騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第二章

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 ――翌朝。

 キィィィィィィンという、飛行機が飛んでいるような音が聞こえて目が覚めた。
 この世界に飛行機なんてある訳ないし、何の音だろうか。そんな疑問が湧いて、泡のように消えた。

「……」

 けだるい。
 気分がノらない。
 しかし起きねばならぬと薄目を開け、目に飛び込んできた光景に絶句する。

「うへへー、亭主殿ー」

 ……。
 肌色の絶壁まな板(干しブドウ二つ)が俺に密着していた。
 そのまな板の上部、丸い何かがついている場所を右手を広げ掴み、しぼる。

「ふぎゅ!? いたいのじゃ! なんで顔をわしづかむのじゃ!?」
「だれが亭主だ、ばかたれ!」
「あれだけワシの体をむさぼっておいて、なんたるいいぐさ! でもそんな冷たい態度も照れ隠しだと思えば、ぐへへなのじゃー」

 体をむさぼるどころか、何もせずに寝た。
 若干抱き枕にしたくらいで、普通に安眠してた。
 それなのに、こいつは何を言っているのだろうか。妄想癖でもあるのだろうか。

 もう、本当にこれ以上は関わりたくないでおじゃる……。

「おはようございます。湯あみの準備が整っております」
「キャス……」

 最近さらに健康的になって、抱き心地がよくなったキャス。
 お前を、はやく抱きたいよ……。
 世の中、普通が一番なんだって気付いたよ……。

 こんなこと、思い付きでやるもんじゃねーって分かったよ。

 なんかこのセリフ、デジャヴ感じるわー。






「実はワシは、ドワーフの王族なのじゃ」
「知らん、聞いていない。聞かない」
「亭主殿!?」

 飯を食ってさぁ出発だというタイミングでなにを言い出すのか。
 女ドワーフのあまりの空気の読めなさに思わずふらつく。

 キャスに支えられながら、なんとか持ち直す。

「俺が助けたのはただの女だ。それ以上でも以下でもない」
「俺の女……、てれるのじゃ!」

 言ってない。

「お前がなんでこの場で一人なのかはしらん。だが、そんなお前に付帯情報がついて、一体だれが得をする?」

 俺は王族を手ごめにようとした重犯罪者(未遂)。
 この領地は、他国の王族がおそわれた土地で、治安が悪いと領主は国に怒られる(未遂)。
 こいつをおそった戦士団は、王族をさらおうとした重犯罪者(確定)。
 そしてこいつの故国は、王族を危険にさらした阿呆ども(確定)。
 こいつ自身は、王族なのに一人で飛び出して、国の危機を招こうとした(確定)。

 だれも、どこも得をしない情報だ。
 女ドワーフ、もう のじゃ でいいか。のじゃ の額を指差して理解を促す。

 その小さい頭に詰まっている小さな脳みそで少しは考えろ、オラオラ。

「うっ。言われてみたらそうなのじゃ。ワシが浅はかだったのじゃ」

 この場に一人の時点で浅はかなんだが?
 乗合馬車に一人で乗った時点で、ちょう浅はかなんだが?

 痛む頭を揉んで、キャスに大丈夫だと告げて離れてから、強引に話を戻す。

「だから事情は聞かん。お前は馬車をおそわれ、俺に助けられ、礼を支払った。皿を洗った。以上だ」
「はう!? そ、それは……つまり……?」

 そう、俺とお前の関係はこれまでだ。街までは送ってやる。それ以上は知らん。
 故郷に帰りたいのであれば、商会のツテで送らんでもない。もうこれ以上関わりたくないとこれでもかとアピールをする。
 伝わったのだと思いたい。
 うつ向くその姿からは、のじゃ の感情を読み取れない。

 のじゃ はポソポソとつぶやき、がばりと顔を上げた。

「ワシを一人の女として手元に置きたいと……? ここまで熱烈にプロポーズされては、応えぬわけにはいかぬのじゃ!」

 言ってない。
 だれもそんなこと、言ってないから。

 なんなんだ、こいつ。脳みそお花畑なのか?


 頭の痛みが厳しくなってきた。
 だれかナロンくれ、ナロン。

「ワシの名はブリュンヒルデなのじゃ! よろしくなのじゃ! 亭主殿!」

 ドヤッと胸を張るチンチクリン。

 名前! その名前!
 なんでチンチクリンなこいつに、そんな大仰な名前がついてんだよ!?

 改めてキャスに手を握ってもらったが、それでも我慢の限界だった。

「帰れ! ゴーホーム!」
「いーやーなーのーじゃーー!!」

 なんてこったい。クソガキか!
 けり飛ばそうと足を出したが、小躍りするドワーフは的が小さすぎて避けられた。くそっ!

「話はまとまった? なら出発だねー。ぶっ飛ばすよー!」

 何ひとつまとまってないんだが、一体なにを見ていたんだこの駄目ギツネは。
 というか、泣き落としされて思わず運転変わったが、大丈夫なのか今さら心配になる。
 キャスも目を逸らしている。どうにも悪い方向で同じ思いを抱いたようだ。

 もうここにこのドワーフを置いて行こう。
 そう決心した時、ドワーフが口を開く。

「うむ、ワシは第三夫人でよいからな!」
「は?」
「キャス殿が第一夫人、シス殿が第二夫人、ワシが第三夫人なのじゃ!」

 はぁ!?

 キャスを見る。目を逸らされた。

 シスを見る。目を逸らされた。

 最初から、味方はここに、いなかった。


 って、天狐姉妹もなにそんな口八丁で丸め込まれてるんだよ!?

「もういい、めんどい」

 あー、折角のバカンスだってのに、どうしてこうも始まる前から終わってるのか。

 空はこんなに青いのに、先行きがすでに暗雲立ち込めてるわー。

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