先に母屋に向かう永達を追いかけた。







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