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第二章
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しおりを挟む「うわーーーい! ぶっ飛ばすよーーー!」
そんなシスの威勢のいい声の勢いのまま、街道を爆走する。
途中で大商隊とカチあいかけたが、事前にナビで存在を把握していたから迂回ルートを取ったので、特に問題にはならなかった。
はずだった。
これが、きっと、運命の分岐点だったのだろう。
「旦那様。あんなところに人がいるよ?」
「ボロボロのマントで顔を隠しながら歩いていて、怪しすぎるだろ」
街道から外れた場所。
魔物が多く危険なそのルートに旅人らしき人物の姿が見えた。
そいつがこちらを振り向いた時、まるで大量の生卵を頭からかぶったような不快感が全身を覆う。
『ミィツケタァ……』
本能が察した。
アレは滅するべきだと。
「キャス、シス、車から降りて戦闘準備だ」
「あいさー!」
「了解です」
その存在は、確かに俺の方を向いていた。
俺も、そいつを見た。
見覚えがある。
俺の本能的な場所がそれを訴えていた。
「あのマントに認識阻害の効果があるのか。この距離で視力を強化しても顔が判別できないとはな」
どうやら俺のコルウスくんよりも前に、似たような効果の魔道具を作った人物がいたようだ。
俺が時代の最先端などとうぬぼれるつもりはないが、これは少しショック。
「あの者からただならぬ気配を感じます」
「討伐、しちゃうよ? あちょー?」
姉妹もやる気十分だが、それよりもまず俺には確認しておかなければならないことがある。
「お前、オーレリアか?」
ニタリと、まるで口元が三日月に裂けるように開く。
うげっ、キモッ!
「うげっ、キモッ!」
思ったことが思わず口に出た。
『キモッ!? おま、オママママママママ……』
おま?
おま…こ、これは……。
『オ前エエエエエエエエエエ!?』
フードを取って現れたのは、やはりオーレリア。
ただし以前のような可憐さ美しさは微塵もない、醜悪な姿。
ぼさぼさの薄汚れくすんだ金髪。眼窩はくぼみ、頬はやせこけ、それなのに目はギラギラと輝いている。
のじゃ から聞いた通りの外見だ。
やはり不信感しかわかない。
『お前のせいで散々だったですわ! お前さえ、お前さえいなければああ!』
お、おう。
なんだこのヒス女。
子供の頃とは言え、こんなのに惚れてたとは我ながら見る目がなかった。
思わず口の端がけいれんする。
「俺がいなくなってから処刑されてんだから、関係ないだろ」
『そんなことないですわ! お前が逃げずに処罰されていれば、こんな事にはならなかったですわ!』
人を追いつめておいてよくもまぁそんな減らず口を叩けるものだ。俺もまだ、ここまでの外道にはなり切れていない。さすがは悪魔だといっそ感心する。
「知るかよ。そもそもお前こそ、一体何がしたかったんだ?」
『はぁ? そんなの、幸せにすごしたかったに決まってますわ!』
人を蹴落としておいて、幸せに?
ああ、そうか。こいつは悪魔だ。悪魔にとって、人の不幸が最大の幸福なのだろう。
「自業自得じゃねーかよ。てか、本物のオーレリアはどこへやったんだ?」
『私が本物ですわ! 産まれた時からすでにオーレリアは、この私ですわ! 王子様との結婚を夢見た、かわいい乙女ですわ!!』
「はぁ? ならお前、悪魔として産まれたのか?」
『このオーレリアという器に私が宿り、私が私で塗りつぶされ、今の私が私として誕生していただけですわ!!』
つまり、赤ん坊、いやそれよりもっと前の段階でオーレリアの体を乗っ取っていたのか。
俺も似たようなものではあるから、もしかするとこいつも転生者なのかもしれない。
納得納得。
「よく分かった。ならば死ね。『エアロバーストコラープス』」
首だけ飛んで逃げるジオングみたいなヤツだ。範囲攻撃で一気に始末してしまうのが最良だろう。
ちなみに今回の魔法は以前シスが使っていた『エアロバーストスプリット』と、海底ダンジョンで得た新たな経験を参考に作った魔法だ。
前後左右、上と三次元的に『エアロバースト』を複数展開し、そのすべてを内側に向けて炸裂させる。
それにより衝撃波を全方位から発生させつつ、気圧を極限まで高め内部を圧縮する。そして終了と同時に高まった気圧が急激に低くなり、外圧に耐えきっても最後には内部から破裂する。
効果はごらんの通り、オーレリアだったナニカは弾け飛んだ。
「我ながらエグい手だ」
「文字通り、木っ端みじんですね。容赦もありません。素敵なお手並みです」
「ついでにわたしもー! 『エアロバーストフレイム』!!」
シスの新魔法は『エアロバースト』に摩擦で熱を付与し、それで飛び散った肉片すべてを回収しつつ燃やし尽くす、俺並に凶悪な魔法だった。
「お庭のゴミ掃除用に作ってみた魔法が役に立ったよ」
「それ、家では絶対に使うなよ?」
危なすぎるだろ!
いやいや「手加減はするよ?」 なんて顔するなよ。それでも怖くて許可できない。火事になったらどうするつもりだ。
ッ!?
油断しきったところで、背筋がゾワリとした。
見ればキャスもシスも毛を逆立てていた。
お前らの髪の毛、どうなってんの? 重力に反して逆立ってるんだが!?
『オノレオノレノレー。レレレ、レ……』
妖怪首だけ女が現れた。こうして間近で見ると、気色が悪いなんて言葉でさえ足りないほどの嫌悪感。
『折角作リ直シタ体ヲ……!! 不意打チナンテ卑怯デスワー!』
人を貶めたお前が言うのか。さすがは悪魔。その開き直り、今度俺も利用させてもらおう。
『オボエテローデスワー!』
ビューンと空へと向かい高速で飛行する生首。
ビジュアル的に忘れがたい。
夢に出そう的な意味で。
「逃げられてしまいましたね」
「しまったな。思わずキモすぎて我を忘れてしまったぞ」
「あれはしょうがないよー。でも相手もだいぶ生命力と魔力を消費したみたいだし、当分は出てこないかもー?」
そうだといいのだが、油断はできないだろう。
「しかしあいつ、あの全方位攻撃をどうやって回避したんだ?」
「こちらの地面が掘り起こされています。どうやら土の中に本体である頭を埋め込んで回避したようですよ?」
妖怪かよ。
もう一度言うぞ。
妖怪かよ!?
「次は地面も固くするー?」
「それだと芸がないな。他になにか妙案がなければそうするが……」
いずれ再びあいつとは出会う気がするし、今度こそ完ぺきに滅する為に何か魔法を用意しておこう。
『アーマゲドン』なら確実に仕留められるが、あれは射程が短いし、発動に時間がかかる。先の頭部の移動速度を思うと、絶対に仕留められるとは言い難い。
「ナトリの話だとやられて一年は大人しくしているようだから、その間に考えるか」
一難去ってまた一難とはよく言ったものだ。
「今はこれ以上どうしようもない。受け身に回るのは気に食わないが、来たら今度こそ消滅させればいい」
「了解しました。精進いたします」
「はーい!」
そんなわけで自宅への帰路についたのだが……。
その後は特にイベントもなく、道中の村で一泊した後、迷宮の街へと無事に戻ってきた。
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