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第二部 西欧が攻めてくるなり
19、艦隊戦
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朝っぱらから戸部典子がそわそわしている。
英国艦隊、正確に言えばイギリス東インド会社の艦隊が台湾に接近していたからだ。
「来たなり! 来たなり! 来たなり!」
そう呟きながら、ラボをうろうろしているのだから邪魔でしょうがない。
敵艦隊は四十六隻。迎え撃つ帝国艦隊は、ミサイル攻撃で二隻を失っていたから三十二隻になる。これに伊達水軍の六隻と島津水軍の三隻を加えても五隻少ない計算になる。
状況はやや不利だが、こちらには台湾近辺の潮の流れや気象についての知識があるのだから、ほぼ互角の戦いと言わねばなるまい。
上空には敵のミサイル攻撃を警戒して二十機ほどの飛燕が旋回している。シーガル・ファイターも何時でも戦闘状態に入ることができるようにスタンバイしている。
「昼頃には台湾に到着しそうですね。」
陳博士が言った。
天気は晴朗、「波高し!」と言いたいところだが、海は凪いでいる。
これから艦隊戦が行われようとしている海は静かである。
英国艦隊接近の報を受けた九鬼守隆は帝国艦隊を出動させた。
水平線の向こうに英国艦隊の船影が現れた。二列縦隊の陣形を取っている。
これに対する帝国海軍は一列縦隊である。
「敵は挟み撃ちにする気なり!」
二列のまま帝国艦隊を挟み込み、左右から砲撃を食らわす作戦だ。このままでは帝国艦隊に不利だ。
だが、九鬼守隆は陣形を変えようとしない。なにか策があるのか。
大砲の射程ぎりぎりまで敵を引き付けたところで、帝国第一艦隊の旗艦、開陽丸のマストの上で大きな旗が振られた。
先頭の船から順番に船が面舵を切っていく。それも恐ろしく急角度の回頭運動である。
まさか、東郷ターン?
二列縦隊で進む英国艦隊の前を帝国艦隊が横切るような形になった。
これは・・・
「丁字戦法なり!」
英国艦隊に対して帝国艦隊が「丁」の字を描く形だ。
帝国艦隊の左舷フランキー砲が次々に火を噴いた。水面に水柱が無数に上がり、英国艦隊は先頭の船から順番に被弾していく。青い空に黒煙が上がる。
大砲は船の左右に取り付けられている。正面に打てる大砲はかろうじて最前部の二門だけなのである。船の横っ腹を見せることで、帝国艦隊は船の左舷火力を全て敵への砲撃に使うことできる。
対する英国艦隊は前方にしか大砲を撃つことができない。それも先頭の船だけだ。
丁字戦法は味方の火力を最大限に、敵の火力を最小限に抑える陣形である。ただ、この陣形に持ってくるのは非常に難しい。あの鋭いターンを決める艦隊行動は一朝一夕のものではない。
「丁字戦法というのは日露戦争じゃないですか?」
陳博士が言った。
日本海海戦の折、連合艦隊司令長官、東郷平八郎は丁字戦法でバルチク艦隊を撃破している。
「きっと、九鬼水軍のなかに東郷平八郎君のご先祖様がいるなり!」
「ラノベなら、きっとそうだよねー。」
また戸部典子と陳博士のラノベあるあるが始まった。
馬鹿を言うな、東郷平八郎は薩摩の家系だ。志摩を本拠地とする九鬼水軍に薩摩人がいたとは思えんな。
東郷平八郎の参謀、秋山真之は日本の古式水軍の戦法を研究し、丁字戦法を編み出したのだ。だから九鬼水軍の戦法に丁字戦法があっても何の不思議も無い。いや、あってしかるべきなのだ。
英国艦隊の十三隻が被弾していた。うち撃沈が五隻、他の船も航行不可能なほど痛めつけられている。ほんの十数分のことだったが、帝国艦隊はありったけの砲弾を打ち尽くす気で、凄まじい砲撃を行ったのだ。
九鬼守隆はこの一撃の後、戦闘海域を離脱した。
再び体制を整えて第二波を浴びせるつもりだ。
英国艦隊も左右に散開し体制を立て直そうとしている。旗艦、ヴィクトリー号の甲板でジェームス・ドレークが叫びながら指示をだしている。
岬の影に隠れていた伊達水軍、六隻が現れた。
伊達水軍の大将、支倉常長が指揮を執っている。伊達艦隊が、体制を整えつつ戦闘海域を離脱する英国艦隊の前を横切る形になっている。
「またもや丁字戦法なり!」
伊達水軍の砲弾が英国艦隊を直撃していく。
「常長、人真似は良うないぞ。」
「一度見たからには、やってみませんとな。」
英国艦隊、六隻を撃破した伊達艦隊が戦闘海域を離脱していく。
「大将の首、おいがもろうた!」
島津水軍、桜島丸が二隻を率いて、ジェームス・ドレークの乗船する旗艦ヴィクトリー号に向かっている。
丁字戦法を立て続けに受け混乱した英国艦隊のなかに島津豊久が突っ込んでいったのだ。
島津水軍に対して、英国艦隊は同士討ちを恐れて砲撃することができない。
なんて無茶な奴だ。
「豊久君! 行くのだ!」
戸部典子が島津豊久のフィギュアを握りしめている。おいおい、五万円もしたフィギュアだぞ。それに中国人民の血税で買った備品だ。もっと大切に扱え!
島津豊久は桜島丸をヴィクトリー号の後ろにぴたりとつけた。そこで敵船に梯子を渡したのだ。
「行っぞ!」
豊久以下、剽悍な薩摩武士たち十数人がヴィクトリー号に乗り込んだのだ。
「島津豊久、見参!」
豊久が大音声で叫ぶと薩摩武士たちが抜刀した。
「チェスト、行けー!」
薩摩武士たちがヴィクトリー号の水兵たちに襲いかかった。これが示現流というものなのか、凄まじい剣戟である。
水兵たちが次々の斬り伏せられた。怯えた者は海に飛び込んでいく。
古代や中世の船の戦いは、こうした船の上での白兵戦が主体だったのだが。この時代は鉄砲と大砲の時代である。敵が斬り込みをかけてくるなどとは思っていない。
豊久は甲板の上に仁王立ちしたジェームス・ドレークの姿を見つけた。
「おはんが大将か?」
ドレークは刀を抜いた。日本刀だった。インドで日本刀の切れ味を知ったドレークは日本刀を帯刀していたのだ。
豊久が袈裟懸けに斬りかかる、ドレークが渾身の力で受ける。ギリギリと刃の軋む音がする。二人は刃越しに睨みあっている。
そこへ、英国船レインボー号がヴィクトリー号に横付けした。船体が接触し船が大きく揺れ、豊久は甲板の上に転がった。
その隙にドレークはレインボー号に乗り移ったのだ。水兵たちも我先に乗り移っていく。
レインボー号が離れていく
豊久が悔しそうに歯噛みしている。
ドレークが笑いながら合図をすると、レインボー号から砲弾が発射された。至近距離からの直撃でヴィクトリー号が炎を上げた。薩摩兵もろとも吹き飛ばすつもりなのだ。
「撤退!」
豊久が叫ぶと、薩摩武士たちが桜島丸へ乗り移っていく。
その直後、ヴィクトリー号は轟音をあげて崩壊した。
「惜しかったなり、豊久君!」
評価は分かれるだろうが、私は無茶な戦闘だったと思うぞ。
「そんなことないなり! 敵の旗艦を沈めたなり!」
そうだな。それに敵の心胆を寒からしめたことに間違いない。
九鬼守隆の帝国艦隊が陣形を整えて戻ってきたではないか。それに伊達水軍も英国艦隊の後ろから接近しつつある。
島津豊久の活躍で、英国艦隊は混乱状態から立ち直っていない。
「勝敗は見えたなり。」
戸部典子が腕組みしてにまにま笑いだ。
だが、戦闘はまだ終わってはいない。
英国艦隊、正確に言えばイギリス東インド会社の艦隊が台湾に接近していたからだ。
「来たなり! 来たなり! 来たなり!」
そう呟きながら、ラボをうろうろしているのだから邪魔でしょうがない。
敵艦隊は四十六隻。迎え撃つ帝国艦隊は、ミサイル攻撃で二隻を失っていたから三十二隻になる。これに伊達水軍の六隻と島津水軍の三隻を加えても五隻少ない計算になる。
状況はやや不利だが、こちらには台湾近辺の潮の流れや気象についての知識があるのだから、ほぼ互角の戦いと言わねばなるまい。
上空には敵のミサイル攻撃を警戒して二十機ほどの飛燕が旋回している。シーガル・ファイターも何時でも戦闘状態に入ることができるようにスタンバイしている。
「昼頃には台湾に到着しそうですね。」
陳博士が言った。
天気は晴朗、「波高し!」と言いたいところだが、海は凪いでいる。
これから艦隊戦が行われようとしている海は静かである。
英国艦隊接近の報を受けた九鬼守隆は帝国艦隊を出動させた。
水平線の向こうに英国艦隊の船影が現れた。二列縦隊の陣形を取っている。
これに対する帝国海軍は一列縦隊である。
「敵は挟み撃ちにする気なり!」
二列のまま帝国艦隊を挟み込み、左右から砲撃を食らわす作戦だ。このままでは帝国艦隊に不利だ。
だが、九鬼守隆は陣形を変えようとしない。なにか策があるのか。
大砲の射程ぎりぎりまで敵を引き付けたところで、帝国第一艦隊の旗艦、開陽丸のマストの上で大きな旗が振られた。
先頭の船から順番に船が面舵を切っていく。それも恐ろしく急角度の回頭運動である。
まさか、東郷ターン?
二列縦隊で進む英国艦隊の前を帝国艦隊が横切るような形になった。
これは・・・
「丁字戦法なり!」
英国艦隊に対して帝国艦隊が「丁」の字を描く形だ。
帝国艦隊の左舷フランキー砲が次々に火を噴いた。水面に水柱が無数に上がり、英国艦隊は先頭の船から順番に被弾していく。青い空に黒煙が上がる。
大砲は船の左右に取り付けられている。正面に打てる大砲はかろうじて最前部の二門だけなのである。船の横っ腹を見せることで、帝国艦隊は船の左舷火力を全て敵への砲撃に使うことできる。
対する英国艦隊は前方にしか大砲を撃つことができない。それも先頭の船だけだ。
丁字戦法は味方の火力を最大限に、敵の火力を最小限に抑える陣形である。ただ、この陣形に持ってくるのは非常に難しい。あの鋭いターンを決める艦隊行動は一朝一夕のものではない。
「丁字戦法というのは日露戦争じゃないですか?」
陳博士が言った。
日本海海戦の折、連合艦隊司令長官、東郷平八郎は丁字戦法でバルチク艦隊を撃破している。
「きっと、九鬼水軍のなかに東郷平八郎君のご先祖様がいるなり!」
「ラノベなら、きっとそうだよねー。」
また戸部典子と陳博士のラノベあるあるが始まった。
馬鹿を言うな、東郷平八郎は薩摩の家系だ。志摩を本拠地とする九鬼水軍に薩摩人がいたとは思えんな。
東郷平八郎の参謀、秋山真之は日本の古式水軍の戦法を研究し、丁字戦法を編み出したのだ。だから九鬼水軍の戦法に丁字戦法があっても何の不思議も無い。いや、あってしかるべきなのだ。
英国艦隊の十三隻が被弾していた。うち撃沈が五隻、他の船も航行不可能なほど痛めつけられている。ほんの十数分のことだったが、帝国艦隊はありったけの砲弾を打ち尽くす気で、凄まじい砲撃を行ったのだ。
九鬼守隆はこの一撃の後、戦闘海域を離脱した。
再び体制を整えて第二波を浴びせるつもりだ。
英国艦隊も左右に散開し体制を立て直そうとしている。旗艦、ヴィクトリー号の甲板でジェームス・ドレークが叫びながら指示をだしている。
岬の影に隠れていた伊達水軍、六隻が現れた。
伊達水軍の大将、支倉常長が指揮を執っている。伊達艦隊が、体制を整えつつ戦闘海域を離脱する英国艦隊の前を横切る形になっている。
「またもや丁字戦法なり!」
伊達水軍の砲弾が英国艦隊を直撃していく。
「常長、人真似は良うないぞ。」
「一度見たからには、やってみませんとな。」
英国艦隊、六隻を撃破した伊達艦隊が戦闘海域を離脱していく。
「大将の首、おいがもろうた!」
島津水軍、桜島丸が二隻を率いて、ジェームス・ドレークの乗船する旗艦ヴィクトリー号に向かっている。
丁字戦法を立て続けに受け混乱した英国艦隊のなかに島津豊久が突っ込んでいったのだ。
島津水軍に対して、英国艦隊は同士討ちを恐れて砲撃することができない。
なんて無茶な奴だ。
「豊久君! 行くのだ!」
戸部典子が島津豊久のフィギュアを握りしめている。おいおい、五万円もしたフィギュアだぞ。それに中国人民の血税で買った備品だ。もっと大切に扱え!
島津豊久は桜島丸をヴィクトリー号の後ろにぴたりとつけた。そこで敵船に梯子を渡したのだ。
「行っぞ!」
豊久以下、剽悍な薩摩武士たち十数人がヴィクトリー号に乗り込んだのだ。
「島津豊久、見参!」
豊久が大音声で叫ぶと薩摩武士たちが抜刀した。
「チェスト、行けー!」
薩摩武士たちがヴィクトリー号の水兵たちに襲いかかった。これが示現流というものなのか、凄まじい剣戟である。
水兵たちが次々の斬り伏せられた。怯えた者は海に飛び込んでいく。
古代や中世の船の戦いは、こうした船の上での白兵戦が主体だったのだが。この時代は鉄砲と大砲の時代である。敵が斬り込みをかけてくるなどとは思っていない。
豊久は甲板の上に仁王立ちしたジェームス・ドレークの姿を見つけた。
「おはんが大将か?」
ドレークは刀を抜いた。日本刀だった。インドで日本刀の切れ味を知ったドレークは日本刀を帯刀していたのだ。
豊久が袈裟懸けに斬りかかる、ドレークが渾身の力で受ける。ギリギリと刃の軋む音がする。二人は刃越しに睨みあっている。
そこへ、英国船レインボー号がヴィクトリー号に横付けした。船体が接触し船が大きく揺れ、豊久は甲板の上に転がった。
その隙にドレークはレインボー号に乗り移ったのだ。水兵たちも我先に乗り移っていく。
レインボー号が離れていく
豊久が悔しそうに歯噛みしている。
ドレークが笑いながら合図をすると、レインボー号から砲弾が発射された。至近距離からの直撃でヴィクトリー号が炎を上げた。薩摩兵もろとも吹き飛ばすつもりなのだ。
「撤退!」
豊久が叫ぶと、薩摩武士たちが桜島丸へ乗り移っていく。
その直後、ヴィクトリー号は轟音をあげて崩壊した。
「惜しかったなり、豊久君!」
評価は分かれるだろうが、私は無茶な戦闘だったと思うぞ。
「そんなことないなり! 敵の旗艦を沈めたなり!」
そうだな。それに敵の心胆を寒からしめたことに間違いない。
九鬼守隆の帝国艦隊が陣形を整えて戻ってきたではないか。それに伊達水軍も英国艦隊の後ろから接近しつつある。
島津豊久の活躍で、英国艦隊は混乱状態から立ち直っていない。
「勝敗は見えたなり。」
戸部典子が腕組みしてにまにま笑いだ。
だが、戦闘はまだ終わってはいない。
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