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番外編 戸部典子展へ、おこしやすなり
3、全歴連、襲来!
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午後三時頃にようやく戸部典子は控室に顔を出した。
出したかと思うと、松花堂弁当を掻き込んで再び会場に向かおうとしている。
もう大物は来ないだろう。飯くらいゆっくり食え。
「ダメなりよ。これから全歴連の幹部のお姉さま方が来るなり。」
全歴連、全日本歴女連盟である。要するに歴女さんたちの集まりだ。そんなもん適当にあしらっておけ。
「そんな恐ろしいことはできないなり。」
そう言って、戸部典子は熱いほうじ茶を飲み干すと急いで会場へ戻った。
会場を監視するモニターの画面が、妙な空気を漂わせた若い女たちを映し出している。六人か。あれが全歴連だな。
戸部典子が飛んで行って、ペコペコと頭を下げている。腰を低くして展覧会の案内をしている。なんでこんな歴女連中にこうまでへりくだるのだろう。謎だ。
みんなおとなしく戸部典子の説明に耳を傾けているではないか。伊達政宗の眼帯はこの展覧会の目玉のひとつだ。戸部典子は誇らしげにこの眼帯を譲り受けたというか、略奪したいきさつについて話しているようだ。
戸部典子が嬉しそうに何かを言ったかと思うと、全歴連のひとりが怒り出した。戸部典子はペコペコして謝っている。今度は全歴連の女性たちが内輪もめを始めたぞ。何が起こったんだ。
戸部典子は内輪もめを収めようと必死だ。困った表情の上に、無理矢理作り笑いをしているから、すごい顔になってるぞ。
だが、騒ぎは収まる気配さえない。ここは私が出ていくというのも大人げないしな。どうすべきかと、腕組みをしていたら、
ああっー、戸部典子が土下座した!
一国の首相にさえ横柄な態度だった戸部典子が、土下座しているのだ。
「お姉ちゃんって、いったい……」
戸部京子君がつぶやいた瞬間、戸部典子は内輪もめの歴女さんたちをほおって逃げ出したのだ
敵前逃亡である。
しばらくすると、控室の扉が勢いよく開いた。
「先生、助けて欲しいなり。もう収拾不可能なのだ。」
いったい何が起こったんだ。
「伊達政宗君の眼帯の前でうっかり『やっぱりいちばんカッコよかったのは伊達政宗君だったなり』って言ちゃったなりよ。」
それでどうしてこんなもめ事になるんだ。
控室の扉が再び開いて歴女さんたちが乱入してきた。
まあ、まあ、いったいみなさんどうしたというのだ。
「いちばんカッコいいのは島津義弘公でござる。」
「馬鹿を言うな、石田三成殿の心映えこそ尊いのじゃ。」
「そなたたち、織田信長公をお忘れではないか? 信長公こそ戦国武将の鏡なのじゃ。」
「えーい、ミーハーどもが戦国一は立花宗成殿じゃ。」
ようするに、戦国武将のランキングで揉めてたわけか。
戸部典子は私の背中に隠れて震えている。
実に、くだらん!
そんな時、妹の戸部京子君が歴女さんたちに諭すように言った。
「いちばんカッコいいなんて、人によって違うのがあたりまえなのだ。こんなことで喧嘩になるなんて変なのだよ。」
歴女さんたちはこの言葉で我に返ったようだ。「そりゃそうだよな」という顔をして、みな大人しく会場へ戻っていった。
「京子、ありがとなり。助かったなり。恩に着るなり。」
やれやれだ。
戸部京子君、ご苦労様である。
「いいのだ、お姉ちゃんにはいっぱい助けてもらったのだ。それから、おやつのわらび餅も持ってきたのだよ。」
おー、これは西陣「茶洛」のわらび餅ではないか。
ほっとした戸部典子は食欲モードに入ったみたいだ。わらび餅を口に放り込んで満足げな顔をしている。
「夏なりねー」
わらび餅の楊枝を口にくわえて、戸部典子が冷房の風にあたっている。さっきまでの恐慌状態を忘れたかのようだ。のど元過ぎれば何とやら、である。
私もわらび餅を食べながら、その食感とほのかな甘みを楽しんだ。
京都人はこの暑い夏に、さまざまな創意工夫を加えて楽しもうとする。
もう少しすると大文字焼きだ。私も暑さに耐えながら、夏の風物詩を楽しむことにしよう。
ひとごこちついたところで、読者の皆様に紹介しておこう。
戸部京子君だ。
高木一優、新作小説の主人公が彼女だ。
「この番外編は、新作の宣伝だったなりよ。」
お前が新作の宣伝だからと作者を説得して書かせたんだもんな。
「ところで、どんな小説なりか?」
何だ、知らないのか? 経済小説だそうだ。
「ネット小説で経済小説は無ないなり! 誰も読まないなりよ。」
戸部典子の眉毛がハの字になった。言ってることは分からんでもない。
「京子、あんたは異世界転生ものに出て、チートで無双しまくるなりよ。あたしが作者と交渉するのだ。」
いいではないか。異世界転生も、やがて飽きられるだろう。新しいジャンルに挑戦しないとネット小説も先細りだ。
「でも、経済小説はないなりよ。この作者は頭がおかしいのだ。」
おーい、作者、こんなこと言っているぞ。
「あたしも苦労したのだ。歴史改変だけど転生も無双もない小説で、おまけに作者が自慢げに歴史哲学みたいなのを語りだすのだ。あたしが伊達政宗君に転生する話だったら、ポイント十倍は稼げたなりよ。」
これはこれで読んでくださる読者の方々がいるんだぞ。
「姉として、同じ苦労を妹にさせるわけにはいかないのだ。」
若い頃の苦労は買ってでもしろ、って言われてるぞ。それに、おまえも出演するんだ。
「あたしも出るなりか?」
ちょっとだけだけどな。
「いい役なりか?」
重要な役だ。
「京子、やってみるなりか?」
「あたしは、やるつもりなのだよ。お姉ちゃんが助けてくれるなら心強いのだよ。」
というわけで、高木一優、最新作「あたしが会社を守るのだ! 二十歳の乙女の経済戦争」連載開始です。
あらすじ
戸部京子はちょっと自己評価の低い二十歳の女の子。高校を卒業して回転寿司チェーンを運営する会社の経理部に勤務している。社長が会社を売却し新しい経営者がやってきたのだが、この男は会社を潰そうとしていたのだ。社内には陰謀が渦巻き、会社は倒産寸前の危機的状況に陥る。戸部京子の姉、典子は妹に起死回生の策を授ける。それは、とんでもない奇策だったのだ。会社のため、みんなのため、二十歳の女の子の戦いの日々が始まる。京都の四季折々を背景に、戸部京子の成長を描きます。会社は誰のものか? 社会の一員として出来ることは何か? 働くとは? 学ぶとは? 一人の女の子の軌跡が、社会に問いかけるものは何か。社会の裏と表を駆け抜ける、青春経済ビルディングス・ロマン。
「おーい、作者。新作の抱負を述べるなり!」
『抱負ですか。そうですね、私が人生で体験してきたこと、社会の裏も含めてちょっとえげつない話を、二十歳の女の子を主人公にして書こうと思ったんですよ。こういう話を爽やかな青春小説として書きたいんですよね。』
「青春小説なりか?」
『そう、私が学生時代を過ごした京都を舞台にして、あの頃の自分に問いかけるように書きたいと思う。若い人が読むと、「へーそんな事があるのか」というちょっとした社会勉強になるように、働くこと、学ぶこと、それがいったい何なのかを語りたいんですよ。』
「なんか、また知能指数髙そうなりね。」
いいではないか、「歴史改変戦記」だって、元は作者がインテリ連中に読ますために書いた短編が元になってる。そういう物を読んでくださる読者がいらっしゃるんだ。
「ちょっと、心配なり。」
さて、戸部京子君、ご挨拶だ。
「読者のみなさん、戸部京子と申します。お姉ちゃんみないな派手なことはできないけれど、頑張りますので読んで欲しいのだ。」
「第一話は本作と同時公開なり! みんなー、読むなりよ! 」
出したかと思うと、松花堂弁当を掻き込んで再び会場に向かおうとしている。
もう大物は来ないだろう。飯くらいゆっくり食え。
「ダメなりよ。これから全歴連の幹部のお姉さま方が来るなり。」
全歴連、全日本歴女連盟である。要するに歴女さんたちの集まりだ。そんなもん適当にあしらっておけ。
「そんな恐ろしいことはできないなり。」
そう言って、戸部典子は熱いほうじ茶を飲み干すと急いで会場へ戻った。
会場を監視するモニターの画面が、妙な空気を漂わせた若い女たちを映し出している。六人か。あれが全歴連だな。
戸部典子が飛んで行って、ペコペコと頭を下げている。腰を低くして展覧会の案内をしている。なんでこんな歴女連中にこうまでへりくだるのだろう。謎だ。
みんなおとなしく戸部典子の説明に耳を傾けているではないか。伊達政宗の眼帯はこの展覧会の目玉のひとつだ。戸部典子は誇らしげにこの眼帯を譲り受けたというか、略奪したいきさつについて話しているようだ。
戸部典子が嬉しそうに何かを言ったかと思うと、全歴連のひとりが怒り出した。戸部典子はペコペコして謝っている。今度は全歴連の女性たちが内輪もめを始めたぞ。何が起こったんだ。
戸部典子は内輪もめを収めようと必死だ。困った表情の上に、無理矢理作り笑いをしているから、すごい顔になってるぞ。
だが、騒ぎは収まる気配さえない。ここは私が出ていくというのも大人げないしな。どうすべきかと、腕組みをしていたら、
ああっー、戸部典子が土下座した!
一国の首相にさえ横柄な態度だった戸部典子が、土下座しているのだ。
「お姉ちゃんって、いったい……」
戸部京子君がつぶやいた瞬間、戸部典子は内輪もめの歴女さんたちをほおって逃げ出したのだ
敵前逃亡である。
しばらくすると、控室の扉が勢いよく開いた。
「先生、助けて欲しいなり。もう収拾不可能なのだ。」
いったい何が起こったんだ。
「伊達政宗君の眼帯の前でうっかり『やっぱりいちばんカッコよかったのは伊達政宗君だったなり』って言ちゃったなりよ。」
それでどうしてこんなもめ事になるんだ。
控室の扉が再び開いて歴女さんたちが乱入してきた。
まあ、まあ、いったいみなさんどうしたというのだ。
「いちばんカッコいいのは島津義弘公でござる。」
「馬鹿を言うな、石田三成殿の心映えこそ尊いのじゃ。」
「そなたたち、織田信長公をお忘れではないか? 信長公こそ戦国武将の鏡なのじゃ。」
「えーい、ミーハーどもが戦国一は立花宗成殿じゃ。」
ようするに、戦国武将のランキングで揉めてたわけか。
戸部典子は私の背中に隠れて震えている。
実に、くだらん!
そんな時、妹の戸部京子君が歴女さんたちに諭すように言った。
「いちばんカッコいいなんて、人によって違うのがあたりまえなのだ。こんなことで喧嘩になるなんて変なのだよ。」
歴女さんたちはこの言葉で我に返ったようだ。「そりゃそうだよな」という顔をして、みな大人しく会場へ戻っていった。
「京子、ありがとなり。助かったなり。恩に着るなり。」
やれやれだ。
戸部京子君、ご苦労様である。
「いいのだ、お姉ちゃんにはいっぱい助けてもらったのだ。それから、おやつのわらび餅も持ってきたのだよ。」
おー、これは西陣「茶洛」のわらび餅ではないか。
ほっとした戸部典子は食欲モードに入ったみたいだ。わらび餅を口に放り込んで満足げな顔をしている。
「夏なりねー」
わらび餅の楊枝を口にくわえて、戸部典子が冷房の風にあたっている。さっきまでの恐慌状態を忘れたかのようだ。のど元過ぎれば何とやら、である。
私もわらび餅を食べながら、その食感とほのかな甘みを楽しんだ。
京都人はこの暑い夏に、さまざまな創意工夫を加えて楽しもうとする。
もう少しすると大文字焼きだ。私も暑さに耐えながら、夏の風物詩を楽しむことにしよう。
ひとごこちついたところで、読者の皆様に紹介しておこう。
戸部京子君だ。
高木一優、新作小説の主人公が彼女だ。
「この番外編は、新作の宣伝だったなりよ。」
お前が新作の宣伝だからと作者を説得して書かせたんだもんな。
「ところで、どんな小説なりか?」
何だ、知らないのか? 経済小説だそうだ。
「ネット小説で経済小説は無ないなり! 誰も読まないなりよ。」
戸部典子の眉毛がハの字になった。言ってることは分からんでもない。
「京子、あんたは異世界転生ものに出て、チートで無双しまくるなりよ。あたしが作者と交渉するのだ。」
いいではないか。異世界転生も、やがて飽きられるだろう。新しいジャンルに挑戦しないとネット小説も先細りだ。
「でも、経済小説はないなりよ。この作者は頭がおかしいのだ。」
おーい、作者、こんなこと言っているぞ。
「あたしも苦労したのだ。歴史改変だけど転生も無双もない小説で、おまけに作者が自慢げに歴史哲学みたいなのを語りだすのだ。あたしが伊達政宗君に転生する話だったら、ポイント十倍は稼げたなりよ。」
これはこれで読んでくださる読者の方々がいるんだぞ。
「姉として、同じ苦労を妹にさせるわけにはいかないのだ。」
若い頃の苦労は買ってでもしろ、って言われてるぞ。それに、おまえも出演するんだ。
「あたしも出るなりか?」
ちょっとだけだけどな。
「いい役なりか?」
重要な役だ。
「京子、やってみるなりか?」
「あたしは、やるつもりなのだよ。お姉ちゃんが助けてくれるなら心強いのだよ。」
というわけで、高木一優、最新作「あたしが会社を守るのだ! 二十歳の乙女の経済戦争」連載開始です。
あらすじ
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「おーい、作者。新作の抱負を述べるなり!」
『抱負ですか。そうですね、私が人生で体験してきたこと、社会の裏も含めてちょっとえげつない話を、二十歳の女の子を主人公にして書こうと思ったんですよ。こういう話を爽やかな青春小説として書きたいんですよね。』
「青春小説なりか?」
『そう、私が学生時代を過ごした京都を舞台にして、あの頃の自分に問いかけるように書きたいと思う。若い人が読むと、「へーそんな事があるのか」というちょっとした社会勉強になるように、働くこと、学ぶこと、それがいったい何なのかを語りたいんですよ。』
「なんか、また知能指数髙そうなりね。」
いいではないか、「歴史改変戦記」だって、元は作者がインテリ連中に読ますために書いた短編が元になってる。そういう物を読んでくださる読者がいらっしゃるんだ。
「ちょっと、心配なり。」
さて、戸部京子君、ご挨拶だ。
「読者のみなさん、戸部京子と申します。お姉ちゃんみないな派手なことはできないけれど、頑張りますので読んで欲しいのだ。」
「第一話は本作と同時公開なり! みんなー、読むなりよ! 」
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