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第一章
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姉妹がチートだった。
俺もチートだった。
「これは偶然、か?」
作為的、だれかの思惑のようなものをかんじる。
それはつまり、あれか。
「俺のスキルか?」
大量のポイントで大量のスキルを取った。
商人とか建築とか、造船とか意味分からんのもあったから、その中に出会い的なスキルが……
「あっ、類友……」
……、そんな感じの名前のスキルがあった気がするが、気のせいだ。
きっと気のせいだ。
そんなスキルがあるから、これからも姉妹と似たようなヤツが仲間になる可能性があるなんて、思い違いだ。
……思えば、俺の味方になってくれたヤツは総じてへんな連中ばっかりだったな……、は、はは……。
「ご主人様、ここが地図のうえでは終点です」
「そうだなー」
「でもでもー、これって、階段だよねー?」
下層の最深部、本来であればダンジョンコアが安置されている部屋の入り口に、下へと降りる階段があった。
「予想通り、ダンジョンが拡張をしてたみたいだな」
下層。
ゴーストなどの不死系が多く、闇属性のこい場所だ。物理攻撃が効きづらい、もしくは効かない魔物が多い。
前衛も武器に生命力や魔力をまとわせて斬りつければダメージを与えられる。
が、手間のほどは推してしるべし。
ことこの下層にかんしては、魔法使いのほうがはるかに燃費がいい。
「苦もなくここまで来られましたが、それがかえって不気味に思えますね」
「上の方が大変だったー。アントめー」
攻撃範囲のひろい風属性をもつ姉妹にとっては、下層の魔物なぞただの雑魚だ。
『エアロバースト』でゴーストは散り、レッサースケルトンは吹きとび、ホーンテッドバットなどの小型の魔物は余波だけでちぎれ飛ぶ。
本来ただの風なぞ魔力体のゴーストにはほとんど効かないはずなのに、シスはそれらをたやすく蒸発させている。
「闇って生命力から魔力に転換するけど、魔力そのものの操作もできるよね?」
ぶつけた『エアロバースト』の魔力の残滓をかき集めて霧状の魔法に再転換してゴーストにぶつけるなんて、俺にはできない発想だ。
俺は散った魔力を吸って自分の魔力を回復させるくらいしかしてなかったからな。ゴースト系にはシスのやり方が効率がいい。
やはり実戦は人を育てる、か。
「キャスが空間をとび、空中をけるのも見慣れた」
短距離ワープもおどろいたが、二段ジャンプや空中ダッシュまで使いはじめ、絶好調なNINJAのキャスはまるで格闘ゲームのキャラ。
魔法の可能性はむげんだい。
魔法は、なんでもありだな。
「ダンジョンの拡張とスタンピード。関連がありそうですが、どんなつながりなのでしょうか」
「広げたいならこっちに力まわすよね? なんで魔物を生むのに力つかってるのかな?」
俺が魔法の極意について逃避、いや、考察していると、姉妹は姉妹でダンジョンについて考察していた。
俺はそこに口を挟むことにした。
「ダンジョンの拡張には三種類あるんだ」
「三種類ですか?」
「えーと、ニョキニョキ伸びるのと、あと、なに?」
シスがいうのは、坑道が伸びるタイプだ。地下に根っこをのばすように、ダンジョンが徐々にひろがっていくタイプ。
「ひとつは共食いだ」
近場にダンジョンがあると食いあい、勝ったほうが取りこむ。
「もう一つが、脱皮型。今回のダンジョンの拡張方法だ」
「脱皮? 脱皮というと、エビやカニなどの甲殻類がおこなうものでしょうか?」
「ヘビもそうだよねー。古い皮を脱ぎすてて、新しいじぶんに生まれ変わりんぐ? あ、そうなんだ!」
「だからトードキッカーはいなくなり、新たなイビルマーダーブッシュが生まれたのですか」
「種族が変わってて脱皮どころじゃないよね!? 不思議!」
「そうなると、今まではイビルマーダーブッシュがトードキッカーの皮を被っていた、と考えるのが妥当でしょうか」
「そういうキノコ、あったよね!? 生き物の脳に寄生してあやつるの! それっぽい!」
ダンジョンにとってフロアマスターなど自分の手の一つにすぎない。俺たちにとっては劇的でも、グーがチョキになる程の差、動かした指の数が違うだけのもの。
俺たちが自分の魔力という同じものを、魔法により別の形にして使っているのと同じだ。
じゅうなんな発想力を持つ二人でも、そこには気付かないようだ。
「とにかく、脱皮した後の不要な皮を燃料にスタンピードを起こしている。それが俺の予想だ」
細かなところは学者にまかせるが、そんなに遠くはずれてはいないだろ。
「ダンジョンとは不思議なものですね」
「これが脱皮だったんなら、すでに一回り大きくなって……だから次の階層ができてる?」
各所でいっせいに起こったスタンピード。今回の一連の流れはそこにつながる。
その証拠が、あらたな階層への階段。
「今の仮説がただしいならば、これはダンジョン踏破のチャンスだ」
「脱皮直後で体がやわらかくなっているから、ですか?」
「その通りだ、キャス」
ああ、今から心が躍る。
かわり伊勢エビのような、全身がエビの身のようなプリプリっとした食感がたのしめるだろう。
こんな機会、一生に一度あるかどうかだ。
「無防備なダンジョンマスターを撃破し、ダンジョンコアを壊す! 楽しみだ!!」
「ご主人様がうれしそう……」
「よっぽど壊したいんだね。やっぱりなんだかんだ言って、旦那様はカッコイイっ」
前人未到のダンジョン最奥に、俺は足を踏み入れる。
最大限警戒をしているが、これといって気配を感じない。
階段を一歩一歩、足元を確認しながら下っていく。
「何も、いない?」
下りきった先には部屋がひとつ。
その奥に光る赤い玉。ダンジョンコアだけが浮いている。
「資料で見たとおりの形と色ですね。やや黒みをおびているから闇属性でまちがいないようです」
「表面が波打ってるね。ダンジョンそのものだけじゃなくって、ダンジョンコアもヤワヤワなのかなー?」
脱皮型ダンジョンの資料はすくない。そもそも実証されたものではなく、仮説のひとつにそれがあるだけだ。
だが、俺はいま真実にとうたつした。
あの資料にまちがいはなかったのだと。
「ま、誰かに教えたりはしないがな」
ギルマスには報告せにゃならんが、わざわざレポートを学会に出すつもりはない。めんどうだ。
「ダンジョンマスターがいませんね?」
「ああ、そうだな」
そこだけが気になる。
いくら拡張中だと言っても、これは妙だ。
どこかに隠れているのか?
それとも……。
「とにかくよけいなことをするなよ? 何が出てきても、まずは俺が対処する」
「はい、分かりました!」
「おっけー!」
ラスボスなのだ。警戒しすぎて損はないだろう。
その考えがまだまだ甘かったのを、部屋の中央へ向かいさらに一歩ふみだした直後に知る。
「うっ、気持ち悪い……。全身見られてるような気がする……」
最初に気付いたのはシス。身を縮こませ、両腕をさすっている。鳥肌でも立っているのだろう。
「前後に上下左右から気配!? これは一体!?」
キャスも異変に気付く。俺も当然気付いた。
「周囲全体に魔力反応!? なんだこれは!」
ダンジョンのラスボスが、俺たちに牙をむいた。
「ご主人様、危ないです!!」
その声と共に突き飛ばされる。
たたらを踏みつつも踏みとどまり、俺を突き飛ばしたキャスの方へと振り返る。
「このバカ! よけいなことをするなとあれほど言ったのに!」
「お、お姉さまぁぁぁぁ!!」
俺を突き飛ばしたキャスは、地面から突然生えた鋭利な黒い板により、ヘソのところで上半身と下半身に別れた。
真っ二つだった。
俺もチートだった。
「これは偶然、か?」
作為的、だれかの思惑のようなものをかんじる。
それはつまり、あれか。
「俺のスキルか?」
大量のポイントで大量のスキルを取った。
商人とか建築とか、造船とか意味分からんのもあったから、その中に出会い的なスキルが……
「あっ、類友……」
……、そんな感じの名前のスキルがあった気がするが、気のせいだ。
きっと気のせいだ。
そんなスキルがあるから、これからも姉妹と似たようなヤツが仲間になる可能性があるなんて、思い違いだ。
……思えば、俺の味方になってくれたヤツは総じてへんな連中ばっかりだったな……、は、はは……。
「ご主人様、ここが地図のうえでは終点です」
「そうだなー」
「でもでもー、これって、階段だよねー?」
下層の最深部、本来であればダンジョンコアが安置されている部屋の入り口に、下へと降りる階段があった。
「予想通り、ダンジョンが拡張をしてたみたいだな」
下層。
ゴーストなどの不死系が多く、闇属性のこい場所だ。物理攻撃が効きづらい、もしくは効かない魔物が多い。
前衛も武器に生命力や魔力をまとわせて斬りつければダメージを与えられる。
が、手間のほどは推してしるべし。
ことこの下層にかんしては、魔法使いのほうがはるかに燃費がいい。
「苦もなくここまで来られましたが、それがかえって不気味に思えますね」
「上の方が大変だったー。アントめー」
攻撃範囲のひろい風属性をもつ姉妹にとっては、下層の魔物なぞただの雑魚だ。
『エアロバースト』でゴーストは散り、レッサースケルトンは吹きとび、ホーンテッドバットなどの小型の魔物は余波だけでちぎれ飛ぶ。
本来ただの風なぞ魔力体のゴーストにはほとんど効かないはずなのに、シスはそれらをたやすく蒸発させている。
「闇って生命力から魔力に転換するけど、魔力そのものの操作もできるよね?」
ぶつけた『エアロバースト』の魔力の残滓をかき集めて霧状の魔法に再転換してゴーストにぶつけるなんて、俺にはできない発想だ。
俺は散った魔力を吸って自分の魔力を回復させるくらいしかしてなかったからな。ゴースト系にはシスのやり方が効率がいい。
やはり実戦は人を育てる、か。
「キャスが空間をとび、空中をけるのも見慣れた」
短距離ワープもおどろいたが、二段ジャンプや空中ダッシュまで使いはじめ、絶好調なNINJAのキャスはまるで格闘ゲームのキャラ。
魔法の可能性はむげんだい。
魔法は、なんでもありだな。
「ダンジョンの拡張とスタンピード。関連がありそうですが、どんなつながりなのでしょうか」
「広げたいならこっちに力まわすよね? なんで魔物を生むのに力つかってるのかな?」
俺が魔法の極意について逃避、いや、考察していると、姉妹は姉妹でダンジョンについて考察していた。
俺はそこに口を挟むことにした。
「ダンジョンの拡張には三種類あるんだ」
「三種類ですか?」
「えーと、ニョキニョキ伸びるのと、あと、なに?」
シスがいうのは、坑道が伸びるタイプだ。地下に根っこをのばすように、ダンジョンが徐々にひろがっていくタイプ。
「ひとつは共食いだ」
近場にダンジョンがあると食いあい、勝ったほうが取りこむ。
「もう一つが、脱皮型。今回のダンジョンの拡張方法だ」
「脱皮? 脱皮というと、エビやカニなどの甲殻類がおこなうものでしょうか?」
「ヘビもそうだよねー。古い皮を脱ぎすてて、新しいじぶんに生まれ変わりんぐ? あ、そうなんだ!」
「だからトードキッカーはいなくなり、新たなイビルマーダーブッシュが生まれたのですか」
「種族が変わってて脱皮どころじゃないよね!? 不思議!」
「そうなると、今まではイビルマーダーブッシュがトードキッカーの皮を被っていた、と考えるのが妥当でしょうか」
「そういうキノコ、あったよね!? 生き物の脳に寄生してあやつるの! それっぽい!」
ダンジョンにとってフロアマスターなど自分の手の一つにすぎない。俺たちにとっては劇的でも、グーがチョキになる程の差、動かした指の数が違うだけのもの。
俺たちが自分の魔力という同じものを、魔法により別の形にして使っているのと同じだ。
じゅうなんな発想力を持つ二人でも、そこには気付かないようだ。
「とにかく、脱皮した後の不要な皮を燃料にスタンピードを起こしている。それが俺の予想だ」
細かなところは学者にまかせるが、そんなに遠くはずれてはいないだろ。
「ダンジョンとは不思議なものですね」
「これが脱皮だったんなら、すでに一回り大きくなって……だから次の階層ができてる?」
各所でいっせいに起こったスタンピード。今回の一連の流れはそこにつながる。
その証拠が、あらたな階層への階段。
「今の仮説がただしいならば、これはダンジョン踏破のチャンスだ」
「脱皮直後で体がやわらかくなっているから、ですか?」
「その通りだ、キャス」
ああ、今から心が躍る。
かわり伊勢エビのような、全身がエビの身のようなプリプリっとした食感がたのしめるだろう。
こんな機会、一生に一度あるかどうかだ。
「無防備なダンジョンマスターを撃破し、ダンジョンコアを壊す! 楽しみだ!!」
「ご主人様がうれしそう……」
「よっぽど壊したいんだね。やっぱりなんだかんだ言って、旦那様はカッコイイっ」
前人未到のダンジョン最奥に、俺は足を踏み入れる。
最大限警戒をしているが、これといって気配を感じない。
階段を一歩一歩、足元を確認しながら下っていく。
「何も、いない?」
下りきった先には部屋がひとつ。
その奥に光る赤い玉。ダンジョンコアだけが浮いている。
「資料で見たとおりの形と色ですね。やや黒みをおびているから闇属性でまちがいないようです」
「表面が波打ってるね。ダンジョンそのものだけじゃなくって、ダンジョンコアもヤワヤワなのかなー?」
脱皮型ダンジョンの資料はすくない。そもそも実証されたものではなく、仮説のひとつにそれがあるだけだ。
だが、俺はいま真実にとうたつした。
あの資料にまちがいはなかったのだと。
「ま、誰かに教えたりはしないがな」
ギルマスには報告せにゃならんが、わざわざレポートを学会に出すつもりはない。めんどうだ。
「ダンジョンマスターがいませんね?」
「ああ、そうだな」
そこだけが気になる。
いくら拡張中だと言っても、これは妙だ。
どこかに隠れているのか?
それとも……。
「とにかくよけいなことをするなよ? 何が出てきても、まずは俺が対処する」
「はい、分かりました!」
「おっけー!」
ラスボスなのだ。警戒しすぎて損はないだろう。
その考えがまだまだ甘かったのを、部屋の中央へ向かいさらに一歩ふみだした直後に知る。
「うっ、気持ち悪い……。全身見られてるような気がする……」
最初に気付いたのはシス。身を縮こませ、両腕をさすっている。鳥肌でも立っているのだろう。
「前後に上下左右から気配!? これは一体!?」
キャスも異変に気付く。俺も当然気付いた。
「周囲全体に魔力反応!? なんだこれは!」
ダンジョンのラスボスが、俺たちに牙をむいた。
「ご主人様、危ないです!!」
その声と共に突き飛ばされる。
たたらを踏みつつも踏みとどまり、俺を突き飛ばしたキャスの方へと振り返る。
「このバカ! よけいなことをするなとあれほど言ったのに!」
「お、お姉さまぁぁぁぁ!!」
俺を突き飛ばしたキャスは、地面から突然生えた鋭利な黒い板により、ヘソのところで上半身と下半身に別れた。
真っ二つだった。
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