27 / 101
Meets02 ホスト系アサシン
12 生い立ち
しおりを挟む
「ルブルムがカエルレウムから侵略されて、その憂き目に会った人達はもう生きてないって言ったよね」
アニーは熱いコーヒーをカップに注ぎながら話し始めた。
ミチルは少し緊張していた。これから語られることが重過ぎたらどうしよう、と。
平和な日本でのほほんと生きてきたミチルに、アニーの身の上をどうこう言うことが出来るだろうか。
て言うか、聞いてどうする? その後、何ができる?
オレは、アニーとどうなりたいんだ?
冷静になって考えてみると、なんだかすごく無責任なことを言った気がする。
けど、アニーを知りたいと思ったのは本当で。
ええい! 聞く前から怖気付いてどうする! 聞いてから考えろ!
ミチルは景気づけにコーヒーをぐいっと飲んだ。
「うあっちぃ!」
一人で大騒ぎしているミチルを見て、アニーは困ったように笑った。
「そんなに緊張しないでいいよ。俺の独り言だと思って聞いて」
「う……うん」
そうしてアニーは再び語り始めた。
「……もう生きてないからと言って、ヤツらの罪が消えた訳じゃない。俺の曾祖父は娘をカエルレウム人に陵辱された」
「──!」
「その娘……俺の祖母だけど、混血の子どもを産んだことでルブルム人からも疎まれた。ただ、曾祖父は族長だったからね。表向きにはその子ども……俺の父は不自由なく平凡に育てられた」
「……」
百年ほど前の遠い出来事は、その血族であるアニーが語ることで鮮明に蘇る。ミチルはすでにやるせなさで胸が詰まった。
「父が成人する頃には、ルブルムはすっかりカエルレウム色に染まってた。だからかな、父はなんの抵抗もなくルブルムを訪れていたカエルレウム人の女性と恋に落ちて結婚した」
アニーの言葉は少し棘があった。それは両親に対するものというよりは、両親を取り巻く環境そのものに憤りを感じているようだった。
「だからさ、俺ってば実は四分の三がカエルレウム人なワケ。それでもたまに疼くんだよね、四分の一しかない方の血が」
「アニーは、カエルレウムが嫌いなの……?」
少し直接的に聞きすぎただろうか、ミチルの問いにアニーは複雑な顔をしていた。
「いや、カエルレウムは両親のルーツだからね。俺個人では特に何も。ただ、あそこの軍は嫌いだな」
「ああ……」
ダリアの街が受けた仕打ちのことだろうとミチルはすぐに気づいた。
「話を戻すけど、俺は生まれはここから少し離れたスプレンデンスという街なんだ。そこはかなり発展していてね、都会だよ」
「そうなんだ」
「そこで俺は両親と幸せに暮らしてた。スプレンデンスはほぼカエルレウム人の街で、居心地は良かった」
そう言うアニーの顔は郷愁に満ちていた。穏やかで平和な子ども時代だったんだろうと、ミチルにも察せられる。
だが、すぐにアニーの顔は豹変した。
「……あいつが街に来るまではね」
途端に憎しみを込めて言うアニーの顔は恐ろしかった。侵略してきたカエルレウムに対する憤りとは比べ物にならないほどだった。
「な、何があったの……?」
恐る恐るミチルが聞くと、アニーは少し力を抜いて笑いかけた。ミチルが怖がっているからだ。
「あいつは世界中を渡り歩く商人だった。ある日突然うちに来たんだ、母のペンダントを譲って欲しいってね」
「ペンダント?」
「それはとても綺麗な蒼い石がついていてね、母が実家から受け継いだ由緒ある物だった」
「そんな大事なものを欲しがったの? なんか図々しくない?」
ミチルが憤慨していると、アニーは今度は自然に笑っていた。
「それは本当にそう。母はもちろん断ったよ。でもあいつは諦めなかった」
「商人てそんなにしつこいの?」
「さあ……とにかくあいつはしつこくて毎日のようにうちに来た。その度に父と喧嘩になって追い払われてたね」
「へえ……」
それほどの物とは一体どんな物だろう。ミチルは単純にそこに興味が出たけれど、他人なのに由緒正しい家宝を欲しがる商人の気持ちは理解できなかった。
ミチルがそんな風に想像していると、続けるアニーの顔がまた険しく曇った。
「それで、ある日とうとうあいつが実力行使に出た」
その表情の険しさはこれまでと一線を画すものだった。
アニーは熱いコーヒーをカップに注ぎながら話し始めた。
ミチルは少し緊張していた。これから語られることが重過ぎたらどうしよう、と。
平和な日本でのほほんと生きてきたミチルに、アニーの身の上をどうこう言うことが出来るだろうか。
て言うか、聞いてどうする? その後、何ができる?
オレは、アニーとどうなりたいんだ?
冷静になって考えてみると、なんだかすごく無責任なことを言った気がする。
けど、アニーを知りたいと思ったのは本当で。
ええい! 聞く前から怖気付いてどうする! 聞いてから考えろ!
ミチルは景気づけにコーヒーをぐいっと飲んだ。
「うあっちぃ!」
一人で大騒ぎしているミチルを見て、アニーは困ったように笑った。
「そんなに緊張しないでいいよ。俺の独り言だと思って聞いて」
「う……うん」
そうしてアニーは再び語り始めた。
「……もう生きてないからと言って、ヤツらの罪が消えた訳じゃない。俺の曾祖父は娘をカエルレウム人に陵辱された」
「──!」
「その娘……俺の祖母だけど、混血の子どもを産んだことでルブルム人からも疎まれた。ただ、曾祖父は族長だったからね。表向きにはその子ども……俺の父は不自由なく平凡に育てられた」
「……」
百年ほど前の遠い出来事は、その血族であるアニーが語ることで鮮明に蘇る。ミチルはすでにやるせなさで胸が詰まった。
「父が成人する頃には、ルブルムはすっかりカエルレウム色に染まってた。だからかな、父はなんの抵抗もなくルブルムを訪れていたカエルレウム人の女性と恋に落ちて結婚した」
アニーの言葉は少し棘があった。それは両親に対するものというよりは、両親を取り巻く環境そのものに憤りを感じているようだった。
「だからさ、俺ってば実は四分の三がカエルレウム人なワケ。それでもたまに疼くんだよね、四分の一しかない方の血が」
「アニーは、カエルレウムが嫌いなの……?」
少し直接的に聞きすぎただろうか、ミチルの問いにアニーは複雑な顔をしていた。
「いや、カエルレウムは両親のルーツだからね。俺個人では特に何も。ただ、あそこの軍は嫌いだな」
「ああ……」
ダリアの街が受けた仕打ちのことだろうとミチルはすぐに気づいた。
「話を戻すけど、俺は生まれはここから少し離れたスプレンデンスという街なんだ。そこはかなり発展していてね、都会だよ」
「そうなんだ」
「そこで俺は両親と幸せに暮らしてた。スプレンデンスはほぼカエルレウム人の街で、居心地は良かった」
そう言うアニーの顔は郷愁に満ちていた。穏やかで平和な子ども時代だったんだろうと、ミチルにも察せられる。
だが、すぐにアニーの顔は豹変した。
「……あいつが街に来るまではね」
途端に憎しみを込めて言うアニーの顔は恐ろしかった。侵略してきたカエルレウムに対する憤りとは比べ物にならないほどだった。
「な、何があったの……?」
恐る恐るミチルが聞くと、アニーは少し力を抜いて笑いかけた。ミチルが怖がっているからだ。
「あいつは世界中を渡り歩く商人だった。ある日突然うちに来たんだ、母のペンダントを譲って欲しいってね」
「ペンダント?」
「それはとても綺麗な蒼い石がついていてね、母が実家から受け継いだ由緒ある物だった」
「そんな大事なものを欲しがったの? なんか図々しくない?」
ミチルが憤慨していると、アニーは今度は自然に笑っていた。
「それは本当にそう。母はもちろん断ったよ。でもあいつは諦めなかった」
「商人てそんなにしつこいの?」
「さあ……とにかくあいつはしつこくて毎日のようにうちに来た。その度に父と喧嘩になって追い払われてたね」
「へえ……」
それほどの物とは一体どんな物だろう。ミチルは単純にそこに興味が出たけれど、他人なのに由緒正しい家宝を欲しがる商人の気持ちは理解できなかった。
ミチルがそんな風に想像していると、続けるアニーの顔がまた険しく曇った。
「それで、ある日とうとうあいつが実力行使に出た」
その表情の険しさはこれまでと一線を画すものだった。
10
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる