ダイスの神様の言うとおり!

gagaga

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第二章 大森林

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 白蛇から放たれた光が一帯を包む。
 何人をも逃がさぬその苛烈な光はあまねく全てを照らし



 照らしただけだった。

 その光が収まり、人々が次々と面を上げる。

「なんだったんでぇ!!」

 周囲にいる村人も何が起こったのか把握できていないようでざわついていた。
 しかし意見交換をしようと口を開こうにも、皆して目を閉じていたのだから何が起こったのか分かっていない。かく言う俺も未だに状況を把握できずにいた。だから戸惑いは形にならず、心の乱れがそのまま伝播したような雰囲気が辺りに漂っていた。

 ただ、何となく、感覚的にだが、今の光は悪い物ではない気がした。それどころか清浄な気配さえ感じ取れる。
 キラキラと先ほどの光の余韻を残す周囲には、神聖な空気さえ漂っていた。その様子を見て、俺はある一つの可能性に思い至る。

「これは、まさか、いや……」

 聖属性。

 光属性の上位、ないしは互換の属性である聖属性のスキル。それが放たれた後なのであれば、この場の空気も納得の行くものだった。
 そしてそれとは分からぬものの、今の光が体に良い物だったと気付いた人たちが、別のざわめきをもたらす。安堵する者、戸惑ったままの者、子供たちは何故か村へと一目散に去っていた。
 どうやら子供たちは予期せぬ事態があったから、その影響の有無に関わらず退避すべきと判断したらしい。未だに有象無象の態で収拾が付いていない大人たちを思うと、よほどしっかりしている。

 肝心の白蛇はと言えば、未だに目をつぶったままだった。口をパカリと開けたままのコミカルなその様子は、こうして改めて見ると悪い物ではないように思えてくる。
 とは言え、サイズがサイズだ。全長で五メートルはあるのではないだろうか。胴の太さも俺が直立した状態よりも太いので、結構な迫力がある。この世界での一般的な武力である魔法やスキルが使えない村人が恐怖を覚え思考停止してしまうのも、無理のない大きさだ。

「ったく、ようテメェ何しやがんだ! て、てめぇ? なんだってンなとこに蛇が? おい、嬢ちゃんはどこいった!? まさかこいつに丸飲みされたんじゃあるめぇな!?」

 混乱が収まらぬ中、いの一番に吠えたのはムラマサだった。だがしかし、状況がよく分かっていないのに憶測でその発言は不穏当に過ぎるだろう。
 もしかすると、この白蛇こそが俺たちの聞く白い子である可能性もあるのだから。

「なんだって! それじゃぁ今度はあの白い蛇の腹を割らなきゃいけないのか!」
「た、倒せるのか!?」
「やるしかないだろ!! アンタら、済まないがもう少し協力してくれ!!」

 ムラマサの言葉で火が付いたのか、危険極まりない事を言い始める村人たち。どうやらこの白蛇の事を、村人は何も知らないようだ。次々に戦いの覚悟を決めていく。
 一方、そんな事を言われている白蛇はと言えば、蛇なのに何故か生えている前足で顔の両サイドを塞いでいた。

『ひーん、もうバリアが切れるよぅ! 誰か助けて~~』

 ……。
 手で塞いでいるのは耳か?

 普通の蛇に耳はない。穴はあるが鼓膜がなく、外音を聞く機能が損なわれている。
 ここは異世界なので地球の知識を当てはめるのもどうかとは思うが、何となくこいつは蛇ではないのかもしれない。浮いているのは、まぁ、異世界だからそう言う種類もあると思っているから、特に問題視はしない。

 そもそも、今俺に『テレパス』もどきで語りかけてきているのは、紛れもなくこの白蛇なのだから、今すぐ退治は早計だろう。

「あー、少し待ってもらいたい」

 恐慌状態から一転して興奮し始めた村人たちとムラマサを制し、俺は白蛇の体をノックする。
 しかし叩けたのはバリアだったようで、金属音にも似た甲高い音が響いただけだった。そしてその音を聞いて、白蛇はますます自分の中に閉じこもろうとする。

『うひっ! まだいるんですか!? 勘弁してください~。こ、今度は大きいのいっちゃいますから! ほ、本気ですよ!? もっと熱いですよ? いいんですか!?』

 ……。
 どうしたものか。
 このままだと今度はここの連中には無害な聖属性のスキルではなく、火力の高いスキルを無作為に撃ちそうだ。

 ならば、そうだな。

「皆は離れてくれ。そう、そうだ。万が一もあるから巻き込まれないようにな」

 ムラマサを含め全員が村に近い方へと移動するのを見届けた後、俺は拳を握り固める。
 今は『ワイルドハンド2』で留めている俺のマッスルを、『ワイルドハンド0』にする。先ほど叩いた感触からすると、この力で丁度この消えかけのバリアを破壊できるはずだ。

 そう、全て、最後にはコレだ。
 マッスルだ。
 力技が、最後には物を言う、全てを円満無事に解決してくれる。

「なぁ、そうだろう?」

 ポンと右腕に作った力こぶを左手で軽く叩いてから、腰を捻り、極限まで絞られたぜんまいバネのように、つま先から右手の指の先にまで力を溜める。右手に込めるは究極の一撃。素の筋力が人の上限を突破している俺の、バカげた威力の『通常攻撃』。

「通称、『城砕き』、行くぞ!!」
「ンなのブチかまして平気なのか!? そいつ、もしかすっと要救助者本人かもしれねーぞ!?」

 距離を置いて冷静になったのか、この白蛇が本来助けるべき人物であった可能性に思い立ったムラマサが、俺の言葉に突っ込みをいれた。
 だがしかし、もう遅い。
 俺の全身の筋肉という強力なバネは解き放たれ、俺の意志とは無関係に右拳を加速させる。骨のきしむ音さえ心地よく、空気を切る感触は何物にも代えがたい快楽を俺に与えてくれる。ランナーズハイにも似た気分の高揚にますますマッスルたちが喜びの声を上げる。血潮が疼き、肉が応える。人間としての本能が、俺を極地へと至らしめる。

 そんな刹那の狂乱は、拳の着弾と共に失われる。

 魔法と言う不可思議な現象に阻まれた拳は悲鳴を上げ、それは骨を伝わり、全身へと巡る。同時に反骨する魂が体の奥底から沸き上がり、丹田から吹き出た強い逆流の意志により全てを押し返す波となって体中を駆けまわり、やがて拳へと到達する。
 その抵抗感に、思わず口角が上がり、自然と思いの丈をぶちまけさせた。

「さぁ、俺のマッスルよ! 立ちふさがる敵を打ち壊せ!!」
「敵じゃねーし! 壊しちゃダメだろー!! アルゥゥゥゥゥ!?」

 バリアと我が身からの力の両方に挟まれた拳は変形し、砕かれそうになる。だがその拳もまたマッスルの権化である。気合と根性により一層握り絞められ、あわや崩壊かと思われた寸前、元の巌へと立ち返り、そのままバリアを粉砕する。

 勢いそのままに振り抜かれた拳は、当初狙っていた通りの軌道を描く。右フックから白蛇の腹の近くにチップするルートを通り、驚かすだけに留まる、そんな計算しつくされた一撃だった。

 そう、バリアを破壊され驚いた白蛇が身をよじる事さえなければ。

「あ……」

 声が出たのは全てが終わった後だった。

「ぐへぇ!!」

 と、女子があげてはいけない声と共に腹部に肉の砲弾がクリーンヒットした白蛇は、着弾した箇所から体を折り曲げられ、そのまま吹き飛んでいく。
 全長五メートルの物体が、中央から折り曲げられた状態で空を飛ぶさまは異世界でも異様な光景だったようで、皆が皆唖然とした表情でその哀れな被害者を目で追っていた。彼らの目にはもう、その白蛇を害する気持ちは沸いていない。ただただ憐憫の表情を浮かべ、顔を引きつらせ、次第に血の気を引かせていく。

 振り抜いた拳を戻し、姿勢を正す。残心と言うヤツだ。
 それを行い、心を落ち着けた後で俺は漏らす。

「やってしまった……」

 後悔先に立たずとはよく言ったものである。
 拳に残る思っていたよりも柔らかな感触が、こびりついて離れない。

「やって……しまった……」

 助けるべき者を殺してしまった。俺はこれからどうすればいいのだろうか。

「あ、あいたたた……。一体何があったんですか……?」

 むくりと白蛇が立ち上がっていた。痛そうに腹を擦ってはいるが、どうやら命に別状はないようだ。
 かつてゲームの中で城の壁をも砕いた俺の一撃は、バリアと言うクッションがあった為か、自身が想像していたよりも威力が低かったようだ。
 それなのに恥ずかしくも『城砕き』などと言ってしまったのだ。これは恥ずかしい。『壁砕き』程度に留めておくべきだったな。

「こんな時、どんな顔をすればいいのだろうか」
「さぁなぁ……、あのバリアを砕いただけでもてーしたモンだとぁ思うんだがなぁ」

 笑っておくか。は、ははは……。


 俺の規格外の一撃は、同じく規格外だった白蛇のお陰で事なきを得たようだった。
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