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第二章
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しおりを挟む――二十日目。
「二人が変なんだが……」
木々に隠れ、草むらに伏せ、サル系魔物の群れをストーキング。
「こいつら、完全に森と一体化してやがる……」
大したスニーキング能力だが、一体どこの天狐姉妹が仕込んだのか。
「って、犯人お前らしかいねーだろ! 何やってんだ!」
「あちゃー、ばれたよお姉さま」
「私は最初から隠していませんよ!?」
姉妹で反応が違う。
どういうことだ?
「キャス、説明しろ」
「は、はい! 実はドルチェ嬢から相談をされていまして、ティラントの森で生き延びるにはどうすべきかと問われました」
「その結果が、アレか?」
「ドルチェ嬢に関しては、そうです……」
なら、少年の方は自動的にシスの仕業になるが……。
「んとね。ドルチェ様ががんばってたけど、それでゼンベン様が隠れられないなら意味がないと思って、つい」
よけいな世話をかけてしまった、と。これで話はつながった。
「何もあそこまでする必要なかったんだが……。これでは予定が狂うな」
「予定、ですか?」
「ああ!? そんなことよりも二人が魔物に見つかったよ!」
「なに!?」
確かに魔物にかこまれていた。
しかしなぜ剣を抜かない?
「そしてなぜ、先ほどまでストーキングしていたサル系ではなく、イノシシ系に見つかっている?」
「動き出しました! これは……まさか!」
「キャスは何か、気付いたのか?」
俺は予想外連発でちょっとついていけてない。シスはなぜか大はしゃぎで小ジャンプしていた。薄着なためか、シスのポヨンポヨンが、ポヨンポヨンしていた。
……、胸当てかブラジャーが必要だな。
よそ見をしていた俺に気付かず、キャスは己の見解を述べる。
「おそらくですが、サル系の魔物の群れに、イノシシ系の魔物の群れをぶつけるようです」
はぁ?
……、はぁ!?
シスのポヨンポヨンを見ている場合ではなかった。次期伯爵候補が小賢しい真似をするものだ。
「あ、ほんとだ。ぶつけて、自分たちは逃げたねー」
そして誘導されたイノシシ系と、ぶつけられたサル系が大乱闘を始めた。
それを安全地帯から眺める少年少女が見える。
なんてたくましさだ。思わず苦笑いが漏れる。
そんな俺の元に、ツツツーと何者かが接近してくる。
「お館様、歓談中失礼いたします」
「ん? ああ、警備ゴーレムか」
少年少女を確保した際、ゴーレムが話せないのが不便だったので外部音声装置を取り付けたが、中々サマになっている。
そのゴーレムに顔を向ける。
「どうした?」
「お客様がお見えです。お相手はマッケイン様です」
マッケインが?
一体なんだろうか。
立ち上がり、天狐姉妹に指示を出す。少年少女の冒険は面白い見世物ではあるが、マッケインの方が優先度は高い。
「キャスとシスは二人の監視を続けてくれ」
「どの程度まで介入は許されますか?」
「んー、命以外は捨ててもいい」
「承りました」
サル系の魔物は人を性的に食うこともある。
もしそうなっても、それは知らん。自己責任でどうぞ。
「しかしこのタイミングでのマッケインか。あいつ、この家も見張ってるんじゃないだろうな?」
「盗聴器の類はございません」
「冗談だ、真に受けるな」
警備ゴーレムだけあって融通が利かない。
ここで天狐姉妹なら慌てふためくから反応が楽しいのだが、だからと言ってゴーレムに感情システムを埋め込みたくはない。
玄関に着けば、そこには丁度警備ゴーレムに案内されて敷居をまたいだマッケインがいた。
「坊ちゃん、こんにちはザマス。今日もいい天気ザマスよ」
「お前と俺で、どうして天気の話題から入らにゃならんのだ……」
なんて当たり障りのない内容なんだ。思わずため息ももれるわ。
「まぁいい。応接室、いや、どうせだから作戦会議室に来い」
「作戦、会議室、ザマスか? たしかこの家の設計段階ではなかった気がするザマスが」
「工房と一緒に俺が作った。亜空間の応用でこの家限定で空間拡張したからな」
「なんだかとんでもない事をサラリと暴露されてしまった気がするザマス……」
久しぶりにマッケインの驚く顔が見れたな。
特に説明をせず、階段脇のドアをくぐる。俺や天狐姉妹の持つペルセウスくん認証の特別なドアで、作戦指令室に直結している。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「おかえりー! マッケインもこんちはー!」
「ええ、お二人もお元気そうでなによりザマス」
ちなみに我が家の序列は
俺 > キャス > シス > マッケインだ。
なんでかマッケインにとっては俺直属のキャスシスの方が偉い認識らしい。
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