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第二章

2-11 女傑

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「な、成実なるみですか!?」
 
 はるかがあまりに驚いているので、蕾生らいおは隣の鈴心すずねにこっそり聞いた。
 
「なんだ?それ」
 
「かつてのはなぶさ家の政敵です。治親はるちか様が戦で負けた相手です」
 
 鈴心も永に負けないほど驚いていた。そんな三人の反応を気にする風もなく康乃は思い出を語るように言う。
 
「そうね、一度は成実家は政権をとった。その際に滅ぼされた英治親氏は不遇でした。
 けれど、別の英家が盛り返し、今度は成実が倒された。私達は敗戦の際に落ち延びてこの村に辿り着き、名前を変えてここに隠れ住んでいるの」
 
「そう、だったんですか……」
 
雨都うとの──当時は雲水うんすい一族ね。彼らがここに辿り着いたのはずうっと後の時代になってから。それも偶然よ。
 彼らの境遇に同情した私達がここに匿うことにしたの。それ以来、雨都家にはこの里の神事などを任せています。元々が僧侶の家系でしたからね」
 
 そこまで話したところで、墨砥ぼくとが小さな声で釘を刺そうとする。
 
「御前……」
 
「あらいけない、喋りすぎてしまったかしら。次は貴方達のことを聞かせて」
 
 お茶目に笑った顔は、その余裕さを物語っている。
 永は注意深く探りを入れることにした。
 
「ええと、何をお知りになりたいので?」
 
「そうねえ……やっぱりぬえのことかしら」
 
「鵺、ですか。ですが、そちらでもかなり詳しくご存知なのでは?」
 
 ずばり聞いてくるとは、永は無意識に身構える。大胆なこの女傑はそんな永に向かって柔らかな口調で言った。
 
「そんなことはないのよ。雨都の文献は秘蔵ですから、この私も見たことはないの。雨都はあくまで同盟みたいな関係でね。適度な距離をとっているのよ」
 
「そうですか。でも僕らも鵺の呪いについてはわからないことばっかりで。藤生ふじきさんのご満足いく話ができるかどうか……」
 
「お若いのにはぐらかすのがお上手なのね。そちらのたださん──が鵺に変化へんげできるというのは本当かしら?」
 
 遠慮のないその発言は永と鈴心の体を強張らせた。
 蕾生はドキリと慌てて「違う」と言おうとしても言葉が出なかった。
 
「いや、俺は──」
 
 そんな蕾生を優しく制して、永が代わりに答える。息を吐いて、観念するように努めて冷静に言った。
 
「確かに一度彼は鵺に変化しました。本来はそういう呪いのはずです。今、何か特殊能力のように表現されましたが、それは全くの誤解です」
 
 鈴心もそれに追随する。少し怒った表情で。
 
「私達は彼が鵺に変化しないように、何回も転生を繰り返しているんです」








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