72 / 98
第二章 大森林
72
しおりを挟む
「正確にはドラゴニュートです~。普段の見た目は普通の人と変わらないのですが、こうやって変身するとドラゴンになれるんです!」
エッヘン、と胸を張る蛇、いや、ドラゴン。
しかし、うーむ。
「ドラゴンかぁ」
このニョロニョロのツヤツヤがドラゴンね。
「言っとくが、コレは一般的なドラゴンの容姿じゃねーぞ?」
「そうなのか。それを聞いて安心した」
「なんでですかー!!」
ンモー! とドラゴンなのに牛みたいな声を出すビャクヤ。
間延びしたその調子に、思わず脱力する。
この子について深く考えてはいけない気がする。
「それで、えー、ビャクヤ。そう言えば戻れなくなったと言っていたが、大丈夫なのか?」
「はい、それはもう。ちょっと不便なだけで、これも私自身ですから~。敢えて言うなら第二形態です~」
だいにけいたい……。
「テメー、ンなら三も四もあんのか!? とんでもねー野郎でぇ! てやんでぇ!」
「私はまだ使えませんが、神格化みたいなバージョンがあるんです~。パパとかすごいんですよ~? ピカーって」
そうか、ピカー、か。
この白蛇のさらに大きな蛇が、全身を発光させている光景を思い浮かべ、頭を振る。
それはさながら、超巨大な蛍光灯。
いや、そんなまさか。
そんな気持ちでいっぱいいっぱいだ。
「そんでよ、こいつ元に戻んのに時間が必要だから、村にいたいって言う話なんだよ」
「ほう、それは」
好都合だ。
見た目を受け入れさえすれば、俺の『城砕き』改め『壁砕き』にも耐えるほどの耐久力を誇るこの子がいれば、村の安全は確保されたようなものだ。守りに特化してるが故に、攻撃力は低そうだが、巨大虫のお陰で他の危険なモンスターが近郊にいない今、問題はないだろう。
俺がそこまで考えてからムラマサに確認しようと顔を向けたら、美少女風オッサンはとても悪そうな顔をしていた。美少女面が台無しである。
どうやら考える事は同じようだ。俺も似たような顔をしているだろうか。
「ならば、そうだな。俺たちから村長様へ口添えをするのがいいだろうな」
「本当ですか! よかったです~。いくらなんでもこの姿のままでは他の街にも入れないと思ってたので、助かります~」
そう言う常識はあるのか。
いや、見た目が非常識なだけで中身は常識的なのか。そういう意味では俺の方が非常識だろうか。騎獣は許可さえあれば街中へ入れるそうだし、このままでもルーベルやアジンタに滞在できるのではないかと思ってしまっていた。
「テメーは外身も非常識だけどな! なんだよその筋肉量!」
マッスルは正義なのだ。故に、これは常識的なのだ。そして心を読まないでもらいたい。
「バカな事を言っていないで早く村人たちを安心させてやろう」
先ほど俺に詰め寄ったが為に逃げる機会を失っていた警備隊長に目を向ければ、ようやく意識が戻ってきたのか、照れくさそうに鼻をかいていた。
「俺はみんなにもう大丈夫だと伝えてくる! 村長様にも話を通しておくから、後で来てくれ!」
「分かった」
「ついでにさっきの魔法の件も説明を頼むぞ! 頼んだぞ!」
「任せておけ」
さて、後と言う事は五分や十分と言う話ではないだろう。
それまでに他の用事を済ませてしまおうか。
繭玉から採った糸を村人から全て受け取り、次はどれに手を付けようかと考え始めた時、ムラマサが声をかけてきた。
「なぁ、アルよ。時間が空いてんのならアイツ解体しねーか?」
「アイツ?」
ムラマサの視線の先には、例の巨大虫の亡骸。
「ああ、そうか。モンスターではないから消えていないのか」
「そこが一般動物の難点なんでぇ。あんままだとアンデッドとして復活しかねねーし、取れる素材も勿体ねーかんな!」
「素材?」
「硬い殻部分は金属の代わり、足の肉は蒸し焼きにすりゃ食える、他にも何か使えんじゃねーかな」
「ほほう、そうか。それは悪くないな」
昆虫の足の肉、その字面だけで見ると恐ろし気だが、甲殻に覆われたその足は淡白であるが意外な甘みがあり、大変に美味だ。要はカニとかと一緒だ。焼くとプリプリの食感がたまらない。陸上に住まうカニの一種だと思えば、食虫文化の薄い現代日本人だった俺でも受け入れられた。
胴体部分を食う気には、まだなれないが。
「てなわけで、テメーら手伝え! 今日のおまんまだぜ!」
ようやくビャクヤの姿に慣れ落ち着きを取り戻した村人たちが、ムラマサの声に奇声を返し大興奮する。
やせ細った腕を高く振り上げ、晩のご馳走に心を弾ませ猛り叫ぶ。
「塩はあるか!?」
「岩塩のストックがあるぞ! 足りなきゃ取ってくればいい!」
「焼くならば、包む用の葉っぱはあったか!?」
「この量だと足りないだろうから、俺、取ってくる!」
「燃料は十分か?」
「あの巨大な虫が伐採した木、あれの打ち払った枝を使おうぜ!! 糸を巻くのに幹部分は使ったが、それなら枝も有効活用しようぜ!」
こういう時の結託具合はすごい。そして逞しい。あっという間にそれぞれが役割を決めて動き出した。
しかし、俺はその行動力よりも、先の会話が気になった。
「岩塩があるのか」
確かアジンタやルーベルでは海水から精製された塩を他領から輸入していたはずだから、意外とこの周辺は恵まれているのかもしれない。塩は生活に欠かせないからな。
「おい、アル! こいつの足を全部バラせ! 関節から区切ってやりゃテメーなら持ち運べるだろ!」
「お、おう」
コレを今から解体するのか……。
折角体と服を洗ったのだが、仕方がないだろう。皆の折角のやる気に水を差すわけにもいかない。
ムラマサの指示通りに巨大虫の体に袋槍の刃を走らせていく。飛び散る体液、汚れる身体と服。
こうして改めて見ると、巨大虫は本当に大きい。この足など、足の先でさえ俺と同サイズの太さだ。根元の方などビャクヤと同じ太さ……。
「なんですか?」
思わず巨大虫の足とビャクヤのサイズを比較していたが、視線でバレたようだ。温厚そうな彼女にしては恐ろしく威圧的な視線を感じた。その声も心なしか迫力が……。
「いや、何も」
「そうですか。そうですか~」
ゴゴゴゴゴ、と背景に擬音が生じそうなほどの剣呑さでビャクヤは俺が切り離した巨大虫の足を抱えて調理準備をしている村人の所へ飛んで運んでいく。
あの身なりでも、中身は聞いていた通り成人したての気難しいお年頃の女性そのものなのだろう。無遠慮な視線を送るべきではなかったな。
後で謝っておこう。
「おい、アル! ほれ見ろ、こいつはやっぱり『ナリカケ』だったぜ」
改めて、年頃の女性は異世界でも扱いが難しいものだと感じいっていると、おもむろにムラマサが何かを放り投げた。
布で軽く拭われたソレは、縦に引き延ばした立方体の形をしていた。
ん?
これは……。これは!?
「魔石屑。そいつが発達すりゃ俺らが知る魔石になんでぇ。ま、魔石屑はその名の通り、使えねーゴミクズだ。放っておくと新たなモンスターを生み出すから処分はしっかりしなきゃなんねーし、めんどくせー代物だ、べらんめぇ!」
魔石、屑?
処分?
「え? これを?」
改めて俺は自前の布でその立方体を拭う。
小指の先サイズの小さな宝石のようなもの。淡い緑色を放つソレは、俺が知るアレそのものだった。
「これ、翠水晶じゃないか!!」
なんだよ魔石屑って!
いくら探してもないと思っていたが、それが理由ならばどこにもないわけだ!
まさか厄介者のゴミとして捨てられていたとは!
「これ、とんでもないお宝だぞ! それが処分されているなんて、そんな事が……」
「はぁ? そいつぁ使い道のねーゴミだろ? いや、待て。テメーはソレの使い道が分かるってのか?」
そうだ、と頷く。
「マジかよ。ちなみに、その、どんな風に使って、どんなことが出来んだ?」
「俺の魔法の触媒、正確には魔法の反動を受けて俺の身の代わりに砕けるものだ」
「は? 何か思ってたんとちげーし、怖いんだが!?」
不可思議な魔法と言う力がありながら、割と現実的と言うか、科学でもある程度どうにか出来そうレベルの物が多かったこの世界では異端すぎる俺の魔法が使えるのだ。その概要は、きっと聞くだけで身震いしてしまうレベル。
「例えば、一番無難なものだと、『ワープサークル』だな」
「あ、もうその時点でヤベェ。全然無難じゃねーし」
響きからどんな魔法か察したようだ。
その名の通り、ワープするサークルを作り出す魔法だ。数秒で消えるそのサークルは、その中に入れば目的地へと転移出来る。
最も、この魔法はゲーム時代では帰還用魔法としてしか利用されていない。目的地には印象に残る目印が必要で、なおかつ使う当人が行った場所でなければならないからだ。
ゲームの部分はぼかしたうえで、ムラマサにそう説明した。
「そ、そうか。てこたぁ、こっからルーベルにまで戻れんのか!?」
「ルーベルは、多分無理だな。行けるとしたら、ルーベルの先にある開拓村の聖碑辺りだ」
「んなとこに突然出たら大騒ぎじゃねーか」
「あとはこちらの聖碑か。運べる人数は、おそらく一度に十人くらいだな」
「そう考えっと、大人数だとテメーの『強行軍』の方が効率よさげだな」
だからこそ無難なのだと俺が頷けば、納得したのかムラマサは「ほっ」と息を吐いた。
ゲーム時代には『強行軍』よりもはるかに楽に、そして早く移動できるスキルもあった。その為にこの『ワープサークル』はほとんど使われなかったが、いざ現実にこの力を使えるとなると
「もしかして、国に命を狙われる程だったりしないか?」
「それもあり得ねー話じゃねーが、準騎士だからその危険は薄いだろ。実力は王国の折り紙付きなんだし、手出しするリスクの方がたけーよ。それよりは、誰も領地に入れたがらねーだろうな」
そうか。覚えていない場所には飛べないから、俺の出入りを規制すれば脅威は格段に薄れるか。
「それはそれでつまらぬ結末だな。困ったものだ」
「今は秘密にしといて、騎士になったら公表すりゃいい。それに、その方が魔石屑を集めるのにも都合がいいってなもんでぇ」
「そう言う事情もあるか」
ゴミとして処分されているものだから、価値があるとバレる前に安値で買いあさる。それは実に合理的だ。素晴らしい。
「んでだ。喜べアル。こいつの毛、例の装置に使えそーだぜ?」
「例の装置……結界装置か!」
「こいつの毛、それとダミーの毛。この二つで大型の結界装置、結界炉が作れるぜ!」
「ますます都市建造計画が現実味を帯びてくるな」
「何言ってんでぇ! すでにそりゃ、決定事項だっての!」
手を止める事なく大はしゃぎのムラマサ。だがしかし、肝心の人に許可をもらっていない。
「あの、そろそろいいですか? 村長様がお呼びです」
そう、最も説得すべき人、村長様。
彼との会談があるのだ。
「私の事も忘れないで下さい~」
ついでにビャクヤの滞在許可ももらわねばならなかったな……。
エッヘン、と胸を張る蛇、いや、ドラゴン。
しかし、うーむ。
「ドラゴンかぁ」
このニョロニョロのツヤツヤがドラゴンね。
「言っとくが、コレは一般的なドラゴンの容姿じゃねーぞ?」
「そうなのか。それを聞いて安心した」
「なんでですかー!!」
ンモー! とドラゴンなのに牛みたいな声を出すビャクヤ。
間延びしたその調子に、思わず脱力する。
この子について深く考えてはいけない気がする。
「それで、えー、ビャクヤ。そう言えば戻れなくなったと言っていたが、大丈夫なのか?」
「はい、それはもう。ちょっと不便なだけで、これも私自身ですから~。敢えて言うなら第二形態です~」
だいにけいたい……。
「テメー、ンなら三も四もあんのか!? とんでもねー野郎でぇ! てやんでぇ!」
「私はまだ使えませんが、神格化みたいなバージョンがあるんです~。パパとかすごいんですよ~? ピカーって」
そうか、ピカー、か。
この白蛇のさらに大きな蛇が、全身を発光させている光景を思い浮かべ、頭を振る。
それはさながら、超巨大な蛍光灯。
いや、そんなまさか。
そんな気持ちでいっぱいいっぱいだ。
「そんでよ、こいつ元に戻んのに時間が必要だから、村にいたいって言う話なんだよ」
「ほう、それは」
好都合だ。
見た目を受け入れさえすれば、俺の『城砕き』改め『壁砕き』にも耐えるほどの耐久力を誇るこの子がいれば、村の安全は確保されたようなものだ。守りに特化してるが故に、攻撃力は低そうだが、巨大虫のお陰で他の危険なモンスターが近郊にいない今、問題はないだろう。
俺がそこまで考えてからムラマサに確認しようと顔を向けたら、美少女風オッサンはとても悪そうな顔をしていた。美少女面が台無しである。
どうやら考える事は同じようだ。俺も似たような顔をしているだろうか。
「ならば、そうだな。俺たちから村長様へ口添えをするのがいいだろうな」
「本当ですか! よかったです~。いくらなんでもこの姿のままでは他の街にも入れないと思ってたので、助かります~」
そう言う常識はあるのか。
いや、見た目が非常識なだけで中身は常識的なのか。そういう意味では俺の方が非常識だろうか。騎獣は許可さえあれば街中へ入れるそうだし、このままでもルーベルやアジンタに滞在できるのではないかと思ってしまっていた。
「テメーは外身も非常識だけどな! なんだよその筋肉量!」
マッスルは正義なのだ。故に、これは常識的なのだ。そして心を読まないでもらいたい。
「バカな事を言っていないで早く村人たちを安心させてやろう」
先ほど俺に詰め寄ったが為に逃げる機会を失っていた警備隊長に目を向ければ、ようやく意識が戻ってきたのか、照れくさそうに鼻をかいていた。
「俺はみんなにもう大丈夫だと伝えてくる! 村長様にも話を通しておくから、後で来てくれ!」
「分かった」
「ついでにさっきの魔法の件も説明を頼むぞ! 頼んだぞ!」
「任せておけ」
さて、後と言う事は五分や十分と言う話ではないだろう。
それまでに他の用事を済ませてしまおうか。
繭玉から採った糸を村人から全て受け取り、次はどれに手を付けようかと考え始めた時、ムラマサが声をかけてきた。
「なぁ、アルよ。時間が空いてんのならアイツ解体しねーか?」
「アイツ?」
ムラマサの視線の先には、例の巨大虫の亡骸。
「ああ、そうか。モンスターではないから消えていないのか」
「そこが一般動物の難点なんでぇ。あんままだとアンデッドとして復活しかねねーし、取れる素材も勿体ねーかんな!」
「素材?」
「硬い殻部分は金属の代わり、足の肉は蒸し焼きにすりゃ食える、他にも何か使えんじゃねーかな」
「ほほう、そうか。それは悪くないな」
昆虫の足の肉、その字面だけで見ると恐ろし気だが、甲殻に覆われたその足は淡白であるが意外な甘みがあり、大変に美味だ。要はカニとかと一緒だ。焼くとプリプリの食感がたまらない。陸上に住まうカニの一種だと思えば、食虫文化の薄い現代日本人だった俺でも受け入れられた。
胴体部分を食う気には、まだなれないが。
「てなわけで、テメーら手伝え! 今日のおまんまだぜ!」
ようやくビャクヤの姿に慣れ落ち着きを取り戻した村人たちが、ムラマサの声に奇声を返し大興奮する。
やせ細った腕を高く振り上げ、晩のご馳走に心を弾ませ猛り叫ぶ。
「塩はあるか!?」
「岩塩のストックがあるぞ! 足りなきゃ取ってくればいい!」
「焼くならば、包む用の葉っぱはあったか!?」
「この量だと足りないだろうから、俺、取ってくる!」
「燃料は十分か?」
「あの巨大な虫が伐採した木、あれの打ち払った枝を使おうぜ!! 糸を巻くのに幹部分は使ったが、それなら枝も有効活用しようぜ!」
こういう時の結託具合はすごい。そして逞しい。あっという間にそれぞれが役割を決めて動き出した。
しかし、俺はその行動力よりも、先の会話が気になった。
「岩塩があるのか」
確かアジンタやルーベルでは海水から精製された塩を他領から輸入していたはずだから、意外とこの周辺は恵まれているのかもしれない。塩は生活に欠かせないからな。
「おい、アル! こいつの足を全部バラせ! 関節から区切ってやりゃテメーなら持ち運べるだろ!」
「お、おう」
コレを今から解体するのか……。
折角体と服を洗ったのだが、仕方がないだろう。皆の折角のやる気に水を差すわけにもいかない。
ムラマサの指示通りに巨大虫の体に袋槍の刃を走らせていく。飛び散る体液、汚れる身体と服。
こうして改めて見ると、巨大虫は本当に大きい。この足など、足の先でさえ俺と同サイズの太さだ。根元の方などビャクヤと同じ太さ……。
「なんですか?」
思わず巨大虫の足とビャクヤのサイズを比較していたが、視線でバレたようだ。温厚そうな彼女にしては恐ろしく威圧的な視線を感じた。その声も心なしか迫力が……。
「いや、何も」
「そうですか。そうですか~」
ゴゴゴゴゴ、と背景に擬音が生じそうなほどの剣呑さでビャクヤは俺が切り離した巨大虫の足を抱えて調理準備をしている村人の所へ飛んで運んでいく。
あの身なりでも、中身は聞いていた通り成人したての気難しいお年頃の女性そのものなのだろう。無遠慮な視線を送るべきではなかったな。
後で謝っておこう。
「おい、アル! ほれ見ろ、こいつはやっぱり『ナリカケ』だったぜ」
改めて、年頃の女性は異世界でも扱いが難しいものだと感じいっていると、おもむろにムラマサが何かを放り投げた。
布で軽く拭われたソレは、縦に引き延ばした立方体の形をしていた。
ん?
これは……。これは!?
「魔石屑。そいつが発達すりゃ俺らが知る魔石になんでぇ。ま、魔石屑はその名の通り、使えねーゴミクズだ。放っておくと新たなモンスターを生み出すから処分はしっかりしなきゃなんねーし、めんどくせー代物だ、べらんめぇ!」
魔石、屑?
処分?
「え? これを?」
改めて俺は自前の布でその立方体を拭う。
小指の先サイズの小さな宝石のようなもの。淡い緑色を放つソレは、俺が知るアレそのものだった。
「これ、翠水晶じゃないか!!」
なんだよ魔石屑って!
いくら探してもないと思っていたが、それが理由ならばどこにもないわけだ!
まさか厄介者のゴミとして捨てられていたとは!
「これ、とんでもないお宝だぞ! それが処分されているなんて、そんな事が……」
「はぁ? そいつぁ使い道のねーゴミだろ? いや、待て。テメーはソレの使い道が分かるってのか?」
そうだ、と頷く。
「マジかよ。ちなみに、その、どんな風に使って、どんなことが出来んだ?」
「俺の魔法の触媒、正確には魔法の反動を受けて俺の身の代わりに砕けるものだ」
「は? 何か思ってたんとちげーし、怖いんだが!?」
不可思議な魔法と言う力がありながら、割と現実的と言うか、科学でもある程度どうにか出来そうレベルの物が多かったこの世界では異端すぎる俺の魔法が使えるのだ。その概要は、きっと聞くだけで身震いしてしまうレベル。
「例えば、一番無難なものだと、『ワープサークル』だな」
「あ、もうその時点でヤベェ。全然無難じゃねーし」
響きからどんな魔法か察したようだ。
その名の通り、ワープするサークルを作り出す魔法だ。数秒で消えるそのサークルは、その中に入れば目的地へと転移出来る。
最も、この魔法はゲーム時代では帰還用魔法としてしか利用されていない。目的地には印象に残る目印が必要で、なおかつ使う当人が行った場所でなければならないからだ。
ゲームの部分はぼかしたうえで、ムラマサにそう説明した。
「そ、そうか。てこたぁ、こっからルーベルにまで戻れんのか!?」
「ルーベルは、多分無理だな。行けるとしたら、ルーベルの先にある開拓村の聖碑辺りだ」
「んなとこに突然出たら大騒ぎじゃねーか」
「あとはこちらの聖碑か。運べる人数は、おそらく一度に十人くらいだな」
「そう考えっと、大人数だとテメーの『強行軍』の方が効率よさげだな」
だからこそ無難なのだと俺が頷けば、納得したのかムラマサは「ほっ」と息を吐いた。
ゲーム時代には『強行軍』よりもはるかに楽に、そして早く移動できるスキルもあった。その為にこの『ワープサークル』はほとんど使われなかったが、いざ現実にこの力を使えるとなると
「もしかして、国に命を狙われる程だったりしないか?」
「それもあり得ねー話じゃねーが、準騎士だからその危険は薄いだろ。実力は王国の折り紙付きなんだし、手出しするリスクの方がたけーよ。それよりは、誰も領地に入れたがらねーだろうな」
そうか。覚えていない場所には飛べないから、俺の出入りを規制すれば脅威は格段に薄れるか。
「それはそれでつまらぬ結末だな。困ったものだ」
「今は秘密にしといて、騎士になったら公表すりゃいい。それに、その方が魔石屑を集めるのにも都合がいいってなもんでぇ」
「そう言う事情もあるか」
ゴミとして処分されているものだから、価値があるとバレる前に安値で買いあさる。それは実に合理的だ。素晴らしい。
「んでだ。喜べアル。こいつの毛、例の装置に使えそーだぜ?」
「例の装置……結界装置か!」
「こいつの毛、それとダミーの毛。この二つで大型の結界装置、結界炉が作れるぜ!」
「ますます都市建造計画が現実味を帯びてくるな」
「何言ってんでぇ! すでにそりゃ、決定事項だっての!」
手を止める事なく大はしゃぎのムラマサ。だがしかし、肝心の人に許可をもらっていない。
「あの、そろそろいいですか? 村長様がお呼びです」
そう、最も説得すべき人、村長様。
彼との会談があるのだ。
「私の事も忘れないで下さい~」
ついでにビャクヤの滞在許可ももらわねばならなかったな……。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
底辺召喚士の俺が召喚するのは何故かSSSランクばかりなんだが〜トンビが鷹を生みまくる物語〜
ああああ
ファンタジー
召喚士学校の卒業式を歴代最低点で迎えたウィルは、卒業記念召喚の際にSSSランクの魔王を召喚してしまう。
同級生との差を一気に広げたウィルは、様々なパーティーから誘われる事になった。
そこでウィルが悩みに悩んだ結果――
自分の召喚したモンスターだけでパーティーを作ることにしました。
この物語は、底辺召喚士がSSSランクの従僕と冒険したりスローライフを送ったりするものです。
【一話1000文字ほどで読めるようにしています】
召喚する話には、タイトルに☆が入っています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる