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第二章
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しおりを挟む我ながら外道だったと思う。
一度の『ブラックホール』ではあの巨体を飲み込めなかった。そもそも全長一キロメートル以上ある物体はさすがに無理だ。
だがダメージはあったから、それを何度も繰り返した。
「さぁ、お薬の時間ですよダンジョンマスターちゃん」
『い、いやだ……それはもう、いやだ!!』
「飲まなきゃ元気になれないでしゅよー! ジッタンバッタンできないでちゅよー? おら飲め!!」
『ギャーーーーー! 鬼! 鬼畜!! ひとでなし!』
残念。それは俺にとって、誉め言葉だ。
多少逃げられて時間がかかったが、それでもなんとかなった。
ここがダンジョンの中で助かった。ダンジョンコアを置いて逃げられないアイツは、最後は死んだ魚のような目で『ブラックホール』を受け入れてチリに還った。
「心なしか、ダンジョンコアもふるえているな?」
残った『ブラックホール』をダンジョンコアにぶつけて壊そうと思ったが、ダンジョンコアが『ブラックホール』を見て、怯えているようにみえる。
もしかすると、魂がないと思っていたが、ダンジョンコアがダンジョンマスターの魂なのかもしれない。
「まぁ、検証する気も起こらんしどうでいいんだが。とにかく食らえ!」
もし同一存在なら、こいつが元凶。俺の女を泣かした元凶!
許すはずもなし。慈悲もなし。
「これで終わりだ」
『ブラックホール』に吸い込まれ、粉々に砕けるダンジョンコア。キラキラと砕かれた破片が光り、海の底へと沈んでいく。
「なんだありゃ?」
砕けたかけたの中でひときわ大きな輝くブツを見つけたので、アポートしてみるが、重い!
「しかもでけぇ! ダンジョンコアよりでけえよ!?」
吸い寄せたそれを見る。
四角く、四角い。一見して直方体のそれは、上部が湾曲しており、ご丁寧にも前面部にカギ穴がついている。
宝箱?
「う、うーん。ご主人様……」
は!?
とりあえず宝箱は亜空間にしまっておく。これについては地上に戻ってからで問題ないだろう。
目を覚ましたキャスに問いかける。
「キャス、目が覚めたか?」
「ああ、はい。申し訳ありません」
「無事でよかった」
「ご主人様……」
うーん、思わず抱きしめてしまったが、ダメだ。
「パイススくん越しだと触れないんだったな」
「ご主人様……」
「大丈夫か? 気分は悪くなっていないか?」
「はい、大丈夫です。でも……」
なんだ? どこか調子が悪いのか?
酸素の量は? 魔力の方か?
どちらも異常は見られない……、そうなると、先のがまた新たなトラウマになったか?
「もう少し、このままでいていただけますか?」
「ん? あ、ああ……」
触れないし、互いの熱も感じられないのに、いいのか?
よく分からないが、姿勢を維持する。
すると、ほどなくしてシスも目を覚ます。
「んあ。ああーーー!! 何してるのーー!?」
キャスをその場に置き去りにして、シスの様子を確認する。
ペルセウスくんで無事を確認。異常なし。
念のために声をかける。
「シスも大丈夫か? 具合が悪いことはないか? バイタルは問題ないようだが、精神はどうだ?」
「うん、大丈夫! でもちょっと、もらしちゃった。えへへへへ……」
そこはペルセウスくんが自動検知して、パイススくんがきれいに洗い流してくれて……、いや、そうか。自律モード中だから機能していないのか。
「自律モード解除」
「ひょわわわわわわわわ!?」
俺のマスターキーからの強制操作を解除し、機能を復旧させたシスのペルセウスくんが、シスの不浄を洗い流している。
予告なく解除したからか、急激なその変化にシスが戸惑っている。
「パイススくんの浄化作用が働いているだけだ。すぐに落ち着く」
「ほ、ほわぁぁぁ……」
俺の言葉に帰ってきたのは、気の抜けた、どこか幸せそうなシスの顔。
……こいつ、また漏らしたな?
まぁいい、誰も見ていないんだ。気にする必要はない。
しかし、だ。
「どうしてキャスはそんな険しい顔をしているんだ?」
プルプルしているぞ?
なんだ? 寒いのか?
「もう、知りません!」
お こ っ た 。
怒った!?
俺至上主義のキャスが、怒っただと!?
「ど、どうした? 具合が悪いのか?」
「知 り ま せ ん!」
ぐおおおお!
やっぱり女って、分からねぇ!
――五時間後。晴天。
肉ダルマは救護と復旧の支援の指示を行っていたが、俺が帰ってくるや否や飛んで現れた。
いや、跳んで、が正解だろう。
ピヨンピヨンと土管工がごときハイジャンプで街中をショートカットし、眼前にあらわれた。
あっけに取られている俺たちを緊急対策本部の仮設天幕へと自ら案内し、必要な人員を集めて早速とばかりに報告をせがまれた。
記録官がいるので、これがそのまま正規の報告となるようだ。
面倒が少なくていいと、俺はそのまま口頭で報告をする。
なお、天狐姉妹は魔力的に限界だったので隣の天幕で休ませている。
「これが事の顛末だ」
「疲れてる中の報告、感謝するぜ」
「仕事だからな」
行きよりも帰りの方が神経を使った。
キャスは怒りっぱなしだし、シスも微妙に怒ってたし。
「この恩に報いるには、やはりあの程度では、たらんな」
腕を組み頭を捻る姿はどこぞのヒゲハゲを思わせる。上に立つヤツなんてのは似たような行動をするのだろう。
そうなると、この後で余計なことを言い出すのは目に見えている。
先手を打ち、さっさとこの場から立ち去ろう。
「ンなのどうでもいいから、早く休ませてくれ」
「ああ、そうだな。すまない」
実際、天狐姉妹とギスギスしたせいで、気疲れしている。眠くてふらつく頭を無理やり右手で支える。
まぁ、姉妹についてはなんだかんだ言ってそばを離れなかったし、嫌われてるわけではなさそうだから良しとしよう。
いい加減あくびをかみ殺すのも限界に近付いてきた時、肉ダルマと騎士一同が立ち並んだ。
剣まで掲げて……、これは、まさか、まさか!?
「我らの感謝、お受け取り下さい!」
まさかの最敬礼である。
余りの驚きに眠気がぶっ飛んでしまった。
「お前、それ、王族相手にしかやらないヤツじゃないか」
「ご存知だったか。やんごとなきご身分という噂は本当だったのだな。がっはっは!」
チッ!
カマをかけられた。頭が悪いなどと言っておきながら、やはりどうにも頭が回る厄介なヤツだ。
要警戒だと注意するも、肉ダルマはさらに容赦なく追い打ちをかけてくる。
「もし仮にお前の身になにかあれば、俺様たちはいつでも命をかけるぞ!」
俺を引き込もうとでも考えているのか。
貴族であればめったに言うべきではないことを軽々しく言う。
それだけ俺を評価し、信頼していると言いたいのだろうが…………
「ああ、そうかい。そりゃ頼もしいことで」
そんな言葉を信用する時代は、俺の中では当の昔に過ぎ去っている。
肉ダルマにならい、胸を張る騎士連中を冷ややかな目で見つつ、確認を取る。
「もう用事はないな?」
俺の冷ややかな対応に少し気おされつつも、肉ダルマも負けてはいなかった。
「いや、すまん。こっちからも簡単に報告があるんだ」
ヲイ!
だったら最敬礼なんてよけいなことしてないで、それを先に話せ。
優先順位が分からぬフリをする肉ダルマに、完全に相手の方が上手だったとようやく観念する。
弱みを見せまいと踏ん張っていたが、まだまだ終わらない報告会に、ついに机につっ伏くしてしまった。
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