騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第二章

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 ――時は遡り、季節は春。

「海へ行くぞ!」

 春と言ってもここいらは年中温暖な気候。
 日本と違い四季はなく、暦の上だけの話なので気分も何もない。
 それでも年度の考えは地球と同じ。一年ごとに区切りがある。税の計算上、その方が都合がいいからだろう。前の世界と変わっていないこういう所を見ると、人と言うのは案外どの世界でも似たような行動に出るのだと知れる。

 そして丁度今は新年度前の休息期間だ。
 騎士たちが魔法使いを加えたあらたな連携の訓練も兼ねてダンジョンに潜っているため、冒険者も全体が休み。


 そのタイミングでの、海だ!


  ……別に、遊びに行く訳ではない。
 はしゃぐシスを見て、そんな余計なことを言うつもりはなくなった。ポヨンポヨン揺れる胸部に気が逸れたからではない。

「わーい、うみー!!」
「海ですか。一度だけ見たことがありますが、広大でしたね」

 天狐族という、俺でさえ今まで聞いたことがなかった種族の二人が近寄ってくる。

 はしゃいでいるポヨンポヨンの方は妹のシスティ。
 常識人であるはずだが、頭のネジがゆるい。
 人見知りが激しく、そんな時だけは常識的。
 発想はピカイチで、俺でさえ知らない魔法の使い方をする。

 もう片方は姉のキャスティ。
 普段はおしとやかだが、こちらも思考がぶっ飛んでいる。
 俺至上主義を掲げる狂信者で、俺のためなら自分の胴体が上下分離するのもいとわないアホ。
 アサシンを通り越してNINJAしている。二段ジャンプも空中ダッシュも短距離ワープもお手の物で、魔力の効率的な使い方は妹を上回る。

 妹のシスがあごに人差し指を当てながら首を傾けて問いかけてくる。

「でもでも、今すぐに海に行くのー?」

 ならばお前だけ留守番だな。
 言葉にせず、目線だけでそう伝える。

「ええーーー!! そんなぁ! だってだって、なんで今すぐなのー!?」

 目線の意味を正確に理解したシスが頭を抱える。

 実のところ、このシスの主張はもっともだ。
 なんせ俺たちは三日前に新居へと入ったばかりなのだ。
 建てるのをすべてマッケインに任せた都合、部屋を完璧に把握していない。工房や風呂、鍛冶場に地下室まで完備している大豪邸なので、まだ探索が終わっていないのだ。

 それに地下牢なんてファンシーさの欠片も見当たらない部屋もある。これはこれで、どうして作ったのかマッケインに問いたださなければならない代物だ。
 一応は設備を整えたが、使う日が来たら、きっと面白い。いや、めんどうくさい。だから何の目的で作らせていたのか、理由を聞いておきたかった。

 あるならあるで有効活用したくなるのは人情だろう。

「この世界で未知の温水便座は果たして囚人に受け入れられるだろうか?」

 その反応だけは観測したい。
 最悪はスラムのガキを放り込んで、経過観察してみたい。観察欲がフツフツと湧いて出てくる。


 隠しカメラを警備ゴーレムに設置するよう指示を出しつつ、シスに投げやりな返答をする。

「理由はある、が、説明がめんどうだ」
「ええーーー!? お姉さまーーー!!」

 シスは家の掃除で留守番していたが、キャスは俺についてきた。ギルドで事情を共に聞いたので説明できるだろう。
 俺は旅行用の用具をちょいっと作ったり、家の防犯設備をととのえねばならない。

 忙しいのだ。

 警備ゴーレムから送られてくる映像を元に、設置に相応しい角度へとカメラの位置を微調整する。
 余念なく、油断なく。

 あ、そこ、もうちょい右、そうそう。
 うーむ、こういった作業をするためのゴーレムも追加で欲しくなるな。

 俺からの返答がこれ以上期待できないと察したシスは、姉のキャスへと泣きついた。

「お姉さま、教えて!」
「はいはい、分かりました。いい子だから大人しくて」
「はーい!」

 キャスは俺と一緒にギルドへ行き、海行きの顛末を聞いている。説明し損ねることはない。

 べ、別にキャスを信頼しているわけじゃないぞ? 合理的判断だ。

「ううー、この街ならまだいいけど、余所へ行くのはこわいなぁ。耳がばれたら、どうしよう……」
「そうね。その時は二人で自害しましょう」
「うん!」

 ズコッ!

 古典的なずっこけをかましイスから落ちてしまった。シリを強かに打ち付ける。

 だぁぁ! ヲイ、こら待てや!

「そんな物騒な考えは今すぐ捨てろ! えーと、これだ。ほれ、手を出せ。これをやる!」

 慌てて立ち上がり、亜空間から取り出した装飾品を姉妹に手渡す。

「イヤリング? お姉さま、きれいだね……」
「ええ……これもまた、ご主人様の作品でしょうか?」

 俺が与えるものが単なる装飾品とは思っていないようだ。
 マジマジとイヤリングを見つめる姉妹に、ぶつけたシリを撫でながら名前を伝える。

「それは、認識阻害イヤリング、コルウスくんだ」
「え?」
「認識阻害イヤリング、コルウスくん」
「こるうす、くん?」

 名前をたどたどしく反芻するシス。名前に文句があるのだろうか。

 苦情は一切受け付けんぞ?

「これ、とんでもない魔道具だと思うんだけど、気のせいじゃないよね?」
「ご主人様の作られたものなのです。とんでもないもので間違いありませんよ。でも、私もたしかにコルウスくんから濃い魔力を感じます。名前を知った瞬間から感じ取れるようになったのは、ペルセウスくんと同じく今ので使用者登録が済んだからでしょうか?」
「旦那様のお手製なんだから、それだけでパン三個はいけるけど、これはもっとすごいよ! ペロペロしたい……、クンクン」

 ズコッ!

 シスは何を言っているんだ? 同じ言語を使っているはずなのに理解がおよばないぞ?
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