ダイスの神様の言うとおり!

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第三章 魔族

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「ほう、異論があるのか。申してみよ」
「はっ! いえ、その……あのですね、ミリーティア姫様をこの者の元へ嫁がせる、とお聞きしたのですが」
「言ったな」
「言った!? 効き間違いではなく、確かに言いましたか!? 何をご勝手な事を!!」

 おっと、何やら大臣らしき方が興奮し始めたぞ。
 俺をズビシッと指差して陛下に怒鳴りつける。非常に不敬なのだが、いいのだろうか。

「このような出自も分からぬ田舎者に、一国の姫を与えると!? 陛下は本気でそう仰っておられるのですか!」
「そうだが?」
「そうだが、ではありません! このような何の実績もない、得体も知れぬ者の元に降嫁なさるなど、断じてこのキーマ=カマーレンが許しませんぞ!」

 大臣の方のお名前はキーマ=カマーレンと言うのか。
 何だかカレーが食べたくなってくる名前だな。

「その者についてはハインツとプラタス、そして他にも幾名かが身元保証人となっておる。領地についても確認済みだ。何の問題もない」
「ハインツ殿とプラタス殿が!? いや、それよりも領地の確認が済んでいるとはどういう事なのですか!?」
「質問は一つにせよ」
「陛下! そのような言葉でごまかさないでいただきたい! すべて、すべての疑問にお答えください!」

 ……うーん、なんだろうかこのモヤモヤ感。
 キーマカレーさん、なんでそんなに陛下に突っかかるのか。
 しかもこんな儀式の場で。俺の事はどうでもいいとしても、さすがにこれがこの国での常識とは思えない。

 普通こういうのは異議申し立てがあった場合、再度検討した上で結果を申し付ける、みたいになるのではないのか?
 何故こんな時と場所で陛下を糾弾しているのか。
 キーマカレーさん、いささかやり過ぎではなかろうか。そして、周りの貴族もどうして止めないのか。
 まあ、最下級の俺が口出し出来る状況ではないので黙っているしかないのだが……。


「実績か。カマーレンよ、では例えば何であれば我が娘と釣り合いの取れる実績となるのだ?」
「それは……例えば我が家のように代々王家にお仕えし、様々に支えてきたとか……」

 ん? おや?
 そこでそう言う流れになるのか?

「それは十分に評価しておる。しかしミリーティアを拒否したのは他ならぬお主の孫だったように思うのだが?」
「そ、それは!? それは、その、説得致しますのでどうかご短慮はおやめください!」

 ほほう、そうなのか。
 何やらミリーティアの婚約関連でゴタ付いていると思っていたが、諸悪の権化はこのキーマカレーさんだったのか。
 しかし、いや、キーマカレーさんの孫よ。

 ぐっじょぶ。

 君がミリーティアとの婚約を拒否してくれたから、俺は彼女と出会えたのだ。感謝のハグをしたいくらいだ。


「そ、そうです! もしただの騎士が王家と血縁を結ぶのであれば、その! あれです! 姫様の呪いを解くほどでなければ!」

 ほほう?

「陛下、発言よろしいでしょうか」
「なんだ貴様! 黙って聞いておれ!」
「ああ、よいよい。それで騎士アーノルドよ。何を申したいのだ?」

 王様の隣、カレーマンの反対側に座るミリーティアに目配せをしてから、王様に答える。

「今の話ですと、姫様の呪いを解ければ結婚しても良い、と言う事なのでしょうか?」
「貴様は何を言い出すか!! そんな事、誰にも出来ん!」
「カマーレンよ、少しは落ち着け。時と場所を弁えよ」
「しかし陛下!」
「カマーレンよ! ミリーティアの呪いを解くほどの者が、我が王家の婿に相応しくないと申すのか? この何百年と蝕まれ続けたこの呪いから解放される事が! 答えよ!」

 おおう、王様が怒気をにじませてカレーマンに反論している。そしてそれがよほど珍しいのか。周りのお歴々も口をあんぐりと開けている。
 なんて思っていると、一人の男が挙手をしていた。

「陛下、よろしいでしょうか。ありがとうございます。僭越ながら、我が魔法省が長年、それこそお仕えした年月と変わらぬ機関研究し続け、未だに辿り着いておらぬ境地にこの者が至っているとは思えませぬ」

 ふむふむ。
 どうやら新たな重役が出てきたようだが、この方が恐らく反エーデルリッヒ派なのだろう。しかし、うーむ、これは単に研究内容が異なるから別に反目しているというのではないのか?
 エーデルリッヒ氏は主にモザイク問題に、この方は王家の呪いについて。単純に同じ省の中でも部門が違っていただけなのか。

「あのごく潰しのエーデルリッヒがいなくなり、ついにはハインツも去った今、我々の研究は飛躍的に進んでおります! このような者の手を借りずとも、我々が必ずや姫様を呪いの魔の手から開放してみせます!」

 ええー。
 エーデルリッヒ氏を滅茶苦茶恨んでいるではないか。
 しかもあの顔。どう見ても優秀なエーデルリッヒ氏やハインツ氏に嫉妬してのだろう。醜く歪み、醜悪さで顔が悪魔のようになっている。
 本当に王城にはロクでもない貴族が多いようだ。

「そうか、分かった。つまりこの者が今ここで呪いを解くことが出来れば、それは我が国の魔法省を超えているという事だな」
「陛下! 今だけ、今だけです! もう間もなく、すぐにでも成果が上がります故、どうか!」
「良い。貴公がたゆまぬ努力を重ねている事は知っておる。しかしだ、我が娘にはそれほど時間が残されておらん。であれば、ダメ元でもやってみる価値はあるのではないか? のう、騎士アーノルドよ」

 おっと、ここで俺に話が戻ってくるのか。
 陛下から話しかけられた時は、許可を得ずに発言してもいいのだったな。

「はっ。危険はありませぬ。時間もかかりませぬ。この場ですぐに解呪して御覧に入れましょう」
「そんな事出来るものか!」
「ハッ。王家に取り入ろうとするあまりに血迷ったか、田舎者が!!」

 おうおう、キーマカレーも魔法省の偉い人も粋がってくれているではないか。
 それだけ俺がこの件を解決し、ミリーティアを得るのに不都合があるのだろう。
 だが、貴様らの思惑など知らぬわ!
 俺は俺と、ミリーティアと、俺の友たちの幸せを優先する!

「記録は取っておったな?」
「はっ」

 義憤のような何かを胸に燃えあがらせる俺から視線を外した陛下は、やや離れたところにいた書記らしき男性に声をかけていた。

「では契約書を持ってまいれ」
「はっ、既にここに」

 契約書が既にある?
 いや、俺が手紙で治す方法があると伝えていたから、予め準備していてくれたのだろう。
 最初からそこまで信じてもらえていたのか。それともその真偽を確かめるために待合室で待ち構えていたのか。
 いずれにせよ、俺にとっては好都合!!

「貴公らもこの者の話は聞いたな? であれば、この書面にサインを記せ」
「そのようなもの……、いえ、これは……」
「出来なければ全財産の没収、でございますか……」

 中々にエグい事が書かれているようだが、何も問題はない。
 俺もその書面にサインをする。

「騎士アーノルドは印章を持っておらぬのだったな。では……」
「私の印章をお使い下さい、お父様」
「おお、ミリーティアか。であれば、両名の連名としよう」

 さりげなく夫婦の初めての共同作業となったようだ。実に嬉しいサービスだ。

「確かにこの強固な呪いを解けるのであれば、王家の末席に名を連ねさせるのも悪い判断ではないでしょう。貴様のような輩に出来るとは思えぬがな!」
「容易く出来るのであれば、確かに囲うべき人材でしょう。我々でも不可能な事が、貴様如きに出来る訳がないが!」

 言質は取った。ナイス自爆!

「して、準備の程はどうだ?」
「万全であります」
「場所はどうする?」
「この場にて。皆さまには姫様の、いえ、私の妻の真の姿を拝見して頂きたく思います」
「はっは、大きく出たな! その分、失敗すればその首、飛ぶぞ?」

 最後の最後で脅してきた。
 俺を、ではなく、周囲の貴族を、だ。
 この王様は俺が解呪できないとは思っていない。何故そこまで確信されているかは分からないが、そこまで信頼されているのは伝わってくる。
 だから首が飛ぶなど俺と王様の間では何の意味もない。
 しかし、それだけの覚悟を見せた上で成功したとなれば、俺や王様の株は爆上げだ。
 追いつめているはずのキーマカレーや魔法省の偉い人は成功したら、一気に突き上げを食らうだろう。

 ニヤリ。

「ニヤリ」

 どうやら王様も最初からそのつもりのようだ。本当に気が合うな。時間が許すのなら共に酒でも酌み交わしたいものだ。今なら丁度ツィママンに譲ってもらった良い酒があるし、この後で時間が取れないだろうか。

「では、頼んだぞ」
「ははっ、お任せください」

 王様がそっとミリーティアの背中を押す。
 俺の元へと歩んでくるミリーティア。顔は相変わらずベールで隠れているが、その仕草はたゆまぬ訓練で得た上流貴族としての立ち振る舞い。

 ああ、こんな子が俺の嫁になるとは。
 エミリ、また一段と魅力的になって……。

 死んで生まれ変わって、まさか再び会えるとは感慨深いものを感じるが、見つめ合い愛を確かめ合うのは後にしよう。

「では皆さま、ご注目を!」

 俺は右手に握り絞めた翠水晶を人に見られないように注意しながら、魔法を行使する。
 選択するは、全ての呪詛的要素を打ち消し、正常化する奇跡。

「ぁ~ベマり~~ィア! 『浄化』」

 『浄化』っぽい歌と共に『音魔法』を発動させる。
 その際の反動で手の内の翠水晶が砕け散るのが感触で分かった。

「ぬ、ぬおお!?」
「ひ、光が! これは一体……」

 ミリーティアを中心に光が溢れ、あの教会に似た空気が流れる。
 しかしそれは一瞬だった。謁見の間はすぐに元の光量に戻り、先ほどあった神聖さも霞のように消えていた。

 ……。
 初めての魔法だった。残弾もないので一発勝負だったが、どうやら無事に成功したようだ。

「さぁ、愛しのミリーティア。君の本当の姿を皆に見せてあげて欲しい。ベールをあげるよ?」
「まだ結婚していないのに気が早いですわ、アーノルド様、うふふ」

 鈴を転がすような声が聞こえる。
 ああ、声も前世のままではないか。

 思わず瞳から零れたしずくを、ミリーティアはそっと手で拭ってくれた。
 俺も彼女の目からこぼれた幸せをすくいとる。

「さぁ皆さま。俺の嫁を紹介します」
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