騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第一章

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「まずはお前たちの属性の適性を見る。『サモンボール』」

 『サモンボール』は各種属性を活性化させる魔法の玉だ。使用するレベルに応じて範囲が増えるが、今は一人分でいいから一番低いレベル一を使う。
 呼び出した『サモンボール』は十二個。火、水、風、土に、光と闇をそれぞれ二個ずつだ。六種類を一セットとして、それぞれ姉妹の前に浮遊させる。

「す、すごいです」
「呆けるな。この程度なんでもない」
「す、すみません……でも、すごいですよね?」

 本当にすごくないのだ。初級の魔法で、前衛でも大半の者が扱える。ただ見かけることは少ないだろう。

「珍しいだけだ。効果など本来は微々たるもので、魔力のムダと言ってもいい」

 そう、効果の割に燃費が悪いから誰も使わないだけだ。俺は使うがな。

「ひとまずそれぞれの玉に手をかざせ。それで属性の相性が分かる」

 あまり使われない理由のもう一つがこれだ。属性の相性が合わないと効果が出ない。しかも対応する属性の魔法しか強化しない。臨機応変が求められる戦いで、これはない。普通なら。

「私は、緑と、黒?」
「わたしも緑と黒!」

 双子だからか、二人とも同じ色と相性がよかったようだ。

「しかしキャスは黒がより強く、シスは緑がより強いか。同じように見えて個性がしっかり分かれているな」

 緑は風、黒は闇だ。天狐族と聞いたから光が強いのかと思ったが、違っていた。風は、森や山岳といったワードを聞いていたからなんとなく想像していた。

「まず属性を説明する。緑は風。中近距離の攻撃が得意で、支援は遠くまで飛ぶ。ただし離れたり規模が大きくなるほど燃費は悪くなる」
「規模が大きくなるほど燃費が悪くなる、ですか」
「たしかに族長も、大嵐を使うたびに息切れしていたもんね」

 大嵐、『テンペスト』か?
 前衛が扱うにしては中々に強烈な魔法だな。息切れしていたのは、魔力が足りずに生命力を魔力に転換して放っていたからだろう。
 そして、天狐族全体が闇属性の傾向にあると知れたな。

「もう一つ、黒は闇だ。近距離の攻撃が得意で、支援や妨害は遠くまで飛ぶ。この属性には、生命力を魔力に転換する力もある」
「命を削って、でしょうか?」
「違う、疲れるだけだ。お前たちの言っていた族長のようにな」
「そうだったんだ!」
「自分の命を奪う能力は、むしろ光の方だ。あれは己の器を燃やして威力を上げる。勇者なんかがそうだな」

 勇者。
 どこかにいるらしい無敵に近い存在。
 神がいるのだから当然いるよなってものだが、実態はかなり危うい。
 さっき俺がいった通り、勇者は光の属性が強く、自分の器を燃やしてしまう。熱血系主人公みたいな感じだが、本気で命まで燃え尽きてしまうのだからシャレになってない。

 出会うこともないだろうがな。

「そうだったのですか」
「勇者!? すごい! え、すごいの、それ?」
「シスが疑問に思うようにすごくはない。冒険者で一等級の伝説的な英雄が、大事件を解決した後に引退しているのは、大半が……」
「己の器を燃やし、力を失ったからですか?」
「そうだ。強力な力は身を滅ぼす。彼らは伝説的な働きの代償に、己の未来を自ら奪う」

 赤の他人のためにそこまでやるんだ。それで俺も助かっているかもしれんから文句はないが、俺自身がやる気は毛頭ない。
 たとえ、そう、俺自身が光の才能マックスだとしても、そんな道は選ばん。

 冒険者ギルドで順調に出世街道を進み、二等級に格上げされそうだが、是が非でもそんな道はお断りしたかった。
 したかったなぁ。

「まぁいい。それで、先ほど見ただろうが、俺は体術もできる。これは魔法使いでも必須だと考えている」

 真剣に俺の話を聞く姉妹。これなら教える手間も最小限ですみそうだ。

「だから属性の強化と共に、体を鍛える。基本はこの二つだ!」
「属性の強化と」
「身体を鍛える!」

 やる気があって結構。

「よし、それではこうだ」

 俺は『サモンボール』を呼び寄せて、風と闇以外を消す。それから風と闇を合体させる。

「『デュアルボール』。二つの属性を活性化させる魔法だ。これを常に持っておけ」
「は、はい……やはり、これ、すごいですよね?」
「わーい!」
「誰も使っていないという意味ではすごいだろうな。レア魔法だ。いずれ二人とも使えるようになるが、おそらく自らは使わんだろう」

 本当に燃費の悪い魔法だ。俺レベルであれば苦もなく使えるが、使った分を超える効果などでない。こうやって他人に渡して威力の底上げや回復の補助はできるが、その程度。

 だが、この玉は常に属性を活性化させる。だから属性の相性値がガンガン上がっていく。魔法を使わなければ上がらないものが勝手に上がるのだ。上限に達するまではチート級の魔法でもある。
 ではなぜこの魔法が使われていないのか。
 簡単だ。属性相性というものは途中までは容易に、それこそ自然に生活する中で上がる。それでも上がらなくなると、今度はこの『サモンボール』でもほとんど上がらない。属性値が四から五になるのに、『サモンボール』なしで四年、ありで三年かかると言われて、誰が使うのか。魔力のムダである。ただえさえ魔法使いは不遇なのに、ムダに魔力を使いたくない。

「俺は維持するのが片手間でできるからな。お前たちの属性値をすぐにカンストさせてやる」
「はい!」
「やったー! って、それもよく分かんないんだけどね」

 属性の影響については追々だ。

「今はそれよりも、装備を整えにいく。『デュアルボール』もそのまま持ち運ぶわけにはいかん。今は、ポケットにでもいれておけ」

 光る魔法の玉をそのまま肩に乗せて歩くわけにもいかない。ポケットも、冒険者装束ともなれば空きなどない。
 適当にポーチでも見繕って、そこに詰め込んでしまおう。

「ああ、そうだ。これだけは今すぐ覚えてもらおう。『収納ボックス』」

 普段は無詠唱で使う亜空間を呼び出す。
 黒々とした口が空中に現れる。

「この中に一度手を突っ込んでみろ」
「はい!」
「かしこまりー!」

 そして姉妹そろってズボシッと手を突っ込んだ。
 ちゅうちょなしかよ!

 自分で言っておいてなんだが、かなり危険そうに見えるんだが……。
 あとシス、軽い! 軽すぎるわ!
 お前の姉は重いのに、妹は逆に軽いのかよ!
 女って、女って一体……。

「あ、これは」
「『収納ボックス』!? うそ!?」

 戸惑う俺をよそに、二人はちゃんと魔法を習得できたようだ。
 この魔法、魔法の才能が一定以上あれば確実に覚えられる魔法で、習得方法は二つ。
 自力でがんばるか、こうやって他人の『収納ボックス』に触れるか、だ。
 俺はたまたま領地に行商に来ていた商人に触らせてもらったから運が良かった。俺が騎士不適合の魔法使いだってのが有名になってたのも、今思えば幸運だった。
 魔法使いだと知られて幸運だったなんて、あの時以外にないけどな。

 これを使えることは、自分が魔法使いだというようなものだ。リスクが高い。
 そして使えるようになる側も、そうだと宣言するようなもの。便利で、騎士とは違う利用価値のあるこの魔法が広まらないのもそんな事情だ。
 しかしそれは魔法使い固有のチート能力を放棄するようなものだ。だから地位も下がる。悪循環だが、どうでもいい。俺は使えるからな。
 騎士共も魔道具で亜空間を使えるし、その魔道具を持っているヤツは多い。だから目立つ行動さえしなければバレはしないのだが……。

「お前ら、それは魔法使い専用の魔法だ。絶対に、大っぴらにするな!」
「かしこまりました」
「かしこま! あいた! お姉さま、いたい……」
「調子に乗りすぎです」
「はぁい。かしこまりましたー」

 俺が注意する前にキャスが注意したか。

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