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第一章
1-13 雨辺菫
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満を持してインターホンを梢賢が鳴らそうとした時、部屋の扉が開けられた。
「来たな、間男」
「わあ!」
扉の側で梢賢を睨む少女が一人。少しくせっ毛のショートヘアで気が強そうな眼差しだった。
インターホンも鳴らしていないのにどうして来客がわかったのか、永達は驚いて瞬間言葉を失った。
「性懲りも無く来やがって、図々しい」
「あ、藍ちゃーん、ビックリするやーん」
梢賢に藍と呼ばれたその少女は、恐ろしい形相で睨み続けていたが、後方の三人に興味を引き、子どもらしく目を丸くした。
「?」
「はじめまして……」
それでも相手が不機嫌なことを鑑みて、永は控えめに挨拶する。鈴心と蕾生にいたっては軽く会釈することしかできなかった。
「あ、こいつらオレのダチとその妹や。夏休みやから遊びに来てんねん」
梢賢がそう説明すると、藍は品定めするように永達を順番に眺めてから同じように睨んで言った。
「ふうん。あんた達、こいつの友達なら注意してくんない。人妻にモーションかけるなって」
「えっ、あ、あはは、そ、そうですねえ──?」
確か可愛らしい十歳ではなかったのか。
年齢に似合わない物言いと表情に、永もどうしたものか言葉を濁すだけで精一杯だった。
「人聞きの悪い言い方やめてや、菫さんは離婚してシングルでしょうが!」
「あたしはそんなの認めてないから」
梢賢がそう言うと藍は短く切り捨てて、プイと振り返って部屋の中に入ってしまった。
取り残された梢賢は肩を落としている。
「だいぶ複雑な家庭のようで……」
「せやねん……」
ますます不安になった永とがっくり沈んでいる梢賢めがけて綺麗な声が響いた。
「あら?まあまあ、梢ちゃん、だめよ勝手に入ったら」
「あ、しゅ、す、菫さん!すんません!」
菫と呼ばれたその女性は、二人も子どもがいるとは思えないほど細身で、上品なワンピースを着ている。深窓の御令嬢かと見紛うほどの美貌だった。
色白で桃色の唇だが化粧気がなく、肩まで伸びる黒い髪は先の方がウェーブしている。何よりも印象的なのは、大きな黒い瞳だ。
じっと見つめられれば吸い込まれそうなほど不思議な光を帯びていた。
「いえ、こちらのお嬢さんがドアを開けてくれたので──」
頬を染めて固まってしまった梢賢に変わって永がそう言うと、菫は一瞬だけその綺麗な顔を歪ませた。
「え!?──あ、ああそう、そうだったの。ええと?」
だがすぐにおっとりした笑顔を取り戻して、永を見ながら首を傾げる。
「あ、梢賢くんのサークルの友人で周防といいます、こっちは妹です」
永が手で指して言ったので、鈴心はぎこちなく一礼した。蕾生もその後に続く。
「はじめまして」
「唯、です、友達の……」
二人の挨拶を満足気に受け取った後、菫はにっこり笑って一同を迎え入れた。
「ええ、聞いてるわ。梢ちゃんたら大学でやっとお友達ができたのね、良かったわね」
「はい、まあ、良かったです、うへへ……」
「玄関で立話もなんだからどうぞ、散らかってますけど」
「お邪魔しまっす!!」
元気なお返事をして梢賢から先に上がる。
永達も続いて入ったが、中は普通の間取りだった。おそらく2LDKだろう。
十歳の子どもが二人いると感じさせるようなものがほとんどなく、リビングもダイニングキッチンも最小限の家具で綺麗に片付いていた。
端にある仏壇だけが少し異様な雰囲気を放っている以外は、いたって普通の部屋に見えた。
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「来たな、間男」
「わあ!」
扉の側で梢賢を睨む少女が一人。少しくせっ毛のショートヘアで気が強そうな眼差しだった。
インターホンも鳴らしていないのにどうして来客がわかったのか、永達は驚いて瞬間言葉を失った。
「性懲りも無く来やがって、図々しい」
「あ、藍ちゃーん、ビックリするやーん」
梢賢に藍と呼ばれたその少女は、恐ろしい形相で睨み続けていたが、後方の三人に興味を引き、子どもらしく目を丸くした。
「?」
「はじめまして……」
それでも相手が不機嫌なことを鑑みて、永は控えめに挨拶する。鈴心と蕾生にいたっては軽く会釈することしかできなかった。
「あ、こいつらオレのダチとその妹や。夏休みやから遊びに来てんねん」
梢賢がそう説明すると、藍は品定めするように永達を順番に眺めてから同じように睨んで言った。
「ふうん。あんた達、こいつの友達なら注意してくんない。人妻にモーションかけるなって」
「えっ、あ、あはは、そ、そうですねえ──?」
確か可愛らしい十歳ではなかったのか。
年齢に似合わない物言いと表情に、永もどうしたものか言葉を濁すだけで精一杯だった。
「人聞きの悪い言い方やめてや、菫さんは離婚してシングルでしょうが!」
「あたしはそんなの認めてないから」
梢賢がそう言うと藍は短く切り捨てて、プイと振り返って部屋の中に入ってしまった。
取り残された梢賢は肩を落としている。
「だいぶ複雑な家庭のようで……」
「せやねん……」
ますます不安になった永とがっくり沈んでいる梢賢めがけて綺麗な声が響いた。
「あら?まあまあ、梢ちゃん、だめよ勝手に入ったら」
「あ、しゅ、す、菫さん!すんません!」
菫と呼ばれたその女性は、二人も子どもがいるとは思えないほど細身で、上品なワンピースを着ている。深窓の御令嬢かと見紛うほどの美貌だった。
色白で桃色の唇だが化粧気がなく、肩まで伸びる黒い髪は先の方がウェーブしている。何よりも印象的なのは、大きな黒い瞳だ。
じっと見つめられれば吸い込まれそうなほど不思議な光を帯びていた。
「いえ、こちらのお嬢さんがドアを開けてくれたので──」
頬を染めて固まってしまった梢賢に変わって永がそう言うと、菫は一瞬だけその綺麗な顔を歪ませた。
「え!?──あ、ああそう、そうだったの。ええと?」
だがすぐにおっとりした笑顔を取り戻して、永を見ながら首を傾げる。
「あ、梢賢くんのサークルの友人で周防といいます、こっちは妹です」
永が手で指して言ったので、鈴心はぎこちなく一礼した。蕾生もその後に続く。
「はじめまして」
「唯、です、友達の……」
二人の挨拶を満足気に受け取った後、菫はにっこり笑って一同を迎え入れた。
「ええ、聞いてるわ。梢ちゃんたら大学でやっとお友達ができたのね、良かったわね」
「はい、まあ、良かったです、うへへ……」
「玄関で立話もなんだからどうぞ、散らかってますけど」
「お邪魔しまっす!!」
元気なお返事をして梢賢から先に上がる。
永達も続いて入ったが、中は普通の間取りだった。おそらく2LDKだろう。
十歳の子どもが二人いると感じさせるようなものがほとんどなく、リビングもダイニングキッチンも最小限の家具で綺麗に片付いていた。
端にある仏壇だけが少し異様な雰囲気を放っている以外は、いたって普通の部屋に見えた。
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